鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txt/場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2015年9月号には、第24回ゲストとして全日本プロレスの“暴走専務”こと諏訪魔選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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※鈴木健.txt氏 twitter:@yaroutxt facebook:facebook.com/Kensuzukitxt

諏訪魔(全日本プロレス)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

全日本でやりたいようにやるには
リング上に関しては黙らせないと
ダメだなってなった

諏訪魔(全日本プロレス)

三冠を巻ける人間はたくさんいらない
自分が巻くことで長期政権を築く

―いきなりですが最近、プロレスについてよく考えるのはどんなことですか。

諏訪魔 秋山社長体制になって1年が経って、会社のことは専務の立場でいろいろやってきたけど、それだけで俺の持ち味は出しきれているのかっていうことを常に考えてきたよね。選手としてはもっと前に出ていこうという思いが強まってきたところ。やっぱり、リング上で活躍することが大事なんですよ。落ち着いちゃいけない。ブッチ切っちゃった方がいいんだなと。

―専務という立場を兼任すると、個人の欲求よりも全体を考えてしまうようになりましたか。

諏訪魔 どうだろう…俺なりにEVOLUTIONというチームのリーダーとして先にいく意識は持ってやっていたけど、メンバーたち(ジョー・ドーリング、青木篤志、佐藤光留)を押し上げていこうと譲っていた部分はあったかな。ただ、専務としてはそういうのはなかったと思う。“暴走専務”なんて呼ばれているけど、本当にその通りで好き勝手にやれているしね。

―専務としては好き勝手できないでしょう。

諏訪魔 大丈夫、社長がケツ拭いてくれますよ!

―いい会社ですねえ。諏訪魔さんは「すわまちおこし」として、プロレスによる地域活性化活動も積極的におこなっています。

諏訪魔 プロレスを見たことがない人たちに、いかに広めていくかっていうのを考えてやっています。俺らのやるべきことでしょう。

―チームの話が出ましたけど、青木選手のように自己主張するようになった人間も出てきました。これまではジュニアヘビー級の枠の中でやっていたのが、世界タッグ王座というヘビー級の闘いの中へ自分から入ってきた。

諏訪魔 あいつはもともとレスリングをやっていたんだから、性格なんて悪いわけで(ニヤリ)。生き残るために必死な世界でやってきて、それなりのアクをもともと持っていた。それを見ていて、いい子ちゃんしてやがるなって思っていたんです。EVOLUTIONでは自由な思想と発言ができる環境を与えている。それによって、あいつがひとつの“商品”に化けた。

―三冠ヘビー級前王者の潮﨑豪選手からイリミネーションマッチで勝利を奪い、注目されるようになりました。

諏訪魔 ファンはちゃんと見ているんだなって思いましたね。もちろん勝ち負けも重要だけど、レスラーが何を考えてやっているか、そういう姿勢みたいなものが伝わることによって応援しようってなるわけで。佐藤にしても、あいつのために「ベルトを巻かせる会」なんて起ち上げたけど、ベルト(世界ジュニアヘビー級)を獲れなかった。でも、何回でもチャレンジしていく姿勢を見せていくのが大切なんだと思う。ああ見えて、あいつはあいつですごい部分があって…。

―認めているんですね。

諏訪魔 ネットに強いところとか。

―そこですか!

諏訪魔 しゃべりが達者だとか。EVOLUTIONの広報要員で入れたんだけど、強くなりたいっていう気持ちはあるんでね。自分のいい部分を消さないで、いい結果を出してもらいたい。

―その中で正パートナーでもあったジョーが、長期欠場(左ヒザ負傷)することが発表されました。

諏訪魔 年内は厳しいかもって聞いているんで心配なんだけど、ジョーが不在のEVOLUTIONだから面白くなっていくという面もあると思う。じゃあここで俺の出番だっていう気に、2人にはなってほしいし。俺自身もパートナーがいなくなったタイミングで9月に王道トーナメントがあるから、シングルに集中できるって考えるようにするけど。でもその先には最強タッグ決定リーグ戦があるから、パートナーはどうしようかっていう問題も出てくる。

