鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2020年5月号では、連載別枠として全日本プロレス・諏訪魔選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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諏訪魔(全日本プロレス)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

こういう状況の中で三冠王者に
なったのは“守る”ためだと思う

諏訪魔(全日本プロレス)

©全日本プロレス/FIGHTING TV サムライ/カメラマン:中原義史

昔から何かいいことがあると
悪いこともついてきていた

1ヵ月間、興行自粛をはさんで開催された3・23後楽園で3年5ヵ月ぶり7度目の三冠ヘビー級王座を奪取しました。こういう状況下(非常事態宣言前)の中で集まった人たちが一体化になれる貴重な空間で、改めてイベントの意義を感じました。

諏訪魔 客席のみんながマスクをつけているという、それまで見たことがない光景を見て「声を出しちゃまずいだろうな」と思っているんだろうなというように自分も見ていて、どんな雰囲気になるのかなという不安はあったよね。でも、こういう中でも集まってくれた人たちだからプロレスが相当好きなんだなというのもわかったし、それでいざやってみたらいつも通りの声援をマスク越しに送ってくれて嬉しかったし、プロレスの力はまだまだ捨てたもんじゃないなと思えました。

あの日に後楽園ホールへ足を運んだ皆さんは、ある種の覚悟を持って自分の判断で会場へ来て、マスクの着用や消毒の協力などそれ相応の準備までしてみたいと思った方々なんですよね。

諏訪魔 そういう意味でも選手やスタッフだけでなく、あそこに集まった人たちも同じ思いを持っていた分、鳥肌が立つぐらいに一体感がすごかったし、闘っている自分もパワーが出ました。そこは今まで何度も三冠ヘビー級のタイトルマッチはやってきたけど、特別な空間だったと思う。

過去にも東日本大震災時も三冠王者として闘うシチュエーションでした。

諏訪魔 震災の時と今回とでは状況が違うから重ねるわけにはいかないんだろうけど、あの時も自粛ムードがすごくて、その中でも業界的に一発目となる大きな大会を両国国技館で節電してやった。三冠戦をやらせてもらって(2011年3月21日、KENSO相手に防衛)、すごく大変だった。あの時もプロレスの力を感じたけど、今回はその力も通用しない相手だから…元気になりたくてもなれない、自粛しなくちゃいけないムードがすごい。そこは声を大にしてプロレスを訴えづらい…づらいんだよね。でも、その中で最善の対策を心がけてあの日は開催した。その意味では震災の時以上にみんなで作り上げた空間だったなって思いますよ。こういう緊急事態の時に三冠チャンピオンとのめぐり合わせがあって、なんでなんだろうって自分で考えちゃうんです。もちろん答えは出ないんだけど、そこにはなんらかの意味があるはず。

プロレスの神様が「諏訪魔ならやってくれる」とそうしているのかもしれません。

諏訪魔 普段はメチャクチャ暴れまわるのが俺のスタイルなんだけど、こういう状況では“守る”ことを意識するからスタイルもそうなるよね。

その“守る”には、いろんなものが含まれていますよね。

諏訪魔 そう。状況的に自分の力が及びづらい中で、それでもチャンピオンとしての役割を模索している。ベルトを守る立場になったことで、そこからいろんなものを守ることに派生していく。全日本プロレスも守らないといけないし、スポーツ界全体にもいい影響を与えたいし、リングを離れたところで何ができるかということも考えるし。あれからさらに状況が深刻化して、今はお客さんを入れた形でプロレスができる状況ではなくなってしまった。オリンピックでさえあのようになって…選手の大変さは俺自身も目指していた世界だから痛いほど気持ちがわかる。1年間の延期って、その1年メンタルを保つのって、ものすげえキツいことですよ。肉体もケガしないようにしなきゃいけないし。

前王者の宮原健斗選手が2018年10月21日から1年5ヵ月間タイトルを保持し続け、このタイミングで挑戦した諏訪魔選手への声援とコールがすごかった。全日本のファンが、ここで諏訪魔を待望したというのも印象的だったんです。

諏訪魔 宮原の三冠防衛記録(歴代新記録となる11度目の防衛)が懸かっていて、俺は(タイ記録の)川田さんの記録を超えるにはまだ早いって戦前に言っていた。それと同じ思いを全日本のファンが持っていたんじゃないかな。宮原がその記録を作るのであれば、もっとキャリア重ねたところでというね。あとは新しい景色を見たがっていたところもあっただろうし。

