鈴木健.txt/場外乱闘 番外編 Vol.110

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ株式会社発行)では、毎月旬なゲスト選手が語る「鈴木健.txtの場外乱闘」が連載されています。現在発売中の2026年4月号では、第141回(本誌ナンバリング)ゲストとしてスターダム・鹿島沙希選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

※『月刊スカパー!』(ぴあ発行)の定期購読お申込はコチラ
※鈴木健.txt氏 X:@yaroutxt facebook:facebook.com/Kensuzukitxt

鹿島沙希(スターダム)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

自分の試合を見て感情が動いた
という話を聞くと、本当に嬉しい

鹿島沙希(スターダム)

人を信じる事が苦手だった自分が
God’s Eyeに入って変わった今が一番幸せ

この単独インタビュー前におこなわれたGod’s Eyeの共同取材を拝見させていただきました。メンバーの皆さんの鹿島選手に対する思いを聞き、よい人間関係をちゃんと築けているなというのが感想です。

鹿島 どちらかというと自分は人と接するのがすごい苦手で…仲良くなりたいけど話しかけたら迷惑かなって思っちゃうタイプで…。でも、God’s Eyeはみんなの方から明るく挨拶してくれたり、たわいも無い話をしてくれて、私の方も話しやすい雰囲気を作ってくれていたんで。それで距離も縮まって、自然と話す回数も増えた感じですね。

以前のユニットに所属していた時は、そうはならなかったんですか。

鹿島 そこまで信頼関係があったかと言われたら…今ほどはなかったかな。 前ユニットにいた頃、ある出来事があって…今まで誰にも話した事なかったんですけど ユニットメンバーの1人がミスをしてしまって でもそれはちゃんと確認して防ぐ事が出来なかった私も悪いなと思ったんですよ。 というか確認したけど無視された(笑) でも仲間の為に一丸となる、それがユニットという思いはあって。 でも…その人は100%私のせいにして 控え室にユニットメンバー集めて何人かに責められてみんなの前で「謝って」って言われて。 複数人vs私の状況。 何故か私がみんなの前で「すみませんでした」て謝りました(笑) 一丸のなりかた間違えてますよーって! あれは未だに納得いってないです(笑)
ユニットに入って、最初はみんなの事知りたいし仲良くなりたいしで、同じようにたわいも無い話をしたりもしました。でも、長く一緒にいるといろんな人のいろんな一面を見るようになっていくじゃないですか。他のメンバーの悪口だったりとか。人間性を疑うような話を聞かされた事もありましたし。後は…私30年間くらい親やその他、人の顔色伺って生きてきたので、今話しかけたらいけなかったな、この人嘘ついてるな、イライラしてるなとかもすぐ分かってしまって。それによって、けっこう距離感が変わっていった部分はあったと思います。
でも、God’s Eyeに関しては逆に、続けるごとに信頼が高まっていくユニットで。それはスターダムに入って初めてでした。今までと同じように続けても、いいところしか見えてこない。絶対に人の事を悪く言わない。そういう意味で、入って本当によかったと本心で思えるし、恵まれたなって。 周りがめちゃくちゃ気を使っていたのかもしれないけど… 私はみんなの事を心から信用しています。

ユニットが自分自身の人との向き合い方を変えたということになりますね。

鹿島 自然と変わってきている実感がすごくありました。 自分の中でこれはこうだ!という考えとか持ってるんですけど 今までは周りに合わせて絶対出さないようにしなきゃ。と思ってたのが 一意見として自分の考えを言ってみても良いんだと思えるようになりました。

自分というものをしっかりと持っているということですか。

鹿島 God’s Eyeに入ってからは こういうことをやったらみんながもっと楽になるとか、こういうことをみんなのためにしなきゃって第一に考えるようになりました。

それは自然に?

