鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ株式会社発行)では、毎月旬なゲスト選手が語る「鈴木健.txtの場外乱闘」が連載されています。現在発売中の2024年12月号では、第125回ゲストとして大日本プロレス・登坂栄児社長が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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登坂栄児(大日本プロレス社長)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

来年30周年を迎える
タイミングでの“世界”。
その裏にグーグルの存在

登坂栄児(大日本プロレス社長)

インディーの鬱積した気持ちを
溜めるために2年間温めていた

大晦日の後楽園ホールにおけるプロレス興行は2006年の「インディーサミット~カウントダウンプロレス」からスタートし、プロレスサミット→天下三分の計スペシャル→大晦日年越しプロレスとテーマを替え、ここ数年は大日本プロレスとDDTプロレスリングが中心となったシャッフル6人タッグトーナメントを開催してきましたが、19年目にして大日本プロレスの単独開催という形になりました。しかも「キング・オブ・デスマッチ・ワールド・グランプリ・トーナメント」と、デスマッチに振り切った企画になります。“ワールド”とは大きく出ましたね。

登坂 発表会見で言った通り、トーナメント参加8選手の比率はむしろ日本人の方を少なくしたいと思っているぐらいのワールドです。ただ今回は、よくある下交渉のようなものを一切せず、完全オープン募集制なので締め切るまで(11月末予定)どうなるかわからない。我こそは!と思う選手はどんどん連絡してきてほしいので、結果的に日本人の方が多くなってもそれはそれでかまわないです。

出たいやつはみんな来い!みたいな。

登坂 とはいっても枠は8人と決まっているので、トーナメント以外のカードで出場してもらうというのも含めての募集です。なんなら最初は8人の中で想定していても、その後に名乗りをあげた選手とタッグを組んだ方が面白いと思ったら、そっちにまわってもらうことになるやもしれません。実績順や知名度順で8人を決めるということはないです。

サバイバル飛田が名乗りをあげるものOKですか(登坂、鈴木、飛田は年末恒例トークライブ「チェックマン」仲間)。

登坂 もちろんです!時代が変わったのであまり非常識なことはできないと思うんですけど、この12月31日と1月1日にまたぐ時間は時空が歪んでいるという認識で、やや非常識に近いことをやりたいと思っておりまして。

コロナ前以来の年越し(24時過ぎまで開催)になる?

登坂 越えたいと思っております。現実問題、デスマッチトーナメントを8人でやるということは、最大3試合やらなければ優勝できない。コンディションを考慮したり、アクシデントを想定したりするとプレイヤー側だけではなく運営サイドもアイテムの準備やキャンバスの張り替えといった設営に通常興行以上の時間がかかると思われます。

確かにデスマッチはお片づけタイムこみですよね。

登坂 トーナメント以外のデスマッチも、出場する選手たちがデスマッチファイターとして知らしめられる機会にしていただきたいと思っているので、そこはそれ相応のアイテムと設営を要す。もちろん興行はやるまでキッチリと何時間なんて決められないですから、もしかすると24時前に終わるかもしれないんですけど、イメージとしてはむしろ年を越す前に終わらせる方が難しいのではないかと。

トーナメント7試合、それ以外でたとえば3試合組んだとしたら9回分のインターバルが入るわけですからね。これまで年越しを想定した回は20時開始でしたが、今回は18時半開始でも年を越す可能性が大だと。

登坂 逆に年を越さないようにしようと思えば、もっと開始時間を早めることもできたんです。ただ、私も最近は比較的全方位外交をしている中で、全日本プロレスさんも大晦日に開催しますよね。

14時より国立代々木競技場第二体育館大会があります。

登坂 その時間に被せる必要はないと思いまして。

それは両方見たいファンの皆さんに対し親切です。

登坂 ファンの皆様にも、1興行よりは2興行、3興行見ていただきたいですから。

仮に全日本プロレスに名乗りをあげたい選手がいたとしてもラダー出場できますよ。

登坂 斉藤ブラザーズに名乗りをあげていただきたい。あんまりこういうことを言うとアレですけど。

そもそもワールドデスマッチトーナメントという案は、いつぐらいから考えていたんですか。

登坂 2年ぐらい前から。

そんなに前から温めていたんですか。なぜもっと早く着手しなかったんですか。

登坂 景気が悪かったから。違います。円高? 違う、円安で。

外国人を呼ぶのが難しかった?

