スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ株式会社発行)では、毎月旬なゲスト選手が語る「鈴木健.txtの場外乱闘」が連載されています。現在発売中の2025年11月号では、第136回(本誌ナンバリング)ゲストとして天龍プロジェクト・天龍源一郎さんとパンクラスMISSION・佐藤光留選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
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天プロの後楽園が最後であっても、
両国国技館にはいけるわけだから
天龍源一郎(天龍プロジェクト)&佐藤光留(パンクラスMISSION)

先入観で見ていた天龍の認識を
変えた佐藤光留vs矢野啓太戦
天龍プロジェクトは2010年に旗揚げされ、2015年11月の天龍さん引退にともない活動を終了しましたが、2021年4月より所属選手ゼロという形で再始動しこの4年間、活動を続けてきました。11月4日に開催される「天龍源一郎引退10周年記念興行~革命飛翔~」は、再始動後3度目の後楽園ホール進出となります。
天龍 ウチにとっての後楽園っていうのは大きな会場で、選手たちもテンション上げて段取り踏んでいかなきゃ達成できない感じがあるから、そこは選手の人たちに自覚してほしいと思いますよ。とは言え、天龍プロジェクトの選手たちは幾多ある団体の中で“エリート”だと思っているから、選手たちはちゃんと自覚を持ってやってくれているとは感じます。
そうした信用は、再始動から4年が経過する中で得られている感触ですよね。
天龍 本当に最初は、ハッキリ言うとあちこちの団体やフリーの選手にウチの(嶋田紋奈)代表が声をかけて、俺が見たことも聞いたこともないような選手ばかりが集まってきて、なんだよこいつらは?ってバカにしていたけど、試合を見るとみんなそれ相応のことをやれる選手たちで、試合を重ねるごとに俺の目からウロコが落ちて。だから正直なところ、俺の方が恥ずかしかった部分があったよね。
天龍さんの知らない者たちが集い、実質ゼロからのスタートだったわけですが、選手たちはどういったものを築くつもりで始めたのでしょうか。
光留 天龍さんがぶっちゃけたので僕もぶっちゃけると、天龍さんが出ていないのに「天龍プロジェクト」って、何をするんだろうと思うぐらいで、そこまで深く考えていなかったと思います。僕に関しては佐藤光留をアピールしてやるぜという野心はありましたけど、最初は何も見えていなかったです。
フリーとしてさまざまなリングに上がる中の一つという認識?
光留 そうでした。でも、再始動から4ヵ月で矢野啓太(プロフェッショナルレスリング・ワラビー)とシングルマッチをやって(2021年8月13日、新木場1stRING。馬乗りヘッドバットの連打からのスリーカウントで勝利)、あの時に一つの手応えというか、このリングならではのものがつかめた。それで自ら“ミスター天龍プロジェクト”って言うようにしたんですけど、あれって実は誰かに突っ込んでほしかったんです。「何がミスター天龍プロジェクトだ。おまえなんかぶっ倒してやるからな!」と言ってほしくて自分のことをミスター天龍プロジェクトの佐藤光留だって言い出したら、みんながそれで納得してしまった。それは、あの矢野啓太とのシングルマッチがすべてだったんですよ。あれはシングル2連戦でしたけど(12日後の8月25日にも同所で対戦し、光留が連勝)、マジで試合をやった日の記憶がないんです。でも、体には残っている。そういう闘いが天龍プロジェクトのリングでやれたことによって、僕の中での天龍プロジェクトがムクムクとせり出し始めたんですよね。
あの2連戦は端的に言えば「痛みが伝わりすぎるプロレス」だったわけですが、それを見たことによって他の参戦選手たちの中で共通認識のようなものが確かに芽生えました。