鹿島 はい。自分を仕向けたりとか、好かれたいからとかじゃなく、無理をしなくてもまずみんなのことが思い浮かぶようになった。

ひらたく言うと、大人になったんでしょうか。

鹿島 それ以上のことをみんなにもしてもらっているから。試合中も、守ってくれているというのを感じる時があります。私は、試合においては戦力外なのに…。だから、それ以外で何ができるかって常に考えるようになったんです。

先ほど、メンバー間で「沙希さんは誰よりも早く水や氷のうを持ってきてくれる」という話が出ました。セコンド業務で学ばせてもらっていると。

鹿島 言われたけど、無意識だと思います。それが当たり前だから。そう言ってくれたみんなも、私の試合の時は終了のゴングが鳴ったらすぐに駆けつけて「大丈夫ですか!?」って言ってくれるし、同じことをしているだけです。

God’s Eyeの中でも朱里選手とは特別な関係性が築けました。

鹿島 さんざん朱里さんのことは煽ったりおちょくったりしてきたのに、自分がやられていると助けに来てくれる。こんなに見返りも求めず、他人のために尽くしてくれる人っているんだ!?っていう。ユニットに入ってからも常に一緒にいます。控室でもずっと喋ってて、プロレスの話もたくさんしますし、試合の反省はもちろん、最近楽しかった事とか日常会話も沢山します。本当に特別な存在です。 でも練習の話が出ると、そっと逃げます(笑)

スターダム旗揚げ初期から続けてきて、今が一番いい環境でプロレスをやれているんですね。

鹿島 はい、今が一番幸せです。

その一番幸せなタイミングで引退するという。

鹿島 でも、自分の中での納得はあるんで。私がスターダムに入った頃と比べると、今は見ている風景もガラッと変わって…同期(鹿島は唯一の2期生)は元々居ないからそういう関係値とかは特にないし。ただ、悪いようには変わっていないと思っていて。昔は昔で、今は今のいろんなやり方がある。昔はこうだったのに、なんでできないのみたいにはなりたくないので、今のやり方を見守っています。

感覚としては、見守っているなんですね。

鹿島 自分が教えることは特にないです。今のスターダム生え抜きで2期生が一番古いって言われますけど、間で5年もやめてたし、周りからしたらただの出戻りの人じゃないですか。そういう人間がアドバイスなんてできないです。 団体は違えど同じプロレスラーを目指してデビューした事にはみんな変わりないから、正直生え抜きどうこうなんて自分は関係ないですね。 何か聞かれたらもちろん答えますけど、偉そうに「もっとこうして!」とか言えないです。雑用にしても、やり方は昔とは違うから、今の人に任せて自分は早く帰ります。

そういう時も帰るのが早い。一度退団したことはご自身の中でマイナスとして残っているんですか。

鹿島 はい、マイナスです。本当はやめたくなかったので。

体調不良により自ら休養を望んだということになっていますが。

鹿島 そんな事になってるんですね。やめさせられたというか、やめざるを得ない状況が当時はあって。辞めたくもないのに、ある人に自分の口で「辞めたい」って言えって脅されて、泣きながら当時の社長に「辞めたいです」て言いました。社長もびっくりですよね(笑)当時の事は今でも鮮明に覚えてます。そこはすごく悔しい思いが残ったし、今でもあります。なりたくてなったのに、キャリア2年ぐらいだったからやり残したどころか、まだ何もやっていなかった。

5年間の休業中は、いつか戻りたいと思っていたんですか。

鹿島 脅された事がトラウマであまりプロレスを思い出さないようにしていたんですよ。でも、なんだかんだで頭の中には毎日ありました。何も夢がなかった自分に初めてできた夢がプロレスラーだったので、自分の納得がいくところまでやりたいっていう気持ちは捨てきれなかったですね。