登坂 本当のところは、インディー団体っていうのは鬱積した気持ちというものが爆発につながるわけです。2年間、鬱積を溜めることによって、12月31日にどれほど爆発するかということです。思春期のようなものですよ。

テクノブレイクのような。

登坂 そうそう。その爆発させるための“溜め”に2年を費やしたと。

それを大晦日に持ってきたのは? たとえばですが、大晦日は例年通りの形でやって、デスマッチトーナメントは別の日でもできたはずです。

登坂 半年前…4月か5月ぐらいですかね、僕の方から「12月31日はこういう企画を考えているので、今回はこれでやらせていただけませんでしょうか」とDDTさんにお話しました。

DDTは12月28日に両国国技館大会があるので、大晦日まで手がまわらず、それで今回は運営に入らないとなったわけではなかったんですね。

登坂 そうなんです。ほかの日でもやれると今、言われましたけどこれはね、大晦日パワーが必要なんですよ。大日本プロレスは毎年12月30日と1月2日に後楽園ホールをやってきましたし、今年も同じです。その間に年越しプロレスもあったわけで、なぜできたか? それは大晦日パワーなくしてできなかったです。ラジオの深夜放送と同じだと考えてください。夜中に起きてラジオを聴くのって、ちょっとおかしなテンションになったじゃないですか。アレですよ。12月31日は何をやってもいいんだっていう気持ちに、お客様がなるわけです。日本は法治国家ですけど、あの空間だけは治外法権になる。それは我々も一緒なんです。20年近く年越しプロレスをやってきた中で、大晦日ならではの力を感じてきた上で、それをもっと爆発させる。だから12月31日にこだわったんです。

それにしても…4日間で3後楽園大会ですよ。

登坂 12月30日と1月2日はウチの純然たる興行ですけど、12月31日は世界の力を集めたいわけです。世界レベルの鬱積を大噴射させる。

現実問題として、DDTと分担してやってきた運営を大日本のスタッフさんだけでやることになるわけですが、営業面も含め負担も今まで以上のものになりますよね。

登坂 ……それ、今、健さんに言われるまで考えていませんでした。まいったね、こりゃ。いやいや、だからこそお客様に集まっていただいて奮い立たせてください。

あとは大晦日に後楽園ホールでプロレスを開催することを途絶えさせたくないという思いも大きかったのでは。

登坂 もちろん、ありました。やっぱり、格闘技さんが狙っているんじゃないかとか思っちゃうわけですよ。正直、他団体に取られたくないっていうのはないんです。どの団体が開催しても大晦日のプロレスが続けばいいっていうのが本心で。今回も、大日本プロレスが主催という形にはなりますけど、ワールドワイドにみんなが参加できる場という意識でやるので、必ずしも大日本でなくていい。インディーサミットの頃は多くの団体から参加して、天下三分の計でKAIENTAI DOJOさん、DDTさんと3団体になって、この数年はDDT&大日本だったのが、ついに大日本単独になったかと思われるかもしれませんけど、逆にワールドですから拡張したと思っていただきたい。日本に限らず世界中のインディーシーンも、規模が小さくなってきている現状があります。情報を密にとると、けっして楽な状況ではないことが伝わってくる。昔だったらアメリカってすげえな、ヨーロッパもいいよなってなっていたのが、どの国のインディー団体も苦戦しながら、それでもデスマッチを維持してやっていると聞く。国によっては日本よりもデスマッチをひんぱんにできる土壌にないところもあるんです。それなら日本に来てもらって、デスマッチファイターの見本市じゃないけど、日本発信で海外に向けてこういうデスマッチファイターがいるんだぞというのを広げていきたい。