光留 方向性のようなものがなんとなく見えたのが、快感でした。自分が創ろうと思って創ったわけじゃないんだけど、紋奈代表が天龍さんの名を掲げた団体で矢野啓太とやるとなった時に、このリングでやるなら何をやるのか、どうしようか考えたら思いっきりはみ出そうという気になったんです。名前は言えないんですけど、鈴木みのるっていう人が横で煽るわけですよ。「はみ出せ、はみ出せ」「やっちゃえよ」って。たぶん、そこまで深く考えないであの人は煽っていると思うんですけど、僕も天龍さんの試合が好きでたくさん見ていたから「天龍さんだったら、どうはみ出すか?」っていうのがあったんですよね。でもそれはマネをするんじゃなくて自分のはみ出し方をしてやろうと思って、それこそ目をつぶったままハンドル切ってアクセル全開にしてやるよっていうのが…うん、あったんですよ。それを見て選手たちも「天龍プロジェクトだったら何をしてもいい」ってなったんでしょうね。
天龍 今、佐藤光留の話を聞いて思い返したんだけど、さっきも言った通りどこの馬の骨を集めてきたんだって思いながら見ていて最初に刺激を受けたのが、矢野啓太が何気なくスリークォーターネルソン(レスリングの技術)をやっているのを見た時だったんだよ。ああ、こういうことをちゃんと知っているんだ、ナメたもんじゃないなと思わされて、その相手をした光留君もちゃんとプロレスを理解しているというところに目がいって、そこから個々の選手たちへの見る目が変わっていったら、俺自身もテンションが上がってきた。俺はインディーの選手っていうのは、そんなところまで気にも留めていないと思っていた。わかっちゃいないという先入観みたいなのがあったから、シラミ潰しのように自分で勝手に潰しているようなものだったんだよ。でも、そんな俺に対し「そうはいくかい、天龍!」っていうものをチラッと見せられて、育てていきたいなという気持ちになった。それは、再始動前の天龍プロジェクトとは違う感覚だったね。やっぱり世間一般の人たちが天龍プロジェクトを見たら、俺が最初はそうだったように寄せ集めにしか映らないだろうから、いつまで経っても自分の中でテンションも価値観も上がらないのよ。でも、感知できる部分があると試合の中に入り込んでいく自分がいる。それを知った時に、この選手たちを見続けていけば育っていく姿を見ることができるって気づくんだよ。自分の団体でありながら、俺自身がそれを共有できているっていうのが見ていて面白いんだと思う。
天龍プロジェクトを見ていない方々に知っていただきたいのは、天龍さんは選手たちにウチはこうだからああしろ、これをやれとは言わないんですよね。だからこそ、天龍さんご自身も思わぬ発見に出逢える。
天龍 俺はただ見て、文句言っているだけだから(ニヤリ)。
これはよく言われることなんですが、所属選手が一人もいないにもかかわらず、団体としての共通の方向性を参戦する選手たちが認識している点が、天龍プロジェクトは独特だと思うんです。
天龍 なんで再始動するにあたって所属選手が一人もいないっていう形を選択したかというとね、ダメだったらクビを切ればいいというのを第一のポイントに置いたから。それは一見すると冷たいって受け取られるかもしれないけど、団体として自分のところで抱えちゃうと切りたくても切れないという人情はどうしても出てくる。だから、とっかえひっかえでいいって最初から決めた。その中からいい選手が出てきたらずっと上げればいいって。そういうシビアな環境の中で上がった連中は、スタートは無だったのがそれを1とか2にしようと頑張る。それが見えて、こうやって天龍プロジェクトで育っていってくれたらいいなと最初に思わせてくれたのが佐藤光留vs矢野啓太だったんだよ。非情な分、団体としてもリスクがある。だってそういう上がってくる選手が出てこなかったら、誰も定着できずに続けていけなくなるんだから。過去に天プロを旗揚げした時は「ここでダメだったら、もういいだろう。プロレスから手を引こう」と思って始めたのが、再始動したことで選手たちが懸命に発揮しているプロレスと自分の中にあるプロレスが合致した。だから俺がよく外に向けて言うのは「天プロは捨てたもんじゃないよ」なんだよね。