過去に6度戴冠している諏訪魔選手に新しい景色を託したというのも全日本のファンらしいなと思ったんです。

諏訪魔 不思議なもので、何度獲ってもそのつど違う喜びがあるんだよね。初めて獲った時はベルトの歴史の重みに何もできなくなって、それを越えて獲った2度目は最初とはまったく違う嬉しさを味わって、1度目が大変だったからこそ1年以上も守り続けることができた。分裂した時(武藤敬司らWRESTLE-1勢が離脱)も俺がチャンピオンで、残った自分たちはどうすればいいかという状況だったし、5度目の時は獲ってすぐにアキレス腱を切っちゃって返上して、それを克服して獲り返した時はまた違った感情があった。その時その時の状況によって同じ人間が持っても同じ風景にはならないから、今回もそういうね…普通がないんだよね、俺が持つ時って。

図らずも今回もそういう状況です。

諏訪魔 なんだろうね、昔から何かいいことがあると必ず同じぐらいの大きな悪いこともついてきていたんだよな。その逆もあるというか、暴れてばかりの俺があんなに応援されたことなんてなかったッスよ。3カウント獲ってしばらく立つことができなくて、ようやく自分の足で立って右腕をあげて喜びを表したら、みんなすっげえ喜んでくれているんだよね。俺の中で後楽園っていうのは難しい会場というのがあって、やっぱり一番目が肥えていて全部の気持ちが伝わってしまう。さらに発信力のある会場じゃないですか。

後楽園で起こったことだからより拡散されていくというのはありますよね。

諏訪魔 だから今でも構えちゃうんですよ。そこで三冠戦やって、自分が獲ったことであの空間が生まれてね。

2008年のチャンピオン・カーニバルで新日本プロレスの棚橋弘至選手と優勝決定戦を闘った時の雰囲気に似ているなと思いました。

諏訪魔 言われてみればそうだね。だいたい俺の場合、応援が割れるんですよ。でも、あの日は終盤に入るまでは宮原への声援とどっこいどっこいだったのが、最後は自分の方への声一色になって、これってあり得ねえよなって。だから勝ったあとにマイクで言ったことはそれによる思いであり、完全に素ですよ。

この状況の中で会場へ来てくれたお客さんへの感謝の気持ちでした。

諏訪魔 最近は素ですよ。石川(修司)選手との掛け合いをやっているうちに、これでいいんだなと思うようになって。こっちが飾らなくても俺がどんな人間性なのかわかってみてくれているから、そこでヘンにカッコつけると装っているなっていうのがわかっちゃうんでね。

宮原選手はキッチリとカッコをつけてそれを個性にしています。

諏訪魔 あれはあれでいい。じっさい、そうすることでもっとカッコよくなっていくだろうし。俺はカッコつけてもしょうがない。あの時は素直に「プロレスやっててよかったな」って思ったんで。

15年以上のキャリアを積んでいてもそう思えるのって、素晴らしいです。

諏訪魔 うん、そう思う。だけどその分、辛いことも付随してくるというね。

“普通”が戻ってきた時に…
みんなで盛り上がるのにハマったよ

その辛いことの一つとしてチャンピオン・カーニバルが中止という事態を迎えてしまいました。開催されていない時期を別とすると、中止は1973年にスタートして以来初めてです。

諏訪魔 毎年4月は、チャンピオン・カーニバルに臨むというように体がセットされていたからね。シングルの連戦が続く一年で一番キツい月という意識でやっているんで、まずリズムが狂っちゃうのが怖い。単に一つのシリーズが吹っ飛ぶというだけでなく、その後にも影響が出るんじゃないかっていう不安もある。だからといって強硬はするべきじゃなかったと思うし、社会情勢を鑑みて会社として正しいことをやったと思っています。今、よく考えるのはこれまでがすごくハッピーだったんだなって。プロレスが当たり前にできて、当たり前にお客さんと会える。でも、当たり前って実は特別なことだったんだなって。

普通は普通ではないと。

諏訪魔 3月の三冠戦も1ヵ月ぶりの大会開催だったから、試合勘が戻らずぶっつけ本番だったんだけど、プロレスがしてえという気持ちが溜まって一気に吐き出したからああいう試合になったっていうのもあっただろうし、試合がなかった1ヵ月間も三冠戦があるからということで気持ちを持続させることができた。それが今は、そこに向けてという具体的なものがなくなっちゃった状況じゃないですか。

