スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ株式会社発行)では、毎月旬なゲスト選手が語る「鈴木健.txtの場外乱闘」が連載されています。現在発売中の2026年9月号では、第146回(本誌ナンバリング)ゲストとしてセンダイガールズプロレスリング・橋本千紘選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
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※鈴木健.txt氏 X:@yaroutxt theLetter:https://yaroutxt.theletter.jp/
強い女を見せるのも非現実的。
非現実だからこそ、見る側が
勇気や元気をもらえると思う
橋本千紘(センダイガールズプロレスリング)

生の声を聞くと「仙女魂」を
見て来た方が圧倒的に多い
ちょうど昨日(7月26日)がセンダイガールズプロレスリングの会津若松大会でした。会津は私の故郷ということで、地元のプロレスを盛り上げてくださりありがとうございます。
橋本 会津若松大会として初めてチケット完売でした。地方大会ではなかなかないことなんですけど、地元の方々もビックリしていました。「こっちでプレイガイドも完売になるのは、新日本プロレスぐらいだよ!」って言われたので、嬉しかったですね。
東京と仙台以外における熱量の変化は感じられていますか。
橋本 お客さんの熱そのものは以前から変わっていないと思います。ただ、一番実感するのはやっぱり数字(観客動員)で、今までは大会直前まで里村さん(里村明衣子代表)からSNSで煽って!って言われる感じだったのが、最近はそういう指示がなくてもチケットが完売するようになっているんです。けっこう「(チケットが)取れない」という声を聞くようになりました。
そうなったのは、どこに要因があると考えていますか。
橋本 売店とかで生の声を聞くと、やっぱり「仙女魂」(今年1月より開設したYouTube配信)を見て来ましたという方が圧倒的に多いんです。毎回毎回必ず、初めて来ましたという方にお会いしますし、会場だけでなく街中でも「YouTube、見てます!」って声をかけてもらえることも増えて、改めてYouTubeの影響力ってすごいんだなって。でもYouTube自体はその前から常日頃やっていたので、仙女魂というコンテンツがすごいということですよね。
仙女魂とは別に、センダイガールズの公式chはそれ以前からあったんですよね。
橋本 ありました。ただそちらは試合映像中心で、コロナ禍の時は自分たちで発信していたんですけど、さほど効果もなく。それが、私たちの日常を撮影していただくようになったら、すごい反響で。密着されても嫌だなって感じることもなく、むしろ撮影してもらえる日がすごく楽しくて、いい雰囲気でやっていただけるようになりました。
あそこまで日常やこれまでは公開していなかったシチュエーションを見せるのは、最初からそういう方向性でいこうというコンセンサスがあったんですか。
橋本 はい。ほかがやっていないことをやらなければということで、そういう部分をさらけ出していかないと視聴される方も食いつかないっていうのがあったので。里村さんからは自宅の中を見せるのも仕事だと思ってやって!みたいな感じで言われました。自分はプライベートなんで、そこはどうなんだろうと今の時点では頑なに拒否しているんですけど、岡(優里佳)は公開したことで反響が大きかったので、すごいなーと。
バックステージや、開場前の場内の様子が公開されることについての抵抗感は?
橋本 プロだったら試合だけで見せるべきという思いが強い選手や、そう考えるファンの方もたくさんいると思うんですけど私はそうじゃなくて、一プロレスラーが一社会人としてこういう仕事もしているんだよというところは、どんどん見せたい方なんです。だからそういう場ができたのは嬉しいぐらいです。
大阪で岡選手が試合中のアクシデントにより救急搬送された時も、バックステージまで追って救急車で運ばれるシーンを生々しいほどに押さえていました。岡選手のお母様が心配している様子など、これまでのプロレス界であれば「ここは遠慮してほしい」となるところまで見せたので驚いたんです。
橋本 あの回はコメントを通じて批判の声もありました。自分も、撮るんだ…とは思ったんですけど、岡が大丈夫でその日のうちに戻って来たのもあったし、ああいう姿もリアルなものとして見せるのかという受け取り方でしたね。
毎回の内容に関しては、里村代表が最終判断を出しているんですか。
橋本 そうですね、里村さんがやっています。
公開前にチェックして、その段階でやっぱりこれは出さない方がいいというようになる場合も?