新木場1stRINGなどの現場で凄い試合を見たあと、ご自身がリングに上がって闘ったかのように「新日本、全日本がナンボのもんじゃ!ですよ」と、天龍さんは選手たちを誇っています。そういう言葉を聞くとプレイヤーも嬉しいものでしょう。
光留 それが僕らにはプレッシャーなんですよ。これは天龍プロジェクトにおける全部の試合でそうなんですけど、家を出る時にいつもと違う汗をかくぐらい緊張するんです。でもそれが窮屈なわけじゃなくて。はみ出すことって快感であると同時に、痛みに対する恐怖とプロレスに対する責任の重さがのしかかってくる。それを天龍プロジェクトに出る日の朝はすごく感じるんです。常に光っておかなきゃいけないし、現場ではみんな笑ってはいますけど、たぶん震えているんですよ、自分の名前は次の大会のカードにあるかって。
所属ではないから次も必ず出られるという保証がないです。
光留 全員、同じ条件ですから。だから、次の大会のカードが発表された時って、みんなが「あいつ、いねえな」って思っているはずですよ。そこで生き残る選手は、やはりプロレス界において何かを残しているやつらですよね。
光留選手はパンクラスMISSION所属ながら実質フリーとして全日本プロレスなども含めさまざまなリングに上がってきました。天龍プロジェクトにたどり着いたことでプロレス観を変えられましたか。
光留 それはすごく変わりました。まあ、僕がもう少しスケールがあったら“革命”って呼ばれるんでしょうけど、そこまでいっていないんで。でも、いろいろな団体に出入りしていると、たとえば天龍プロジェクトでタイトルマッチをやったあとだと1、2週間ぐらい周りの目が明らかに変わっているんです。「あいつこの前、天プロでとんでもない試合をしてきたらしいぞ」的な視線が向けられる。そういう反応を向けられると、僕自身のプロレスとの向き合い方も当然変わってくる。
天プロで生き残っている人間の中で、
考えずにやっている選手はいない
光留選手、矢野選手だけでなく進祐哉(フリー)、児玉裕輔(フリー)、谷嵜なおき(DOVEプロレス)、新井健一郎(DRAGONGATE)といったいわゆる職人気質であるがゆえに突出したポジションに据えられていない選手、あるいは渡瀬瑞基(ガンバレ☆プロレス)のようにくすぶっていた選手たちがより個性や存在感を発揮できる土壌が、天龍プロジェクトでは確立されています。なぜそうなったかというのは、天龍さんの目から見ていかがでしょう。
天龍 俺はジャイアント馬場さんの志を受けて自由にやらせているだけで、それを評価するのはお客さんだから。そこを選手が肝に銘じてやれば、何か足あとを残せると思っているんですよ。そこは団体がどうせいこうせいって言ったところでやらないやつはやらないんだから、自分で前回はこういうことをやったから今日はこういうことをやれば、お客さんは映画の物語のように追ってくれるだろうし、それを期待しているだろうし。見る方も、一緒になってその成長を見たいんだよ。自分で考えてやることによってお客さんもそれを共有する関係になって、自分の個性であり持ち味をより伝えられているんだと思うよ。その中で俺は、しょっぱい時は「何をやりたいのかわかんない」ってちゃんと卑下をしますよ。でもそれは、逆の気持ちの裏返しなんですよ。
痛みが伝わりすぎる激しい試合の一方で、レイパロマ(DOVEプロレス)のようなコミカルさを持ち味としている選手も天龍さんは評価しています。
天龍 パロマもね、ワンパターンじゃなくてそこからのINGを考えてやっているから評価するよ。俺が見ているのはどんな技を出すとかよりも、どれだけプロレスと向き合って、ちゃんと自分なりに考えているかだよ。こういう人前に出る職業なんだから。そうじゃないやつは、いらないよ!