観客動員のことを考えると、未知数の外国人選手を集めるよりも日本で実績や支持のあるデスマッチファイターを集めた方が確実ですよね。

登坂 その発想は、健さんもトシをとったということですよ。昔を思い出してください。インディー団体の選手は名乗りをあげたところで相手にもされなかった。それによって見返してやるというエネルギーが生まれたのを、実際に見ていただいたじゃないですか。もちろん名のあるすごいデスマッチファイターもラインナップしたいですけど、むしろ名もなき選手…語弊があるかもしれませんけど、第1回SUPER J-CUPのハヤブサ選手のように、その大会に出たことで世間に知れ渡るようになる、そんな人材に出てきてほしいと思っていて。それは日本じゃなくてもいいわけです。トップ同士の闘いに関しては、FREEDOMSさんと交わる形でなっていくと思われるので、それはそれで、お互いの団体の中で見ていただきたいです。だからね…目を閉じてください。「ストリートファイターⅡ」のオープニング画面に世界地図があって、世界中の強豪の顔写真がゴーッと日本列島に集まってくるのが見えますか?

ええ、まあ。

登坂 そのイメージですよ。世界中っていうことはアメリカだけではない。国も政治も宗教も関係なく、デスマッチはボーダーレスですから。

それで、仮に応募者が8人に満たない場合は…。

登坂 (さえぎって)健さんもそういう守りに入るようになりましたか。これから前向きにやっていこうっていうのに、ダメな方を想定すると。

いやいや、僕はむしろ8人集まらなかったら集まらなかったで面白いと思うタチなので、後ろ向きな意味で言ったのではないです。

登坂 仮に6人しか集まらなくても、やります。黒い影で伏せられているカードには、絶対に空から強豪が降りてきます。俺はギリシャあたりが怪しいと思ってんだけどね。金色(こんじき)のクロスをまとった男が舞い降りてくる姿が目に浮かぶでしょ。あとは「ダーク神谷」とか違う世界から降臨する人間が出るかもしれない。

日本の年越しプロレスの
発祥はデスマッチ団体

会見ではダークじゃない方の神谷英慶選手が1番目に名乗りをあげましたが、選手にさえこの企画のことは言っていなかったんですよね。

登坂 スカパー!の担当者さんから「内部の方に伝わっているんですか?」という心配のメールが来た時は大丈夫ですって返したんですけど、言っていなかったですね。

9月の後楽園大会で、正式発表前なのになんの前触れもなく口にしたのでSNS上がざわつきました。

登坂 それもスカパー!さんとのやりとりの中で確認作業が続いて、ちょっと遅れがちだったのでここはフライングしてやろうと。要はそこで既成事実を作ってしまおうということですね。実は後楽園ホールさんに、年を越してもいいよという返事もあの時点でもらっていなかったので、動き始めれば周りはついてくるという思いでした。そのあと、年越しでもいいよと言われましたし、もうあの時点では昔の自分を思い出したし、なんならグレート小鹿がのりうつった気がしました。

極道社長としてトップダウンでやりまくっていた頃の小鹿さん。何一つ決まっていなければ、ほぼ誰にも言っていないのに明かしたのは、既成事実作りだったと。昭和の新日本プロレスの新間寿さんのスタイルですね。

登坂 それもオープニングでは言っていないのね。休憩時間にフライングしてやろうと思いついて。言ったらもう俺の中では、はじめ人間ギャートルズのお金みたいな石が動き始めたよね。実際に、こうやって大日本プロレスとしてはたぶん3年ぶりぐらいに『月刊スカパー!』さんの取材を受けるという形を生み出したじゃないですか。