橋本 ここはカットというのはあります。3、4人体制でチェックしています。こういう形で届かせるのはよいことだと思う一方で、私はプロレスラーってミステリアスな部分も必要だと思っているので、全部をさらけ出すのは岡だけでいいかなって。
一人にさらし担当として押しつける!
橋本 岡は見せたいタイプなんですよ。私を見て!っていう子なので、そこはピッタリなんです。なので、すべて任せます。
里村さんの現役引退から1年3ヵ月経過しましたが、その中での変化としてYouTube以外で感じられていることはありますか。
橋本 引退される前に高瀬みゆきさん、優宇さんが入団して、そのあとに水波綾さんが入っての変化がありましたけど、一番は高野玲菜の入団になりますね。新人が入ってくるのは3年ぶりでしたから。それを密着していただいたことも大きかったと思うし。高野って、人間的にもみんなから応援される素質を持っているって感じます。私たちも、普段の練習から声をかけられずにいられない。頑張れ!って言いたくなるし、実際そうやって指導にもあたっているんですけど、本当に一生懸命。何にも汚れていないっていうんですか、すごく純粋で。プロレス界に入ると心が汚れてくるものなんですけど…。
そうなんですね。
橋本 すごく汚れます。でも高野にはあのまま真っすぐ進んでほしい。
この業界でそれは可能なんですか。
橋本 高野だったらいけそうな気がします。
デビュー戦までの密着によって刺さり具合が尋常でなかったですからね。みんなが心をわしづかみにされ、強い思い入れを持ってしまった。そうさせるものが、彼女にはありました。
橋本 本当、よく入ってきてくれたと思うんですけど、そこは去年の3月に仙女として代々木(国立代々木競技場第二体育館)に挑戦したことからつながっていて。高野が里村さんと私の試合を見て、その時に私が日本武道館へいきたいと言ったら、一緒に日本武道館にいきたいと思って、それもあって応募してきたんです。
日本武道館に進出するところを見たいではなく、自分も一緒にいくからプロレスラーになるという発想自体がフツーじゃないですよね。
橋本 一緒にいくためプロレスラーになるという。しかも仙女って硬いイメージというか、練習がシンドいと言われる中で選んで入ってきてくれて、入門テストもほぼ満点の合格だったんです。なのですごく期待していたんですよ。それでいざ練習したらさらに期待してしまって、この前のデビュー戦ではついに期待を超えるという。
今言われた通り、仙女の練習は厳しいイメージというか、実際にそうしているわけですが、厳しくしすぎると続かない葛藤が指導する立場であると思われます。そのあたりのさじ加減はどうしていますか。
橋本 私もそれで何回か失敗しています。やめちゃった子もいて、里村さんには自分の物差しで計らないようにって言われてほぼ何も言わない時期もあったんですけど、ちょっと距離を置いてその下の世代の愛海と優里佳に任せるようになったのが、大きかったと思うんです。YUNAに関してはほとんど怒ったことがないですね。それぞれの特性があって、言っていい子と悪い子の見分けもだんだんつくようになって、YUNAは褒めて伸びるタイプなのでマイペースにやらせてみたら、今やっとよくなってきているから、これはこれでよかったんだと思うんです。でも、高野は厳しくしても大丈夫。そういう耐えられるタイプだと思いますし、人によって使い分けしています。
プロレスラーに育てあげて残すというのは今の時代、本当に大変だと思うんです。特に橋本選手は学生時代からバリバリに厳しいことをやるのが当たり前の世界で生きてきたわけじゃないですか。
橋本 そうなんです。最初は「いやいや、そんなんじゃやっていけないだろ」って思ったんですけど、これが現状なんだなって受け止めて。それでも私は違うからという思いもありますけど、仙女に入ってくる子たちはそうさせたくない(続けさせたい)ので、自分の思いを伝えつつ、伸び伸びさせつつ…という感じですね。
仙女に入門したものの続かずに、やめてから他団体でデビューしたケースって、今まであったんですか。
橋本 ないですね。環境は、すごくよくなっているんですよ。私が入った頃は、新人に関して禁止事項がすごく多かったんですけど、それも今は一切なくて、寮も一人部屋ですし。昔は…っていうのは、言っても仕方がないことだと思うんですよね。そういうことを言う人たちがいると面倒臭い。ちゃんと「今はいいよね」って笑顔で言えることが大切なんです。