光留 少なくとも今の天龍プロジェクトで生き残っている人間の中で、考えずにやっている選手はいないと思います。プロレスがなかったら、こいつらどうしようもないんだろうなっていう人たちしかいないんで。不思議と、そういう人間が集まってくる。似た者同士の集まりだからライバルなんでしょうね。たとえば拳剛選手(フリー)とは普段、まったく連絡も取り合っていないし、一緒に飯食いにいったこともないんですけど、僕はプロレスラーの中でも相当信頼というか、信じられる選手です。今、100万円貸してくれって言われたら貸せますね。
貸してみてください。
光留 いや、言われていないんで。よく、思い出には勝てないって言われるじゃないですか。天龍プロジェクトって、思い出と闘うことも許容してくれるんですよ。これは本当におべっかを使うわけじゃなくて、天龍さんは今もちろん試合をされていないんですけど、今でも天龍源一郎っていうレスラーの大きさをすごく感じる時があって、天龍源一郎のやっていたプロレスをモノマネしてもしょうがないんですけど、それでもあの時に凄いって言われていた天龍源一郎のプロレスに、僕らはまだ挑んでいる時があるんです。それがメインテーマではないんだけど、好きなだけ挑みなさいっていうのが天プロなんです。そんなのムダだよとか、勝てないよっていう人はたくさんいますけど、好きなだけ挑みなさいっていうものを感じて、ありがとうございますと思いながら相手の顔面を蹴り飛ばしている。そういうのは、天龍プロジェクトにしかないよなって思いますね。
今、名前が出た拳剛選手は、進選手とともに再始動前から天龍プロジェクトに上がり続けています。
天龍 拳剛はね、最初の人手(参戦選手数)がいない時に俺とシングルマッチでやるようなポジション(2015年の天龍引退ロードにて一騎打ちで対戦したのはオカダ・カズチカと拳剛のみ)にいたんだよね。その時に、インタビューで「闘う相手に“さん”づけなんておかしい」って、天龍と呼び捨てにしやがったから、てめえこの野郎!ってその場でボコったんだけどね。それぐらい俺はどんな選手を相手にもめいっぱい闘ってきたし、彼にも体感させたつもりだから、それを今まで忘れずにやってきてくれているっていうのはありがたいよ。それが選手たちに伝播していっての今日の天プロだと思っているから。ある意味、最初の方向性は間違っていなかったと思えますよ。ヘタでもいいんだとは言わないけど、何かを一生懸命やっている姿を見せればお客っていうのは何かを感じてくれるんだから、頑張れということなんですよね。
10年ほど前に天龍さんが植えつけたものが、拳剛選手から広がっていった。
天龍 だからね、彼を見てプロレスに入ってくるとか、プロレスを好きになってくれたら俺はいいと思う。拳剛、おまえが責任を持ってプロレスの根を閉ざすなよと言いたいよ。
再始動後の4年間は、新木場1stRINGにて月一ペースで続けてきた天龍プロジェクトにとって、後楽園ホールは大会場に当たります。
天龍 俺が解説席から見ているかぎりでは、口では文句言っているけど気持ちの中では納得している部分もあるから、彼たちが伸び伸びとやってくれたらどこにも負けないものが発揮できるよ。だから、萎縮するなということだけは言っておきたいですね。
光留 後楽園での試合は他団体で普通にやっているわけですけど、天プロの後楽園となるとまた違うものがあるんです。いつもよりも広いところで天龍プロジェクトのプロレスを伝えるのは、それこそ相手の頭蓋骨を割るぐらいの頭突きをやらなきゃと思うし、相手の頭骸骨を割るということは自分の頭骸骨も割られる覚悟を持たなきゃいけないということだから、震える体で家を出たのが過去2回でした。今回もそれぐらいの意識になるだろうし。あと今回は有名なゲストの方々が出るじゃないですか。そこは大会としてはお祭りでもあるけど、常に天龍プロジェクトのリングでやっている僕らとすればナメんじゃねえぞって思うし、でも僕は直接闘えない悔しさもある。本音を言ったら、そういう人たちを一列に並べて全員とシングルマッチをやって、人数分救急車を用意しておけって思いましたよ。いや、本当に思いました。だけどそういうわけにはいきませんから。どうやってそいつらビビらせるかっていったら、見たお客さんが佐藤光留は有名なあの選手よりも凄かったって言わせて、次は新木場にもいってみようかと言わせるための人柱になってもらうことですよ。今ってプロレスは楽しむものなんだから、恨みだとか嫉妬のようなものを持っちゃいけないみたいな、エンターテインメントとしてきれいで楽しくなきゃいけないという風潮が出てきているじゃないですか。
ネガティブな感情が求められていないという受け取り方ですね。
光留 それで佐藤光留がいらないって言われるならそれでいい。やっぱり人間としての隠しごとがリングの上ではできないんです。天龍プロジェクトのリングだとより一層見透かされて、透け透けの自分が出ちゃう。そういうリングだから、名前があるだけで上がってきて、試合が一個増えたぐらいの考えのやつがいたら覚悟しておいた方がいい。すいませんでしたって言わせてやる気持ちはあります。
入退場シーンで感銘を受けたなんてクソだよ!