ボロボロになっても武藤さんと
闘う棚橋さんを見て泣いた原体験

となると、紫雷イオ選手(現・WWEのイヨ・スカイ)と再会して「戻っておいで」と言われたのは、まさに神の導きでしたね。

鹿島 そうです。イオさんには本当に、本当に感謝しています。戻ったら、プロレスをできることに幸せを感じられました。今は「早く終わらせる」とか言っていますけど、当時は練習で自分に変化が出るのが凄く楽しくて休みの日も1日中練習する位練習大好きでした。ただ、毎日の生活の中で常にプロレスのことを考えたり、常にプロレスの動画を見たりして、本当にプロレスが好きだなって思えたんですけど、見れば見るほど自分の理想として抱いた形にはなれないなって思うようになっていきました。 私は新日本プロレスが大好きで毎日ワールドや現地で見ています。石井智宏選手、デビット・フィンレー選手の試合は数え切れないくらい見ました。特に石井智宏選手はファイトスタイルが世界で1番好きで尊敬する憧れの存在です。 G1だったりNEVER戦だったりもうとにかく本当に凄くて、本当は石井智宏選手のようなレスラーになりたかったです。 でも私を見てください(笑)カリカリのヒョロヒョロですよ(笑)おまけに逃げるの大得意(笑) 真反対ですよね。 じゃあ、何ができるのかと考えた結果が今です。

省エネ、怖い、自分は強くない、嫌だといった後ろ向きの要素を前面に出すというのは、逆転の発想ですよね。

鹿島 なんて言うかな…みんな、目指しているものってやっぱ1番じゃないですか。スターダムで言ったら赤いベルト(ワールド・オブ・スターダム王座)とか、勝ちたい、優勝したいとか。でも、人間の感情って他にもあるわけで、他の人たちが出さないようなことを素直にさらけ出したら「痛いの、やだ」とかいっぱい出てきたんです。それって、別に私だけじゃなく試合に出ている人も持ってる感情だと思ってて、余程のドMじゃない限り我慢してると思う。見ている人は、そういう頑張っている人に勇気をもらって、強い人が好きなのかもしれないけど、社会人で例えるなら「あー、今日も会社に行きたくないなー」って口に出しながらそれでも出社する。そういうことを考えた時に、自分も怖いとか痛いの嫌とか言ってもいいかなってなったんです。 ただ、プロレスが嫌って意味じゃないですよ。

ネガティブなことを発信することで、自分の評価が下がるという不安は抱かなかったのですか。

鹿島 全然! 前ユニットに入って悪い事してた時とかアンチにメッチャ言われまくっていたので(笑)「どうせ勝てないだろ」とか「いつまで経っても弱いし、実績もないじゃないか」ってさんざん言われてきたから、元々無い評価が下がるとかクソどうでも良い。だって私、弱いんだからしょうがないじゃん!みたいな感じで。そうだよ、弱いから逃げるんだし、痛いのやだから逃げるんだよって。プロレスって正解がないからアンチが正解でもないし、自分が言っていることも正解ではない。正解がないからなんでも許されるじゃないですか。だから別に弱いと言うことによって自分がどう見られようと、なんとも思わなかったですね。

選手間では、そういう打ち出し方に関してはどう受け取られたんですか。

鹿島 どうでしょう…給料泥棒とか思われているのかもしれない。「仕事しろ!」はリング上でも言われますけど。でも、みんなが守ってくれる♪

なんで一人だけ強さを求めないんだとはならず、許容されてきたんですね。

鹿島 いや、本心はどう思っているのかわからないですよ。でも、私自身は「これが自分だな」って思えました。一番しっくりきました。嘘偽りなく生きている、試合の中でありのままを映し出している。嫌なことからは本当に逃げちゃうんで、そこに嘘がない。

日々の練習でも、周りが見ていてもできない、疲れたとなったらやめてしまう?

鹿島 あ、練習いってないんで誰にも見られていないです。

練習していなくても、そのけっして分厚くはない体で相手の技を受けられるものなんですか。

鹿島 いや、逃げてるのであまり受け身を取らないです。それまでは周りを読み、状況を見すぎて考えているうちにポンってやられていたんですけど、今はリングに上がって第一に頭にあるのが「逃げる」。 仮にシューティング合宿にぶち込まれて 「逃げる、これも技術のうち」て言って蹴り倒されてもそこの考えは変わらないです。 試合は毎回がライオンの檻の中に入れられた気分ですね。