何言っているんですか、5月の横浜武道館前に御社のチャンピオン(青木優也=当時のBJW認定世界ストロングヘビー級王者)にご登場いただいております。

登坂 なるほどね(明らかな聞き流し)。

この取材を受けている時点(発表会見と同日)では、選手たちは自分が出るのかどうかはおろか、出たいけれども大会の全貌がよくわからないという状況でしょう。

登坂 大日本の選手であっても、ちゃんとgmailで申し込んでもらいますよ。そこはほかの選手と同じ条件でやらないと。重要なのは、8人の中に入れなくても諦めないでいただきたい。自分たちなりに主張して、世界に向けて発信する場所だと思って主張してもらえるのであれば、こういう角度で起用するということを考えますから。

あと、女子選手は応募可能なのでしょうか。

登坂 いいことを聞いたね! 先ほども言った通り、このトーナメントはボーダーレスですから性別は問いません。

性癖も?

登坂 手癖が悪いのはダメだけど、基本的にはすべて大丈夫。男性vs女性、女性vs女性の可能性もある。

確かに今のデスマッチは男女ボーダーレスです。2、3、頭に浮かぶ選手がいますが。

登坂 すべてをフラットに見て、面白い対戦カードになる人に応募してもらえたらと思っています。

これ、ある意味今までの企画の中で一番他力ですよね。

登坂 そうですね。現時点で柱として立っている爪楊枝は僕しかいないわけです。ここにどれだけの数が集まってくれるかです。梁山泊、知ってます? 最終的に108人集まるんですよ? 最初は何人かしかいないんですよ。それを狙っています。最終的にはデスマッチの梁山泊をね。

団体としてこんなに長くやってきたこのタイミングで梁山泊を掲げるというのもアレですね。普通は初期に目指すものでしょう。

登坂 違います。来年、大日本は30周年ですから。そこで新たな塚を立てなければならないということです。デスマッチの…“死の塚”ですよ。

字ヅラ的にいいことなのかなんなのか。

登坂 屍の塚が積み上げられてきた上での今ですから。まあ、屍っていうのはヘンですけど先人のデスマッチファイター…松永(光弘)さん、山川(竜司)さん、シャドウWXさんというレジェンドがいて、その上に我々は立っているんですから、さらに積み上げていこうということですよね。

日本のプロレス界の2024年がデスマッチで締め括られることになります。

登坂 周りがそう見てくれればいいですよ。箸にも棒にも引っかからない可能性はありますから。それこそ、全日本プロレスの代々木大会で今年のプロレス界も終わりという記事が出る可能性もある。そうなったら、よく言ってくれたなという気持ちでやりますけどね。むしろ、俺たちはここで踏ん張ってやっているんだということを伝えたいです。

もともと史上初の年越しプロレスをやったのがデスマッチ団体のW★INGプロモーション(1992年、京大西部講堂)だったことを思うと、デスマッチと年越しは親和性があるとも言えます。

登坂 今年はIWAジャパンの浅野(起州)さんが団体の終活をしたじゃないですか。僕の中にはW★INGさんもFMWさんもありますけど、そういったデスマッチの歴史を現在にリアルタイムで体現しているのは、自分たちとFREEDOMSさんだと思うので。それを後楽園ホールでやらせてもらうことに関しては、しっかりと受け止めたいと思います。

ただ、先ほども出ましたけど選手は優勝する上で一日3試合デスマッチをやらなければなりません。大日本では、過去に例がありましたか。

登坂 一騎当千で2試合はあったと思うんですけど、3試合はなかったかもしれません。未踏の領域ということで二の足を踏む選手もいるかもね。

3試合やるのも平気だ!っていう人しか名乗りをあげてこないですね。

登坂 あとは、一試合でインパクトを残そうとする選手もいるかもしれない。

トーナメントでなくてもいいから出してほしいということですか。

登坂 いや、それは中途半端だからダメだな。やっぱり基本的にはトーナメントに出たいという人間を…だって、選ばれし8名ですよ?