そこからスタートするのがプロレスだろ
今大会では新日本プロレスよりIWGP世界ヘビー級王者(取材の時点)のザック・セイバーJr、鷹木信悟、海野翔太の3選手が参戦します。
天龍 大雑把に見ると新日本プロレスからの助っ人ということになるけど、代表と根詰めて話すと小川良成が出てきたりとか(ザックのプロレスリング・ノア参戦時代の師が小川)、 縁ゆかりのある人の名前が出てきてその続きにザック・セイバーJrがいるっていうのを聞くとそういう関係があるのかって納得している俺もいますよ。だからそういう人たちが天プロのリングに上がってくれるからにはいい結果を残して、お客を自分の団体や自分の周りに跳ね返らせるように連れて帰ってくれって。天プロに出てよかったって言える結果を残して帰路についてくれると思っていますよ。
中でもザック選手と矢野選手の一騎打ちに対する期待値が大きいです。
天龍 これはね、今の上っ面だけの見慣れたプロレスしか見ていない人には難しいかもしれないけど、ジーっと腰を据えて見れば何回ビデオで見ても、見るたびに気持ちを新たにさせてくれる試合になりますよ。それがまた、プロレスの面白さだと思うんだよ。入場シーンと退場シーンで感銘を受けたなんていう試合はクソだよ! そんなもん…そこからスタートするのがプロレスという職業だろ。それを矢野とザック・セイバーJrだったら見せてくれるっていう自信がありますよ。お客の数をどうこうと考えた時に、いろんな選手が自分の中には思い浮かんだ中で、ウチの代表が矢野啓太vsザック・セイバーJrをリクエストして実現するんだから、何も文句はないよ。矢野に関しては、開けてみたらビックリの玉手箱を出してくれるっちゅう、そういうサプライズ的なものが見られる期待がありますよ。
矢野選手は長くアンダーグラウンドの世界を歩いてきたからこそ、業界の中心では知られていない分、逆に見ていない人を驚かせる可能性があります。
天龍 それはあるかもしれないね。あと鷹木に関してはあちこちの選手の目立つところをいいとこ取りしている選手だから、それはそれでいいと思うんだけど、もっと鷹木信悟の個性を出せるようにプロレスというものを突き詰めて考えるようにした方がいいという思いがありますよ。このままだったらほかのムーブメントが来た時に、おまえはすーっと吹き飛ばされちゃうよっていう危惧が彼のことを思うからこそ逆にある。ある意味(見る側が)嫌うものを観客に与えた方が、ひっくり返った時のオセロと一緒で好きになった時はババババッと好きになる可能性があるから、そういう嫌らしさを持ってほしいと思うよ。今のレスラーはみんな、上っ面だけで自分になびいてほしいという気持ちが強いけど、そこは考え違いをしているよ。
そして海野翔太は小さい頃から知る選手(父・レッドシューズ海野レフェリーは全日本、SWS、WARで天龍と一緒で家族ぐるみの付き合いをしていた)です。
天龍 ちゃんと恩返しをしろよと。それだけだよ。まあ、海野レフェリーのところでチョロチョロしていたチビっ子がこんなになったんだっていう感慨深さはありますよ。