GAEA JAPAN時代にやっていたことをやらせたら一人も残らないと里村代表も言っていました。
橋本 本当にそうです。だからこそ時代に合わせるって、大切なことだと思います。それによって所属選手が増えるだけでなく雰囲気もいいので、そういうのも周りから見てわかるんじゃないですか。
練習へ打ち込むプロの姿が
アマ選手の心を動かす
里村さんが現役を退いてフロント業務一本になったことで、変わったなと思う点はありますか。
橋本 里村さん自体は本当に変わらないです。いつも忙しそうで…あ、でも現役時代は忙しすぎて選手を見ることがほとんどなかったんですけど、今はけっこう見てくれて、特に高野の練習をすごく熱心に見てくださっていますし、デビュー戦の前日には自分の体を貸して受け身をとらせたりしていたのでビックリしました。ここまでするんだ!?と思って。
フロントに専念するようになってからは基本、練習には参加していないんですよね。
橋本 そうです。メッチャ忙しく見えますね。なので聞くことリストを作って、道場にいる時にすべて聞くようにしています。
現役の時よりも今の方が顔を合わせる機会が減ってきた感じですか。
橋本 ああ、言われてみるとそうかもしれないです。直接足を運んでの営業や、挨拶回りもたくさんしていると思うんで。その中で里村さんが引退されてからは、選手との個人面談を、何ヵ月に一回かやるようになったんです。それでしっかり話せる機会はいただいています。
そういう時はどんな話をするんですか。
橋本 まずは雇われている身なので、お金に関してちゃんと話します。そこにプラスして「不満があったらすぐに言って」と言われます。まだ一度も不満を言えていない状態ですが。
あるけど言えていないということですか。
橋本 いや、ないです…まだないです。選手間で話すんですよ。「不満、何か言った?」って。でもみんな「いえ、何も言っていないです」って。里村さんと二人っきりになると、ちょっと言えない感じはまだありますよね。
でも窓口はちゃんと開いてくれていると。
橋本 そうなんですよね。それはすごくありがたい。
以前、天龍プロジェクトに参戦する選手たちが前日の巡業先から車で移動してきた時、里村さんが運転していたので驚いたんです。そんなことまでしているのかと。
橋本 東京から大阪まで選手を乗せていったりしています。そのために里村さん、バスの大型免許取ったんですよ。
バスまで運転しているんですか。
橋本 全部自分でやるのが当たり前という方なので…乗っている私たちは緊張しますけど。里村さんがそういう思いなので、自分たちも会社のために尽くしたいという気持ちになれます。
昨夏のゼビオアリーナ大会から子どもたちを招待するためのクラウドファンディングを始めました。今年もゼビオ、代々木、仙台サンプラザを対象におこないますが、反響はどうでしたか。
橋本 道場に子どもたちを招待してレスリングクラブをやっているんですけど、5人ぐらいだったのが今は10人に増えたのもその反響だと思います。そこに参加したちっちゃい子たちが試合も見に来てくれて「あの試合、よかったよ」って言われますからね。
子どもに上から言われる。
橋本 「超カッコよかったよ!」みたいな感じで(笑顔になる)。ありがとうございますってなります。だんだんプロレスを見る年齢層も上がってくる中で、いかに子どもたちに夢を与えるかというのはすごく大切。自分は普段「夢教室」という小学5、6年生対象の講演会をおこなっているんですけど、そこでもまだまだプロレスを見たことがある子たちが少ないと感じていて。でも、その中で将来の夢の一つとしてプロレスがあったら、いいじゃないですか。だからプロレスを広める意味でも、こういう活動を続けていけたら。
子どもたちを大会に招待する時は、こちらから各学校に連絡して「見に来ませんか?」と声がけしている形なんですか。
橋本 ゼビオの時は仙台市教育委員会の方が、全部振り分けてくださりました。
間をつないでくださる方がいらっしゃるんですね。
橋本 ただ、東京に関してはそれがないので、苦戦中なんですけど…自分のレスリング関わりで、レスリングをやっているチビっ子たちを呼ぶという話で今は進めています。
そういう試みも含め、団体として将来を見据えた活動をおこなっている印象です。そこは選手たちで案を出し合っているんですか。
橋本 そうですね。たとえば小学生向けにどんなグッズを出したらいいか、そういう案を考えて出します。今、仙台では8割ぐらいの方が楽天イーグルスの帽子を被っているんですよ。そういうのを仙女でもやりたいとか。