選ばれしって、選ぶのはあなたでしょ。

登坂 ウハハハハッ、そうなんだけどね。もうね、なんであの選手はトーナメントに出られるのに、この選手は6人タッグマッチなんだ?って言われてもいいと思っているんで。悪役を買ってでも自分の一存で決めます。ただ、お客さんの声はあっていい。

開催が発表されたらファンの方々が「この選手がいいですよ」と推薦してくるかもしれないですね。

登坂 もちろん、本人がgmailで送ってこなければ出場はできませんけど、そういう声は聞かせていただきたいです。そうやって、下に潜っていくのではなく外に広げていきたいと思います。

今現在の、プロレス界におけるデスマッチの立ち位置に関してはどのように受け止めていますか。

登坂 おととい(格闘探偵団で)石川雄規を見ちゃったから、一緒だなってなっちゃうんですけど、対世間ですよ。時代の変化によってやれないことが増えてきた中で突破力というか、デスマッチはこれからも残っていくということをしっかり表現したいんですよね。そもそもプロレス自体が乱暴だとか暴力だとか今でも言われる。それによって吹き溜まりの中で詰まっちゃうことがあるのはよくないと思うんです。まあ、偉そうなことを言っちゃいましたけど、俺たちは好きなことをやって生きているんで、好きなことをやれている喜びを31日も伝えたいと思います。

大日本の現状を見渡すと、神谷選手が史上初となるデスマッチとストロングBJの2冠王者になる中、人員的には一時期と比べて減っています。

登坂 人数的にはストロングの方が多いですし、逆に少ないながらもジュニアは発信力がある。その中でチャンピオンの神谷選手以外のデスマッチファイターがどうしていきたいと思っているのか、僕も気にはなっています。これは極端なたとえ話ですが、神谷選手がデスマッチとストロングのベルトを統一すると言い出したら、デスマッチの人たちは反発するのかとか。

実際に言い出したら、会社としてはどうするんですか。

登坂 だからそこで選手に反応してほしいんですよ。僕がこうするっていったら、昔の僕と本間朋晃選手のようになってしまうでしょ。僕がギャンギャン言うのも違う話だと思う選手がいるならちゃんと主張して…あのベルトの価値を上げた人間である伊東(竜二)選手あたりが「それは違う!」と言うかもしれない。全部が仮定の話だけど。そもそも人員が減ったといっても、昔もそんなにいたかって言ったらそうじゃなかったと思うんですよ。そこは、何を見せるかじゃないですか。確かに歴史を積み上げてきた分、今のデスマッチファイターにとっては楽な部分もあれば大変な部分もあるとは思います。昔だったらこれをやっていればよかったっていうところに、あと戻りはできないですからすごく苦労している部分はあるけど、それこそ今回のテーマとして掲げた鬱積した中で爆発するものも僕はあると思っているんです。僕がトシをとったからかもしれないですけど、それこそ「あっせんなよ」って思いますもん。周りが少し焦って「大丈夫ですか?」ってよく言われるんですけど、蛍光灯がなくなるっていう話が出た時もそうでした。僕は、なくなったらなくなったでなんとかすりゃあいいじゃんって思うんですけど。昔だったら自分も焦ったと思いますが、キャリアがあるからなんでしょうね。今の陣容だとヤバいんじゃないかと思われようと、何かが出てくるはずだから、今はそのための溜めている時期だって2、3年ぐらい前から思っています。それを見栄っ張りだとか意地っ張りだって言われたらそれまでですけど、耐えているんだからそこで溜めて、晴らしてほしいなという思いですね。

