鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)コーナーでは、毎月旬なゲスト選手を招き、インタビューが掲載されています。現在発売中の2016年2月号には、世界中のファイターを集結させた総合格闘技イベント「World Series of Fighting Global Championship」第2回大会(2月7日、東京・TDCホール)に参戦する日本人8名の中から郷野聡寛選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
※今回は鈴木健.txt氏ではなく『月刊スカパー!』スタッフが取材を行っております。

※『月刊スカパー!』(ぴあ発行)の定期購読お申込はコチラ
※鈴木健.txt氏 twitter:@yaroutxt facebook:facebook.com/Kensuzukitxt

郷野聡寛(Benkei MMA System)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

41歳になっても
女の子に「素敵!」
と思われる試合を

郷野聡寛(Benkei MMA System)

PRIDEで闘っていた時より
うまくなっているのがわかる

―大会へのオファーはいつ頃あったんですか。

郷野 もともとは中国大会へのオファーがあったんです。オファーは10月半ばぐらいですね。そこ(海南島)は“中国のハワイ”って呼ばれている場所らしく、楽しみにしていたんですけれど。今年、中国のキックボクシングの試合に出たりして、中国にいい印象が残っていたんで。中国語の教本も買っていたし。近年はいろいろな国で試合をしてきたんですけど、日本での総合格闘技戦は本当に久しぶり、2013年11月以来、約2年3カ月ぶりです。

―一度は引退もしています。

郷野 僕が総合格闘技から一度離れたのは、2010年に間違った減量法を指導されて、失敗して、心と体の健康を失ってしまったことがきっかけです。その影響でかなりひどいうつ症状が出てしまった。でも、食べるためには試合をしなければならない。そういうひどい状況でずっとやっていたんです。その減量をやめたのが、今から3年ぐらい前。でも、2年以上間違った減量をやっていたんで、1年経っても症状はまったく回復しなかったんです。そんな状態でDEEPに2回出ましたが、全然ダメで。総合格闘技も一度引退しました。その後、縁があってブラジルへ移ったんです。僕のコーチに「ベンケイ」という人がいて、彼は格闘技選手への減量指導の第一人者でした。僕がまだ格闘技を続けるためにはブラジルへいって、もう一回頑張って結果を出すしかないと。結果的に、ブラジルで教わった減量法が合って蘇ったんです、地球の裏側で。ブラジルでトレーニングをして以降、結果もついてきました。10戦して9勝。1敗もフランスでひどい地元判定で負けたんですけど、それも内容は勝っていたぐらい。そういう蘇った状態で日本で闘えるのは、やっぱり嬉しいですよね。2年3カ月前に日本で見せた自分の姿は、本当の自分の姿じゃなかったということを証明したい。その機会をもらえたと思っています。

―今の充実した、強い郷野さんを表現するとしたら「昔の郷野が帰ってきた」なのか、それとも「昔よりも強い」なのでしょうか。

郷野 言葉にすると…自分の得手不得手や、身体の使い方を理解できたのが大きいです。それがあるから、自分がまだまだバリバリ現役でできるのもわかる。自分はもう41歳だけど、PRIDEで闘っていた時よりうまくなっているのもわかる。それに、41歳であの頃と同じパフォーマンスを見せれば「昔より強い!」ってわかるはず。年齢が逆に武器になっていますよね。昔よりもスピードもあって、スタミナもあって、全局面でうまくなっている。僕が今、尊敬しているのは三浦知良やクルム伊達公子であったり、山本昌であったり。彼らに加われるような活躍を見せたいですね。

―対戦相手については、どの程度情報がありますか。

郷野 名前と…写真だけ。あとは名前を検索してYouTubeで動画を検索するぐらい。自分はけっこう相手の情報をしっかりチェックして闘う方なんです。相手の強いところをチェックして、どういうところが弱いか、ひと通り知りたい。何試合か動画は見つけたんで、それでだいたい対策はできたと思います。ひとことで言うとメチャクチャ力強い。体力任せの選手ですね。相当強そうでしたけど、そんな相手とはこれまでさんざんやってきましたから。今のキャリアでは滅多にビックリすることはないです。なんとかなると思っています。

―41歳で総合格闘技に再び挑戦することに、恐怖感はないのでしょうか。

郷野 それはまったくないですね。試合の前に負ける怖さっていうのはいつもあるんですよ。負けると自分が費やしてきた時間とかが否定されてしまうから、負けるのは怖いです。そういう怖さ以外のネガティブな感情はないですね。早く復活した自分を見せたいという気持ちだけです。1月の頭からまたブラジルへいって追い込んできますし、2月に戻ってくる時はコーチのベンケイも連れてくるので。彼が後ろに立って闘う郷野聡寛を見せたい楽しみの方が大きいです。まあ、中国のハワイの楽しみには負けますけどね。ここで勝って、ぜひ中国でオファーをもらえるように…ほかの外国人選手よりは知名度もあるだろうし、中国のハワイにいく準備はできていますよ。