レスリングの合同練習も女子プロ全体の将来を見据えてのものになります。これは里村代表から出た案だったそうですね。
橋本 はい。引退されて1ヵ月ぐらい経った頃、今後はどのようにやっていくかという話になった時に言われたのが、私と愛海や優里佳たち次世代との技術の差がすごくあるから、そこを埋めるにはなんとかしないとねと言われて、レスリングの練習に連れていくのはどうですかと言ったんですけど、自分はもちろん仙女だけで考えていたんです。でも里村さんが「もう仙女だけで考えるんじゃないんだよ。橋本は女子プロレス全体を見なきゃダメだよ」と言ってくださって、それでとにかく全部に声をかけてみようと思って動いたら、想像以上に人が集まって、みんなこういう場を求めていたんだなって改めて知ることができて嬉しかったです。
それは橋本選手が各団体に連絡を入れたのですか。
橋本 そうです。こういうことをやるんですと一番偉い方に入れさせていただいて、皆さんからぜひお願いしますって快くお答えいただきました。各団体さんで希望を募ってくれて、何名参加しますというように。最初は自分の知っている範囲でやっていたんですけど、そのほかからも「ウチにも声をかけてください」と言ってもらうようになって、ちょっとずつ広がっています。
他団体でも、レスリングの練習ができる環境を求めていたんでしょうね。
橋本 女子プロレスは特にレスリングからかけ離れていると感じていて、それを求める選手もそこまでいないだろうなと思っていたんです。それだけに、ちゃんとやりたいと言ってもらえるのが嬉しくて。だったらこちらも真剣に教えたいってなりました。
母校の安部学院高校の協力で練習場を借りているんですよね。
橋本 はい。今の高校の監督が、自分の1個下の後輩なのでそこはやりやすかったんですよ。学校の方も喜んでくれていて、レスリングも競技人口が減ってきている中で、もっと女子も盛りあげたいという気持ちがあって、逆にプロと一緒に練習すればレスリングの子たちがプロレスを見るようになるだろうし、こういう活動をしていると女子プロレスラーになりたいという希望がレスリングを始めるきっかけになることもあると思うので、お互いにすごくいい。
他団体から参加した選手の声は聞いていますか。
橋本 みんな楽しんでくれています。初めは本当にヒーヒー言って、最後まで練習についてこられない子がほとんどだったんですけど、1年やってみんなが最後までできるようになりましたし、形にもなっているんで。逆にレスリングの子たちから言われるのが「あんなに純粋な気持ちで練習している人たちを見ると、気持ちがいい」と。
プロが純粋に練習へ打ち込む姿が、アマ選手の心を動かしている。
橋本 そうなんです! レスリングって小さい頃からずっと続けていくものなので、長くやるうちにそういう気持ちがだんだんなくなってきてしまう。だから、ガムシャラにやる姿が刺激になるって言ってもらえるんです。
彼女たちからすれば、自分よりも大人がそういう姿を見せているわけですから感じるものはあるでしょう。
橋本 プロの方にとっても、ここまで辛い練習をすることって今の時代はなかなかないし、30人ぐらいで一緒にやることで団体の枠を超えた仲間意識も芽生えます。自分もレスリングの練習にきた選手がどういうプロレスをやるのかが、気になるようになりました。
目の届く範囲で、成果を出していると見受けられる選手はいますか。
橋本 スターダムの選手が何回か来ているんですけど、見ていて普段からレスリングの練習をしているのがわかりましたし、序盤でそういう動きは出しています。EVO女(EVOLUTION)の子たちも毎回来てくれて、どんどんできるようになっていますしね。仙女の子も試合の中でだいぶレスリングの動きを出せるようになりました。あと、若手だけじゃなくてキャリア10年以上の選手からも声をかけてほしいというのがあるのも、よかったなと思います。ただ、この練習会に参加していることがすごいみたいになっている風潮があって、誰々もこの練習会にいけよみたいにSNSで書いてあるのを見ると、すごくむかつきますね。本当、純粋に強くなりたいと思っている子たちが来てくれているので、これは期限を決めずに私がいる限り継続していきたいと思っています。
若手選手によるレスリングトーナメントをいずれやってみたいと言われていましたよね。これはぜひ見たいです。
橋本 実現できるかわからないですけど、まずは8月28日の代々木の前座でスパーリングレベルのものを公開できたらいいなとは思っています。
それは仙女同士で?