FREEDOMSと正面衝突したあと
焼き野原になっても復興できる土壌

FREEDOMSとの絡みに関しては、両団体が全面的に激突する形ではなく、数年のスパンで点として続いていますよね。

登坂 今ならそれが杉浦(透)選手ですよね。昔だったら伊東選手が同じような発言をして葛西(純)選手を呼び込むという流れができましたけど、それとは違うにしても当てはまるなとは思っています。杉浦選手はあの頃の伊東選手と同じように、時代を変えようとして伊東竜二の名前を出したんでしょうけど、やっぱりあの時の伊東vs葛西ほどの波及効果が今の状況において出るかといったらすぐには出ない。だから杉浦選手もすごく悩んでいると思うし、できるだけ僕はそれに応えていきたいって思っています。ただ、この流れって杉浦選手が軸じゃないですか。本当は僕みたいな人間じゃなく、反発するやつらがドン!と出てきた方が面白い。なんで杉浦なんかをウチに上げるんだ!っていう人に出てきてほしい。

今のところ、大日本のファンには受け入れられていますよね。

登坂 動きがいいし目もギラギラしているから、やらされている感がないのがいいよね。好きでこれをやっているんだっていうのが伝わってくる。団体全体としてぶつかるっていうのは、僕的にはあっていいと思うんですけど、それも中心は杉浦透ですよね。伊東や葛西、佐々木貴ではないと思います。その中で軸は誰かというところでウチは神谷っていうのが見えてきたんで、そのあたりが大将格としてぶつかるんであれば面白いと思います。

両団体が盛り上がる種はあれど、それを一気に出すと一過性のものになるから交流に関しては単発でやってきたという印象を抱いていたんです。

登坂 本来なら、明日のことを考えない生き方をするのが大事だと思うんですよ。これは矛盾するんですけど結局、僕らはデスマッチを知らしめたいとか、認知されたり評価されたりしたい。そのために団体という形で継続させるべく、今も練習生を入れて育てている。その一方で、明日なき闘いをすべきだなと思う時もある。それはなぜかというと、差別や区別じゃないけど普通の人たちができないことをプロレスラーはやれて、そこに喜びを感じることで発生するエネルギーに比例してお客さんも喜んでくれると僕は思うんですね。ただ選手が試合をしているのではなく、俺はこれが楽しいんだ! でもおまえにはできないだろ?っていうものを表現できるかどうかなんで。それが今の杉浦選手には見えるし、神谷選手も近いものがあると思っているんで、そういう闘いが正面からぶつかるのは面白いと思うしやってもいいと僕は思うけど、じゃあいざそれをやったら言葉は悪いですけど大きな戦争のあと焼け野原になったとしても、復興できるっていう土壌を僕はフロントとして作っていかなければならない。FREEDOMSさんと正面衝突して、お客さんの評価がどちらか一方にいって、どちらかがなくなるような状況に大日本サイドがなった時にしっかりと僕が受け止めて「大丈夫、ここから復興していくぞ」という姿を見せられるような立場でいなければと思うんです。今回のトーナメントに関しても、FREEDOMSさんには悪いけど何も連絡はしていないんですよ。その上で、ぜひ誰かに名乗りをあげていただきたいんです。他団体のことをわざわざ盛り上げるために出ていくなんてバカだなって言う人もいるかもしれないけど、バカが時代を変えるものなんですから。

海外の選手を発掘したいというのは、ここ1、2年ほどで大日本に多くの外国人選手が来ているのは反映されているんですか。

登坂 外国人を多く呼んでいるのは意図してやっていることです。これは、選手の方が新しいカルチャーに触れた時の目の輝きが違うんです。レイトン・バザードやエンデル・カラが来た時の関札(皓太)くんの変わりようや、青木くんもそうだったけどいい刺激になっているなというところからです。あと、大きいのはグーグルですね。昔と比べてコミュニケーションが密にとれるようになったのって意外と大きい。あの時代にグーグル翻訳があったらザンディングとももうちょっと違う関係が築けたかもしれないって思うんです。