―青木、佐藤選手以外のパートナーも考えられますか。

諏訪魔 今の時点では誰というのは思いつかないけど、そういう考え方もあるよね。ジョーが間に合えば問題ないんだけど。

―今年で3回目を迎えるシングルのトーナメント、王道トーナメントに関しては、諏訪魔さんの中ではどんな位置づけですか。全日本には春にチャンピオン・カーニバルというリーグ戦があります。

諏訪魔 歴史で比べたら、チャンピオン・カーニバルのようなブランド化はまだしていないんで、これからがその瀬戸際になってくると思います。それこそカーニバルのように、王道トーナメントだから見にいくって思われるぐらいに、ブランド力を高めていきたい。それにはどんな方法があるのかって、向き合いますよね。選手としては、やっぱり一発勝負の怖さがある。リーグ戦なら負けても最終的な得点で勝ち上がれるけど、トーナメントの闘い方をしていかなければならない。ジュニアの選手にクルッと丸め込まれたりとか、そういうのは気をつけるよね。

―プロ入りする前からレスリングの世界でトーナメント方式は経験してきている分、場数は踏んでいます。

諏訪魔 俺は好きでしたね。リーグ戦よりも一発勝負の方がそういう意味では性に合っているのかもしれない。でも、過去2回優勝できなかったんだよな。去年は決勝で潮﨑に負けちゃったんで、今年はその雪辱を果たしたい。

―王道トーナメント制覇の先には三冠ヘビー級も見えてくるでしょう。

諏訪魔 今、横綱(曙)がベルトを巻いていて絶好調で安定してきているけど、どうも新しいベルトになってから(インターナショナルヘビー級、PWFヘビー級、UNヘビー級の3本のベルトが一本の新ベルトに統合された)コロコロとチャンピオンが変わっているじゃないですか。俺は、あのベルトを巻ける人間はそんなにたくさんいるもんじゃないと思っているんで、自分が巻くことで長期政権を築きたいんですよ。

―これはどの団体にも言えることですが、全体のレベルが上がったからか長期政権が難しいですよね。昭和の時代は1年間ぐらい持ち続けたり、十何回も防衛したりというのが見られました。

諏訪魔 2回目に三冠を獲った時に、1年以上持っていたんだけどかなり辛かった記憶があります。長く持つことの大変さ? ただ防衛を重ねていくだけはダメなんだなって。その間、常に話題を振りまき続けなければならない。それが途切れたら、たぶんベルトを引っ剥がされる時なんですよ。それはある意味、ファンに引っ剥がされるようなもの。

―チャンピオンとして支持を得られないということですよね。諏訪魔さんは三冠初奪取の時も苦しみました。初めての経験だったから、どういうチャンピオン像を築けばいいのか悩んでいるうちに5カ月で手放してしまった。

諏訪魔 本当の意味でチャンピオンになれたって思えたのは2回目からだったよね。ベルトを獲るまでよりも、獲ったあとの方が難しいっていうのもわかったし。チャレンジする時は獲ることがモチベーションになるけど、防衛戦を続けるうちにルーティンになりかねない。そこでどこにモチベーションを置くかっていうので、みんなつまずく。自分の場合は、面白い相手がいっぱいいたから1年間持てた部分もあったと思います。

―ああ、言われてみれば昔は外国人選手が替わるがわる来日して挑戦していたので、モチベーションが続いて長期政権につながっていたとも言えますね。

諏訪魔 その点、横綱はいい意味で安定してきているなって感じます。だからこそ、今の横綱とやってみたいんだよね。そんな横綱に勝ってベルトを獲ればそれだけでも話題になるわけだし。結局、どんなにいい試合やすげえ試合をやっても、見てもらってナンボなわけで。それには自分たちでどんどん話題を提供して興味を持ってもらわないと…タイトルを獲ることだけに執着していればいいってもんじゃないですよ、今は。