橋本 いえ、ほかの団体から練習に参加した選手で許可が取れたら。やっぱりそういう部分も見せられたらいいなと。もちろんレスリングをやって、プロレスにつなげることが一番ですけど、レスリングをやっているんだったらレスリングとして成果を出せる場もあっていいと思うので、実現させたいんですよね(エキシビジョンマッチ4試合という形で実現する)。
何よりもやっている選手たち自身がその成果を見せたいと思うでしょう。
橋本 勝ち残りスパーリングをやるんですけど、それもメチャクチャ面白くて、闘志ムキ出しで絶対に負けたくねえ!っていう気持ちが伝わってきます。誰か1人が勝ち残るんじゃなく、どんどん入れ替わっていく形式なんですけど、レベルが同じぐらいなので今やるべきだなってすごく感じています。
橋本選手から見て、レスリング面で可能性を秘めている選手はいますか。
橋本 みんながいいんですけど…でも、LLPW-Xの里奈は(総合)格闘技経験もあるので、やっぱりしっかりしている。土台がちゃんとあって、組んだ感じが強いなって。
あとはそれをどういうカラーで出していくかですよね。そこはセンスなんでしょうけど。その練習に参加したらいきなりバリバリのレスリング色になったというわけにもいかないでしょうから。
橋本 そうですよね、持ち帰ってもらったら、あとは本人がどう活用するかです。
各団体のチャンピオンより
下の子たちの方が脅威
里村代表が言った通り、本当に女子プロレス界全体を視野に入れる立場となったわけですが、それが負担に感じることはないですか。
橋本 いろいろな人からプレッシャーにならないですか?って言われるんですけど、いやいや、それを感じていたらやめているだろうと。感じないです。
通常は団体最高峰のベルトを持っていたら、エースとして団体を盛りあげていくことに専念すれば十分役割は果たしていることになるわけです。橋本選手は、それ以外のことを率先してやっている。
橋本 そこは自分がなんでもやりたいタイプなので。いろいろやることでどんどん広げられたら嬉しいし、純粋にプロレスを広めたい気持ちがあるから全然負担じゃないんです。
仙女内での自分の使命に関してはどう考えていますか。
橋本 今はみんなをまとめる役というか中間管理職のようなもので、みんなの意見を採り込んで会社に伝える位置にもあります。
センダイガールズワールドチャンピオンシップ王者として、ただ勝ち続けていればいいという立場ではなくなってきた。
橋本 そうですね。リング上に関しては、いつ私を倒す後輩が出てくるのか。
自分だけが突出していればいいというわけではない。
橋本 でも、自分が突出しているとはそこまで感じていなくて。仙女って、みんないいじゃないですか。それぞれ個性もあって。その中で今、私がチャンピオンなだけであって。ただ、そこは士気を高める意味でも私がこうじゃなきゃいけない、強くなきゃいけないという意識はあります。
現時点でのプレイヤーとしての最大の突き動かす動機は何になっているんですか。
橋本 日本武道館のメインイベントに立つこと。でも、それって絶対ではないので。私もこれからどうなるかわからないし、そこまで強さを維持できているかどうかの保証もなく、仙女はどんどん変わっていくので。立つというよりも、立たなきゃいけないという認識ですね。
里村代表は来年秋の開催を想定して動いています。
橋本 あっという間ですよね。私もそのタイミングだよなと思って、やらなきゃいけないってなっています。今の時点で、日本武道館が終わったあとのことをメッチャ考えるんですよ。やっぱりそのあとのビジョンが大切であって、そこまでいくのは絶対に簡単じゃないんですけど、登っている時の方が楽じゃないですか。じゃあそのあと、上がって今の人気をどうやって維持していくかをすごく考えます。それって、人を増やせばいいだけではないと思うので…けっこう、毎日プロレスのことを考えちゃいますよね。
そういう考えは自分の中で処理していますか。それとも仲間内で話題に出して共有しているのか。