CZWが来ていた頃の話ですね。

登坂 だから、マッドマン・ポンドとはお互いの本意まで深く話せています。その中で、アメリカエリアに関してはポンドが「こういう選手がいるんだけど」と見つけてきて、ヨーロッパはwXw(ドイツの団体)が主ですね。

サツ・ジンとかマリー・ハナとか、いちいちネーミングのインパクトがあって、よく見つけてくるなーと思っていました。

登坂 彼らにとっては、やっぱり地元だと月に1、2試合ぐらいしかないのでバスに乗って巡業をまわって毎日試合できることにすごく感激して、一生懸命やってくれるんです。それによって僕らも何かを与えられているから、いい関係ですよね。初めて呼ぶ時はどういう人間なのかもわからないんだけど、これは(関本)大介のおかげかもしれないですが、みんな斜に構えない。「あんなの呼んで、大丈夫なの?」みたいな見方をする選手がウチはいないんで。こういうのって日本にはないですよねという感じで、前向きにとらえる。これは若い世代特有の発想の素晴らしさですよね。僕の世代だったら「おまえ、本当にできんのか?」みたいな人たちが多かったから。

DDTのクリス・ブルックスやFREEDOMSのビオレント・ジャックのように日本に定着する外国人選手はその中から出てきそうですか。

登坂 どうでしょう、大日本ではそのつど母国へ戻った方がいいとは思っています。日本人と結婚したとかなら別ですけど。

経費をかけてでもそのつど呼ぶと。

登坂 仮に大日本プロレスで小鹿さんがおじいちゃん、僕がお父さんだとしたら家にずっと押し留めておくのは健全ではないというのが個人的な考えで。いてはほしいですよ。これは外国人に限らず関本くん、伊東くん、(アブドーラ・)小林くんの世代でも大きな問題がなければいてはくれると思うんですけど、そこから下の世代はむしろ外に出ていってもらいたい。来年以降は中期・長期の遠征をこっちから逆オファーする形を考えています。大日本の選手を2、3ヵ月いかせて別の文化を吸収して戻ってこられるようになればいいなと。みんな、やりたいことをやりたくて集まってきた人たちではあるけど、そこには現実もあるんですよね。プロレスだけではやっていけないとか、雑務に追われるとか。だけど、育ってきた中でいろいろ吸収できる時間に、もっとプロレスに向き合える環境作りをね。内心、昔のウチのようにもっと雑務にも向かってほしいというのはあるけど岡林裕二(休業中)、石川晋也(引退)の世代あたりから、人生の中で輝きたいと思う時間にプロレスへ来てくれたんだから、やれることをたくさんやらせてあげたいと思うようになりました。実は岡林くんの時も石川くんの時も海外から話があって本人たちは戸惑っていたけど、条件が合えば出た方がいいと言いましたし。

では、仮にAEWから声がかかったら、いってこいと。

登坂 いやあ、タイプ的には向いてないんじゃないの? スタイリッシュな人たちがいる感じだから。

その中に入っていくから映えるんじゃないですか。

登坂 ああ、そうね。でも、金持ちの団体にはいかないかな(登坂スマイル)。

なんでそこで意地を張るんですか!

登坂 まあ、それはそれとして。僕はよほどじゃなければNOと言わない人間なので。いきたいって選手がいたら送り出すんだと思います。もちろん自分からつかみにいっていいと思うけど、団体への帰属意識が強い中でみんな頑張ってくれている。それに応えられる形にしていきます。

それが2025年の戦略の一つということで。

登坂 戦略はなくて、戦術だけで生きているようなもの。目の前のことを生きるので必死だから。でもその中に信念があって続けてきての30年だから、その滑走路へ乗ってきている選手たちには大きくなってほしいと思うだけで、戦略というほどのものじゃないですよ。