激しい部分をやってきたけど
これからは明るく楽しいも前面に

―体を削って闘い続けても報われません。話題を提供し、興味を持ってもらうのは全日本全体でやっていかなければならないテーマでもあります。

諏訪魔 それもあって、他団体の選手ともやっていかなければと思っていたんだけど…。

―IGF・藤田和之の一騎打ちをお互いにブチあげながら実現にいたっていませんね。

諏訪魔 ホントだよ! こっちはいつでもやる準備しているのに時間ばかりが過ぎていっている。時間が過ぎてしまったら、関心が薄れてしまう。そうなったら、やる意義がなくなっちゃうじゃないですか。旬が過ぎたところでやるのは、モチベーション的にも辛いものがあるからね。それだったら、別の話題を膨らませていった方がいい。

―他団体絡みとなると、一方が良かれと思っても実現しない難しさがあります。

諏訪魔 飛ばせばいいってもんじゃないしね。話題になるからといって実現性のないことをブチあげたら、結局はこっちに返ってくるわけで。そこはファンとの信頼関係にかかわってきますから。でも、進まないからといって何もやらないのも違うと思うんですよ。もしかすると急転直下…それこそ、明日やることになったよって言われてもなんの問題もなくやれる準備は常にしている。いたずらに時を過ごすんじゃなく、その間に何をやるかだと思うんだよね。

―そういった中で、プロレスをやる上での今一番のモチベーションは何になりますか。

諏訪魔 藤田戦をブチあげた時に、これは響いたなっていうバン!と来る感覚があったんです。あれが快感だったというか、こういうものを藤田戦に限らずどんどん提供していくのが重要なのかなというのが、ぼんやりとわかって。ただ、それは完結まで行きついていなくて途中の段階じゃないですか。それが申し訳ないから、やるんだったら最終的な形を提供した上で自分自身がまたあの感覚を得てみたいっていう野心ができた。発火点という意味では、あれを味わえたのはよかったと思うよ。

―全日本内での突き動かすものは、なんでしょう。

諏訪魔 本音を言うとね、つい最近まで俺は全日本内でやることはないなって思っていたんです。

―やりきった感?

諏訪魔 うん、三冠も4回獲ったし、ほかのタイトルも獲って。じゃあ次は?ってなった時に他団体っていうのが浮かんできたんだけど、それがこうして進展しない。それで、全日本の中でやりたいようにやるには、リング上に関しては黙らせないとダメだなってなった。専務としての業務が忙しいのもあって、そこまで目が向かなかったこともあるけど、俺はプロレスラーなんだから。ベルトを巻いたからもういいかとか、やりきった感なんて感じていちゃいけないっていうのが見えてきたんですよ。みんなこの団体にいる限り、その中でやるべきことがないなんてないんだから。

―やはりリング上だと。

諏訪魔 全日本も、新体制になった時に新しく生まれ変わるっていったけど、まだ生まれ変わりきっていないと思うんです。だから、まだまだ変わることができる。俺自身も、これまでは明るく楽しく激しくの、激しい部分がやりたくてやってきたけど、これからは明るく楽しくの部分も前面に押し出していけたらと思っているんで。

―最後に『自叙伝 諏訪魔 俺は逃げない絶対に』(ザメディアジョン・刊)を出版したことについて話してください。

諏訪魔 デビューして10年っていうタイミングがあったんだけど、自分の人生が一冊の本になるのって不思議な感覚だよね、今までは読む側だったのに。本になって、ネットの情報として出るのとは全然重みが違うなと思った。

―それが紙媒体のよさですからね。

諏訪魔 本にしたことでずっと残るしね。けっこう、ここで初めて明かす話もあるし、プロレス界に入っての10年間の濃さを実感してもらえる内容なんで。それと同時にここからまた書き足せるような10年にして、20年目を目指さないとって思いましたね。