チャンピオン・カーニバルを目標にしていましたからね。

諏訪魔 だからプロレスを続けていく上で各選手が何をモチベーションにして頑張っていくかというのが、今の状況の中で難しくなってくる。

じっさい、モチベーションは持てていますか。

諏訪魔 そこは先のことを考えて閉塞するんじゃなく、シンプルに練習あるのみ。逆に試合がない間に何をしていたかが、再開した時に出ると思うしね。あとは、チャンピオンとしてリング外でも全日本プロレスの存在をアピールする役割を意識して、ウチには動画配信(全日本プロレスTV)があるんだから、そこで選手の企画番組をやるとか。今、時間があるから昨日もベルトを磨いていましたよ。

「ベルトを磨いて待っとけ」とよく言いますけど、本当に磨いていたと。

諏訪魔 歴史を重ねてきている分、けっこう来ちゃっているんで。三冠のベルトも一本化してまだ6年ぐらいなのに、けっこう傷がついちゃって。そうやって今は“溜め”てね。再開したあかつきにはベルトもフル回転してもらわないとね。俺自身はそれこそ毎試合タイトルマッチでもいいっていうぐらいの気持ちでいるしね。

その中で希望していた石川選手とのタイトル戦を実現させなければなりません。

諏訪魔 タッグのベルト(世界タッグ)を持った者同士が三冠を懸けてやることって、今までなかったんじゃないかな。それが実現した時に、この1年以上で宮原が描いてきたものとはまったく違う風景が見られるんじゃないかな。

そこに宮原健斗の姿がない究極の三冠戦という風景です。

諏訪魔 こういう状況だからって急いでもよくないと思うけど、機運を高めていくのも難しい。そこはチャレンジですよ。心からみんなが安心して見られる状況になったら…それまで自分の気持ちが途切れることなく高めていくための時間だと思っているんで。

なぜこんなに石川選手とウマが合っているんですか。

諏訪魔 ねえ。それは俺も不思議で。俺、ずっと体育会系で来ているからその匂いが石川選手にあるからかな。二人とも社会人経験をしているという点でも似ているところがあるし。巡業と会場以外では普段、会ったりはしていないんですよ。

いい形でのビジネスパートナーなんですね。

諏訪魔 そうそう。基本、ずっとシングルプレイヤーでやってきたからあそこまでしっくりくるパートナーはいなかった。俺が一人のパートナーとこれほど長く続くのは奇跡だよ! タッグに縁がなかったからねえ。

世界最強タッグリーグ戦5年連続準優勝という記録保持者です。

諏訪魔 世界タッグも全然獲れなくてさ。ようやく巡り合えたいい奥さんですよ。俺が旦那ってことにしておいてください。

暴走大巨人というチーム名は、デカい男たちが集う全日本のアイコンにもなっています。

諏訪魔 いつの間にかデカい人間が集う場所になったよね。大量離脱があった直後はそこまでじゃなかったと思うし。

自然発生的な磁場があったんでしょう。

諏訪魔 秋山(準)社長体制に切り替わった時に“全日本プロレスとは?”というのを改めて考えて、打ち出そうとしたのはあったと思うけど、そこで明確に大型の選手を集めるぞというように言ってやったわけじゃないんで。でも、何かが形作られていくのってそういう自然発生なものから得てして生み出されていくんじゃないんですかね。やっている方はシンドいけど。

諏訪魔選手のサイズでさえ、自分よりも大きな相手とやるリングですからね。

諏訪魔 自分より大きな人間とやると、こっちが動かなきゃいけなくなるから大変だよ。大型の選手って自分からは動かずにやれるからそれが有利なんだよね。もはや俺なんて、普通サイズ。宮原は俺より小さいのにあんなにやっているんだからね。そういう中で、さっきも言ったように守ることを意識してやっていくことになるんだと思います。

もう暴走って言っていられない立場ですね。

諏訪魔 他団体にいって暴走してこようかな。もう俺もいいトシなんで「まだ暴れてんのかよ、このおっさん」って思われかねない。暴れて何か壊しちゃったりしたら全部自分に返ってくることもさすがにいい大人になったんだからわかっているしね。俺はどんな状況でも全日本プロレスを守る姿勢でいるんで、皆さんはまず自分の身を守ってください。そして“普通”が戻ってきた時にみんなで盛り上がろうよ。俺はこの前の三冠戦で、みんなで盛り上がるのにハマっちゃったよ!