毎回がライオンの檻の中であっても、入りはするわけですよね。本当に逃げるのであれば、リングには上がらないはずです。何が自分の足を檻の中に進めるんでしょう。

鹿島 なんだろう…これは答えになるかどうかですけど、リアルな鹿島沙希を見せるために、あえて作戦とか全く用意しないでリングに上がって、思いつきで「ここでこれをやったらおもろいかも」って思い浮かんだ事はやってみようってなります。 この前、朱里さんとやった時も(2・7大阪で一騎打ち)、怖くて怖くて手を出せないのにゴング鳴って朱里さんのことをぶっ叩いたらおもろいかなって…気付いたら手が出てました(笑)興味本位の好奇心から。

檻の中の好奇心。それは、見る側目線ですよね。

鹿島 そうです。客観的に見て、鹿島沙希は逃げるだろうってみんなが思っているから、その逆のことをやったらどんな反応になるだろう。逃げると思わせておいてちゃんと闘ったらおもろくね?って。怖いという感情は軸にあるけど、それ以上に見てる人の期待を裏切っていく事を考えてます。そこはもともとすごいプロレスファンだったし、いまだにそうなんで、みんなも自分も見た事ない事をやってみたくなりますね。

常にプロレスについてそこまで思考を働かせていながら、鹿島沙希というプロレスラーのパブリックイメージは、そう見られていないと思われます。損といえば損ですよね。

鹿島 損…うーん、そうなのかな。ただ、一貫しているのはちゃんと勝ちを狙っています。逃げるんだけど、勝つ。

だからこそ、起死回生のような技が生まれるわけで。今は、プロレスをやることでどこに喜びを感じていますか。

鹿島 キモオタからの声ですね。試合中の応援ももちろんなんだけど、たとえば手紙で伝えてくれるとか、サイン会で直接伝えてくれる声がすごく嬉しいです。なんだろう、キモオタの存在を感じる時が一番嬉しい。ありきたりかもしれないけど「沙希さんの試合を見て元気をもらいました」ということを言われたり、自分の試合を見て何かしらの感情が動いたという話を聞いたりすると、こんな自分の試合でも誰かの何かになっているんだって思える。それが本当に嬉しい。

ちゃんと自分以外の誰かのために、自分がなれているという実感ですね。

鹿島 それは、自分が今のようになる前から言われて一番嬉しかったことでした。自分がそうだったから。私が初めてプロレスの試合を見て凄い!って思ったのが、イッテンヨンで見た武藤敬司さんと棚橋弘至さんの試合で(2009年)その時、プロレスを見て初めて泣きました。

ほう。

鹿島 ボロボロになりながらも諦めず頑張って戦う棚橋さんの姿に心を打たれました。人の感情を動かせるプロレスラーに対するあこがれがあった。だから今まで、私の試合を見て感動したと言ってくれる声があるから、やってこられたし。

それを今のスタイルで実践しているというのも面白いです。

鹿島 他の選手には向けられない前向きなコメントが増えました。「俺も頑張らなくてもいいか」って賛同してくれる。普通なら「ちゃんとやれよ」と言われるところですけど「鹿島選手みたいに休み休み休みます」「鹿島選手が欠場なので僕も仕事休みます」とかって声が来ると「いいぞ、もっと休めよ。それでいいんだよ」って思いますね。

無理してネガティブになるよりも健全と言えます。

鹿島 そうですよね。無理しないことって大切じゃないですか。世の中の人たち、頑張りすぎですよ。

もしかすると鹿島選手の姿勢が今の時代にもっとも合っているのかもしれません。実際、そうやってお手本にされているわけですから。この取材は正式な引退発表会見の前におこなっていますが、1・10後楽園ホールにおける引退宣言を唐突かつ、しれっと出したのはあれが自分の性分だからですか。

鹿島 やっぱり、人がやらない事をやってみたくなりますね。元々欠場が多かったので、引退した後も「なんだ、鹿島また欠場か」くらいの気持ちでいて欲しいです(笑)自分は、あれくらいでいいんです。