橋本 里村さんには話しています。それ以外は自分の中で…はい。
たとえば同期の岩田美香選手と将来に向けての話を密に話すことはないんですか。
橋本 あー、絶対に話さないです。岩田とはほとんどプロレスの話はすることがない。
そうなんですね。
橋本 本当、驚くぐらいにないです。
同期だから、そういうことを一番話しやすい存在じゃないですか。
橋本 それがどうでもいい、くっだらない話ばっかなんです。だから、たまにリング上でガッと来られるとビックリするんですよ。プロレスの話をしないから、リング上で締まる部分もあるのかと思います。
同期というのは一番辛い時をお互いが励まし合って、将来こうなろうと夢を語り合うようなイメージですが。
橋本 苦しいことはいっぱい共有してきましたけど…言われてみると「あの先輩を見返してツートップになろうね」はありました。
共通の敵に対してだけは連帯すると。
橋本 私は私で、岩田は岩田で先輩に対し負けたくないというのは強くありました。
その岩田選手はデビューからしばらくは、今と540度違うアイドル路線でやっていたじゃないですか。至近距離からその変貌ぶりを見て来た者としては、どう映っていたのでしょう。
橋本 だんだん楽になってきているなと思っていました。会社にそういう方向性を充てられて本人も辛そうだったので…だって、合ってないじゃないですか(キッパリ)。素を出した方が岩田らしさっていうのがあるんだから。今の岩田になってよかったなって思います。カッコいいですもん。
そういう素材だということは、早くからわかっていたんですね。
橋本 入った初日にわかりました。4つ年下なのに「自分、先に入ったんでご飯おごるッスよ」みたいな感じで。おかしくないですか? そういう人間が最初はあの路線でいっているわけですから、違和感しかないんです。
そんな唯一の同期と2度目の国立代々木競技場第二体育館のメインイベントで闘うわけです(タイトルマッチ前に取材)。
橋本 1年前の仙台でやったのが7年ぶりのシングルマッチだったんですけど、そこではお互いの思いは出せたと思うんです。でも、今やるんだったら私も岩田だと思っていたので、そこは1年前とは違う思いをぶつけて、全然違う闘いになる。7年ぶりの時は、まだ私が勝つと思っている人たちが8割ぐらいだったと思うんですけど、あの闘いをやったことで次やったらどっちが勝つかわからないに変わったと思うんです。お客さんの反応を見て自分でも「次は岩田じゃないか」って思っているのを感じますし、その中で仙女の絶対王者は橋本千紘だっていうことを代々木で証明しなければならないと思っています。
橋本選手は、今の女子プロ界で自分が勝てないかもと思う相手っているんですか。
橋本 (即答で)いないんですよ。だってみんな、勝てますもん。
そこは自身の中で確固たるものがあると。
橋本 その中で岩田が能力高いのも知っているし、メッチャ頑張れば絶対トップへいけるポテンシャルを持っているのはわかっているんです。そこはずっと一緒にいるわけですから。なのに頑張らない部分もある。逆に言うと頑張らないでくれているから私は全然大丈夫。
頑張らない部分があるんですね。
橋本 それこそ私と同じぐらいに練習をしたら、全然私よりも上にいっています。でも、並みの練習であのレベルにいるのってすごいじゃないですか。その上センスもあるしで。だから他団体も含めて、岩田が一番怖い存在ではあるんですよ。岡も練習量とかすごいんですけど、それは身近にいていっぱい見る機会があるからそう映る。私生活まで見ちゃうと、私よりやっているなって思っちゃう時もあるんですけど、他団体の人は試合しか見ていないから、その限りでは私が負ける要素は一切ないって思えます。
各団体に最高峰のベルトを持っている選手がいるわけですが、その人たちを見てもすべて自分が勝つと思えるんですね。
橋本 むしろ今のチャンピオンじゃない子たちの方が怖いです。暁千華や桃野美桜もそうですけど、下からのジェラシー、絶対にトップを獲ってやる!っていう子たちの方が脅威に感じます。チャンピオンの人たちからは、そういう怖さは感じていないので。