光留選手は諏訪魔&越中詩郎とのトリオで鈴木みのる&真霜拳號&進祐哉との対戦となります。
天龍 いいじゃない、クセのある人ばっかりで。
光留 本当に、よう集めたなですよ。その中で、僕しか自分というものを出させないですよ。でも、そうはさせてくれないのが越中さんであり…諏訪魔はすっかり牙が抜けたのでわからないですけど、それよりも相手側には鈴木みのるがいますから。
鈴木選手は長きにわたり常に自分の前にいる存在だったと思われますが、この数年でそうした距離感が変わってきたという感触はありますか。
光留 僕が常々、鈴木さんに言われたのは「プロレスをやる時にしろなんにしろ、俺の名前で仕事するな。俺の仕事の迷惑だから、俺と知り合いって言わないでくれ」って。本当に、ずっと言われているんですけど、それってレスラーとして、佐藤光留で一本立ちしなさいということなんですよね。その上で「たぶん、できないと思うよ」ともハッキリ言われた。でも、今はせん越ながら鈴木さんより試合数は私の方が多いんで。これはもう、挑発です。鈴木みのるではないです、僕は。鈴木みのるのいい部分はもしかしたら僕にはないのかもしれないけど、天龍プロジェクトで今の方向性を創ったのは有名な選手じゃない。常にメジャーと呼ばれるところの真ん中にいる選手じゃない佐藤光留と矢野啓太なんだって思っていますから、その気持ち一個で鈴木みのるにガッチリいきます。
以前のようないつか超える存在とは…。
光留 別世界にいるから、超える必要ないんですよ。鈴木さんには鈴木さんの世界があって、この前なんかカタールにいって試合しているんですよ。それで「世界にはいろんなプロレスがある」って言うんですけど、何をおっしゃる、天龍プロジェクトにしかないプロレスを鈴木さんはどれだけ知っているんですか。ここのプロレスは今の世界中を探しても、天龍プロジェクトにしかない。それも僕と矢野啓太だけじゃない。僕と拳剛にしか出せないプロレスもある。世界にいかなくても身近で見られるんだ、そこで闘ってきた、創りあげてきたっていう自信と責任ですよね。それを見せたる!っていうのはあります。
世界のプロレス王・鈴木みのるもレギュラーではありませんが、天龍プロジェクトに参戦し戴冠経験(天龍プロジェクト認定WAR世界6人タッグ王座)もあります。そういう選手たちも引き寄せられる磁場が、このリングにあるのでしょう。
天龍 それは佐藤光留と矢野啓太の二人が天プロの根底を根づかせて、これが天龍プロジェクトだ!っていうのを色づけしてくれたからだよ。だから、これを育成させていなきゃいけないっていう気持ちにさせられるし、そこに着眼した紋奈代表のことも評価して今日に至っているからね。
そうして着実に積み重ねてきた中、今回で天龍プロジェクトとしての後楽園ホール大会は最後とアナウンスしています。
天龍 いや、儲かったらまたやるよ。
ええっ、そんなにあっさりと撤回するんですか!?