旗揚げ30周年企画は考えていますか。

登坂 何かやろうとは思っていますし、やるべきとは思うんですけど、もう僕にとっては孫のような世代になる人たちが大きくはばたける企画ですよね、過去の集大成ではなく。過去はモノクロでイメージしてしまうので、カラフルな姿勢っていうか未来を創る企画にしたい。

30周年に岡林選手は帰ってくるのでしょうか。

登坂 どうでしょう。でも、そこも父親の感覚なんですよね。藤田(ミノル)くんがボソッと言ってくれた「団体を守っておいてくれてありがとうございました」っていうのがちょっと心に響いて。この家があばら家になっても守ってさえいれば、みんなが外で活躍して、別に毎月お金を入れなくても元気でやってくれればいいかなと思っているんで。

休業に入った当初はほとんどXにポストしていなかった岡林選手が最近は頻度が増してきて、プロレスラーとしての承認欲求が抑えきれなくなってきたのではと青木選手が分析していました。

登坂 でもさ、休業に入ってまだ1年ぐらいでしょ? 早いって。もっと溜めなさいって。大日本がギリシャオリンポス軍に攻め込まれてヤバいとなった時に、岡林さんがドドドドッて花道からやってくる。

本当のポセイドン登場ですよ。

登坂 それでみんなを守ってくれるならいいですが、まだ1年ですよ。トラックが好きで今やっているけど、1年で何がわかるんだと。

ザ・グレート・サスケばりに何年運転手だ、オラ!と。

登坂 みんなはウェルカムかもしれないけど、僕だけ「帰れ!」ですよ。

いや、よくこういうことをニコニコと話せますね。

登坂 みんなのおかげですよ。本当、思います。このトシまで、けっこうなものをもらっています、お金がないだけであって。むしろお金がないからこそある、人との関係だなって思います。お金があったら、僕は大した人間じゃないから傲慢になっていただろうし人づきあいも悪かっただろうし、利己的な考えも出たと思うけど、お金がない代わりにみんながいるから笑っていられる。

会社の社長が公式な場でハッキリと「お金がない」と言っちゃうところがすごいなと思います。

登坂 浅野さんも言っていませんでしたっけ?

浅野さんは「貧乏暇なしよ!」でした。お金のないことが大前提としてあった上で、ここまでポジティブにいけるというのが大日本プロレスの生命力だなと思います。それで、この大晦日デスマッチトーナメントは来年も開催するつもりでいますか。

登坂 何言ってんですか! さっき、明日なき闘いって言ったばかりでしょ。そんな次もあるからじゃなく、一極集中のパワーでやるんですから。2024年の大晦日は一日しかないんですよ。明日のことなんて、考えられますか?

私は一応、考えます。

登坂 出場選手も決まっていない時点で来年のことを考えるわけがないじゃないですか。今は2024年12月31日までのことしか考えていません。

わかりました。

登坂 今の時代だから、一度トーナメントに出場が決定してもSNS上で黒覆面に襲われて、襲ったその人間が枠を強奪するかもしれないし、8人の中に入れなかったけどそれでも出たいという人間が集まったらリザーブマッチをやりますよ。ただし、リザーブマッチから勝ち上がってきた選手は一日4試合やらないと優勝できない。それでもやる!というような選手に出てきてほしい。

むしろ予選の方が楽しみな気がします。それにしても、このタイミングで“世界”かあ…いやあ、意表を突かれました。年末はインバウンドの観客も多いので、海外という方向性はいいのではと。

登坂 生々しいことを言わせてもらうと、12月30日、31日、1月2日は毎年パスポート割をしようかと思うぐらい外国人のお客様に来ていただいていますので。でも、大山のぶ代さんが言っていました。「ぼくたち地球人、今日も明日もあさっても」と。

歌っているのは堀江美都子さんですが。

登坂 ドラえもんが言っているんです、みんな同じ地球人じゃないかって。会場を占めるのは地球人が100%ですから、地球人に向けてのデスマッチトーナメントをやります。頑張らなきゃ。