ただ先日の朱里戦のような選手とやると刺激を受けますよね。
橋本 もちろん、刺激を受けます。
今後は、ますます他団体のトップどころとの対戦を求められるようになるでしょう。その中で橋本選手の方から対戦してみたいと思う相手はいるんですか。
橋本 彩羽匠はまだシングルで勝ったことがないので(1敗2分)。ただ、今ワクワクするかといったら別にしないので。
機運はまだ来ていない。
橋本 それよりも朱里戦のあとに「スターダムには強いやつがいないな」って言ったら、鈴季すず(現ワールド・オブ・スターダム王者)が噛みついてきたので、面白い存在だなと思います。
現在の女子プロレス界はスタイルや見せ方、価値観の幅が限りなく広がっていますが、橋本選手の目にはどのように映っていますか。
橋本 女子プロが来ているという感触はもちろんありますけど…プロレスって対人競技ですよね。エンターテインメントとしてビジュアルも衣装も大事なのはわかっているんですけど、その中でネイルをしてリングに上がっている選手がけっこういるんです。ネイル自体は全然いいんだけど、試合でやっているとすごく長いから気になって仕方がない。それで相手を傷つけることはプロレスじゃねえぞって、そういうところでスポーツマンシップを大切にしてほしい。仙女に上がる選手には、ちょっとでも爪が出ていたら剝ぎ取るぞって通達してあります。そういうところから気を引き締めていかないと、お客さんには見られているし、それによって「自分でも勝てそう」って思われちゃダメですから。
その通りです。
橋本 昔って、本当にすごかったじゃないですか。みんな強いし、カッコいいし、ちゃんと「絶対にかなわないな」って思わせていた。もちろん今は、それがすべてではないことで盛りあがっている部分もあるんですけど、今一度そういうのを見直してほしいと思います。
そうした時流の中で、ようやく仙女は強さで真っ当に評価される団体になりました。強さが魅力として伝わり、観客動員がアップするフェーズに達することができた。
橋本 そうですよね。ビジュアルだけじゃないんだよって。強い女を見せるのって、非現実的じゃないですか。非現実だからこそ、見る側が勇気や元気をもらえると思うんです。そこは目指してきたものが今、表現できているなって思えますね。
長い時間をかけて、ぶれることなく積み重ねてきたことが形になっているんだと思います。
橋本 だからこそ里村さんや(DASH)チサコさんのように仙女を築きあげてきた方に感謝しなければいけないです。
高野選手のように仙女を見てプロレスラーを目指す人たちがもっと出てくるために答えていただきたいことがあります。プロレスを職業にすることで得られる喜びであったり、カタルシス、多幸感は何がありますか。
橋本 私が小学生の時に見た感覚としては、プロレスラーは元気が出るものというのがあって、実際に見ているうちに高熱が下がった経験をしているんですね。それほどプロレスには科学で証明できないエネルギーがあるんですよ。それを与えられる人間になったことが私にとっての喜びで「うつ病でずっと外に出られなかったのが、仙女のプロレスを見るようになってからは外に出られるようになりました」というお客さんからの声を聞いたり、ほかにも外に出られなかった人たちがプロレスを見たいから外に出られるようになったりすると、本当に勇気とか元気とか、明日頑張ろうという活力になれているんだなって。
誰もがなれるものではないだけに、特別な充実感があると思われます。
橋本 また、そういうふうになれればなれるほど、ありがたいことにちゃんとお金も稼げているので、夢があると思います。よく言われるのが、楽しめる職業だということ。なかなか仕事って楽しむ対象にはならないじゃないですか。同級生や兄からよく言われるんです。「楽しみながら仕事ができるのって、本当に幸せだよな」って。その意味ではプロレスラーになって本当によかったと思えますよね。