天龍 いやいや、最後のつもりでっていうことだから。後楽園が最後であっても、だったら両国国技館にはいけるわけだから、それぐらいの心意気でやるっちゅうことですよ。紋奈代表は最後の後楽園と言うことで、自分で退路を断って頑張ろうとしているし、それによって選手にも頑張ってほしいと思っているからこそ、そういうことを打ち出したんだと思う。これは希望があるというか、まだ燃え尽きていないからこそ吐けた言葉だと思うんだよね。この火を消さないための魂の叫びっていう感じかな。
光留 あと10回、後楽園大会をやりますと言っても、人生は何があるかわからないし、いつか最後は絶対に来る。だから、いろんな“最後”の解釈があっていいと思うんですよね。それこそ最後と言って、7回復帰する人もいるわけじゃないすか。
1人、思い浮かびます。
光留 それに今、天龍さんが言われたように後楽園は最後でもほかのところはまだあるかも知れないし、やっぱり最後にしないでという声があったらまたやると思うし。本当に未来っていうものはわかんないですから。ただ、今の気持ちは11月4日の後楽園ホールでもう何も残っていないっていうぐらい、天龍プロジェクトを全部出し切ること。僕は天龍さんが現役の時、3回試合をしているんです。天龍さんはほぼ憶えていなくて、天プロで憶えてもらったわけですけど、僕の中にはその歴史があるんです。それを後楽園ホールの真ん中にグサッと刺してやろうっていう気持ちにはなりますよね、最後という言葉を聞くと。
「僕は天プロのプロレスがやりたい」
それこそが“プロレスがつながり続いていく”
光留選手に限らず、天龍プロジェクトへ上がる選手たちは自分の所属する団体がある選手もフリーの選手も総じて所属ではないこの団体に思い入れを持ってリングに上がっています。それはなぜなんでしょう。
光留 新木場での試合が終わってからだいたい1時間ぐらい車を運転して帰るんですけど、その間に今日の試合のことを考えるじゃないですか。でも、天龍プロジェクトだけは家に帰ってもまだ、ああでもないこうでもないって考える時間がとにかく長い団体なんですよ。最近、僕が行き着いた答えは、天龍さんは今リングに立っていないだけで、まだプロレスの試合をしているんですよね。本当に天龍さんご本人を目の前にして言うのは緊張するんですけど「見たか、これが俺たちの天龍プロジェクトだ!」っていう気持ちを天龍さんにぶつけているところがあるんだと。引退したら、プロレスを見て目の前で起こっているものを楽しんでいますっていうOBの方もいらっしゃるじゃないですか。でも天龍さんはそうじゃなくて、まだまだプロレスをしている感覚で僕らはリングに上がっている。だからこそ、僕の中で天龍源一郎は思い出じゃなくて、今も負けたくない対象なんです。
天龍 (ニヤリと笑う)
光留 やっぱりファンの中には「いやいや、昔の天龍の試合と比べたらまだまだだ」っていう人もいる。それは悔しいし、今回のザック・セイバーJrと矢野啓太のカードの引力に関しても自分の中では悔しいんです。それは何によるものかと考えると、天龍さんに向けての気持ちなんですよね。
実際、生配信の解説席から見ている中で、リング上から自分に対し投げかけられているという感触を覚えることもあると思われます。
天龍 ありますよね。天プロって、圧倒的にチョップにエルボー、キック合戦の場面が多いんですよ。そういう時に、ここでへこたれて退いた姿を天龍の目に焼きつけてしまうのが嫌だっていう選手が多いって、そこは理解していますよ。そういう必死になってやっている姿って、端的にでもお客さんにも伝わるから。ましてや新木場のような大きくはない空間だと、それがいいか悪いかは別にしてあれぐらいの場所が一番そういうことを体感できる。
だからこそ天龍プロジェクトは新木場1stRINGという場所にこだわっている部分もあります。通常、団体として目標を持つ場合は大きな会場に進出することがわかりやすいわけですが、天龍プロジェクトの特色を考えると必ずしもそれが第一の目標というわけではないですよね。その中でどのような形の未来を見据えているのでしょう。
天龍 俺は愚直に言わせてもらうと、赤字を食うことなくずっと、今日は天プロがあるからというように選手たちにとって何かの糧になればいいっていうだけですよ。潤って、皆さんに試合を提供できる力をつけていけたら、ずっとやっていきたいとは思っています。俺がいなくなってもウチの娘の紋奈から、その子どもができたら継続していってくれると思うから、そこまで続けたら万々歳だって墓場の陰で喜んでいますよ。
プレイヤーとしてはリングを降りても、天龍さんの中に続けたいと思えるものがあることは尊いと思います。
天龍 俺は小橋(建太)に負けたくないだけだよ!(小橋もプロデュース興行「Fortune Dream」を定期的に開催)
選手としての天龍プロジェクトにおける未来像はどうでしょう。
光留 天龍さんが現役時代におっしゃっていたのは「痛みの伝わるプロレス」でしたけど、痛みが伝わらなかったらプロレスじゃねえじゃん!って、今のいろいろなプロレスを見ていて思う時があるんです。先ほどの天龍さんの言葉を借りると“上っ面”ね。それもプロレスなんでしょうけど、天龍プロジェクトと言っている限り、過剰に痛みが伝わって目を背けたくなるけどお客さんにも頑張って見てもらうっていうこのプロレスは、天龍プロジェクトが一番なんですよ。宇宙のどこを探しても、これ以上痛みが伝わりすぎるプロレスはないよ。いつの日か、まだプロレスラーになってない人がこれからプロレスをやるとなって、どんなプロレスをやりたいかっていう時に「僕は天龍プロジェクトのプロレスがやりたいんです」って言ってくれたら、それこそが“プロレスがつながり続いていく”だと思うんです。
天龍さんが言われる「プロレスは伝承文化」ですね。
光留 そのためにも、相手の頭骸骨を割るようなエルボーと、胸に穴が空くようなチョップを続けて、かつ自分も受け続けていきます。本当は受けたくないんですよ。痛いの嫌なんです。だけど今、言うことによって自分の退路を断ちました。プロレスってそういうものなんです。怖いんですよ。でもそれを乗り越えたところに、一瞬だけ何かがやっぱりあるんですよね。それが僕らのプロレスなんで、それを天龍プロジェクトはずっと見せてきた。僕だけじゃなく、みんながですよ。
そこまでして得たいものがあるんですね。
光留 ここにしかないんですよね、別にそれがなかったらダメっていうわけじゃないのに。再始動後の天龍プロジェクトは、1年間を通じてシリーズを開催しているんですけど、その1年間の闘いを写真集にしているんです。そこに載っている写真を見たら、最後のページに僕と児玉選手がIJ(インターナショナルジュニア)シングルのタイトルマッチをやって、試合が終わっても二人とも倒れているんです。普通はタイトルマッチが終わったら勝者が立っているものじゃないですか。
光留選手がIJシングルのベルトを保持していた時は、立ってベルトを受け取ることが一度もなかったと思います。必ず、自分もダウンしたまま渡されていました。
光留 でも、それが現実ですからそれでいいと思うんです。
天龍 出し尽くしたら、それが普通でしょ。某団体の(試合後の)インタビューみたいに「ハーッ、ハーッ!」って言って、何がキツいんだよっていうような息遣いをしているのが多いけど、そういうところもコピーする輩が増えてきたから、プロレスはちょっと本当に危機的だよね。インタビューでさえマネして、ハーハー言ったところでおまえら5分しかやってないじゃんって。
光留 (天龍プロジェクトは)マイクで喋ることがないですからね。試合で全部やっているから。ほかのところがやっていないわけじゃないけど、天プロはみんながそういう共通認識でやっていると思いますよ。言いたいことは試合でやってやろうって。
天龍 みんながそうだよ。俺はこのインタビューの中で何度も光留君と矢野啓太の名前を出したけど、ほかの選手の名前を出さなかったのはもっと頑張れよっていう意味で口にしなかったんだよ。本人は頑張っているつもりでも、そこはお金を取ってやっている商売の難しいところで。だって見に来る人たちは電車を乗り継いで、途中でご飯を食べて終わったら晩御飯も食べてまた電車を乗り継いで、もしかするとそこからさらにタクシーに乗って帰るんだから、その分ちゃんと熨斗つけて帰さないと失礼だよ。俺は常に「おまえら、天龍プロジェクトを見てみろ!」っていう能書きを垂れる気持ちを持っていますよ。その分、出る選手たちには高望みして文句言ったりするけど、それが意外と一般の人がプロレスを見る上での着眼点でもあるから、疎かにするなよと釘は刺しておくよ。あとは…後楽園というと舞い上がっちゃう選手がいる。もっともっとと空回りしちゃうのが怖いから、新木場でやっていることをそのまま後楽園でやればいいんだよ。