―ブラジルでのトレーニングで効果的に感じているところ、今大会に向けて特に特訓していることなどがあれば。

郷野 ベンケイのトレーニングは減量法も効果的なんですけど、彼はフィジカルトレーニングとスタミナをつけるのが本当に得意なんです。去年も相当シンドかった。あれをやると、自分より厳しく追い込んでいるやつはいないだろうと自信がつくほど。肉体的にも、そういった心の強さを身につけて帰ってきたいですね。ジムのほかの選手たちも、柔術の黒帯だらけなので。自分の相手に対して使えることを身につけてきたいです。去年はチームメイトにひどくやられましたから。みんな強いんです。だからといって、彼らが総合格闘技で勝てるかどうかは別なんですけど。そういう試合での勝ち方、強さにおいて自分は本当にうまい方だと思うので、強いところ弱いところを相手と比べて、しっかり試合を作って、ほんろうして、相手の光を消して…で、だいたいそうやって相手の光を消すと、ついでに客席の光も消えちゃうんですけどねえ。

―今、変化しつつある日本の格闘技界をどうご覧になっていますか。

郷野 正直、どうでもいいですよね。周りがどうあれ、自分ができることは決まっていますし。自分が結果を出していくしか、格闘家として生きていく道はないですから。周りはどうでもいいです。気にしている余裕はない。勝てば年齢が武器になるけど、負ければ年齢のせいにされるのはわかっていますから。どんどん使われなくなる。勝つしか道はないんです。

勝ったら10年越しの
デートを久江ちゃんと

―うつ病や病気でさまざまなものを失ったわけですが、今なお格闘技を続けるのは何がそうさせているのでしょうか。

郷野 やっぱり悔しさですよね。あれは本当の自分じゃなかったというのを証明したい。ものすごいんです、悔しさをはじめとしたネガティブな感情は。自分が落ちていったことによって、態度が変わっていく人間もいるし、自分に間違った減量法を教えた人間へのすごい恨みもあるし。この感情を前向きなものにするには、やっぱり格闘技しかないんですよね。本当に続けるしかないんです。やめたらこのネガティブな感情をどう処理していいかわからない。だから、やめられないというのもあります。41歳の今が一番ハングリーですよ。

―UFCでも郷野さんがかつて闘った選手たちも第一線で活躍しています。

郷野 そうですね、本当にすごいです。そういうのを見るとやめられないですよね。

―一度、引退を表明したわけですがその後、悔しさというエネルギーに火をつけてくれたものはなんだったんですか。

郷野 昔から練習仲間だった三崎和雄っていうのが、彼が引退セレモニーする時に、自分の総合復帰試合をお膳立てしてくれて、戻ってきたのはそれがきっかけ。やっぱりすごい恥ずかしかったですよ。5月に総合引退表明をして、その年の年末に復帰するなんて。カッコ悪くねえかって。でもお膳立てをしてくれて、復帰をして、それでもうすごい恥ずかしい思いをしましたからね。これ以上恥ずかしい思いはしたくないという気持ちも強かったです。あとは、間違ったダイエットをやめれば俺はまだまだ強い!とも思っていた…うん、やっぱり間違ったダイエットへの恨みでしょうね。引退撤回してからのすべての原動力は。

―41歳、まだまだ格闘技を続けていくわけですが、これからの目標に考えていることはありますか。

郷野 これまでの自分がやってきたことを上回る活躍をして、続けられるかぎり選手として闘い続けていくことでしょうね。

―上回る活躍というのは、具体的なステージは見えていますか。

郷野 UFCは過去にも挑戦していますし、コーチのベンケイがUFCの担当にたびたび推してくれているらしいですけど、そのたびに「年齢が…」と断られているとか。UFCでもう一度勝てれば一番いいんでしょうけれどね、その実現性はゼロに近い。不可能だろうと。だったらどうすればいいか。こうやって使ってくれる団体でベルトを獲ることが、自分が目指せるところとしては一番遠い目標だと思っています。まずはそこを目指したいですね。12月のシュートボクシングの大会でも、向こうの日本チャンピオンに勝っていますし、多分次はベルトを懸けてリマッチになると思う。2016年、早いうちに2本のベルトを獲りたいですね。やっぱりベルトが一番わかりやすいじゃないですか。2015年の8月に中国でベルトを獲ったんですけど、お祝いしてくれる人たちも今までとは違った喜び方をしてくれるんです。ベルトの価値を改めて実感したので、どんどん増やしたい。僕は昔からボクサーのロイ・ジョーンズにあこがれているんですけど、彼のように体中にベルトを巻きつけて写真撮影したいですね、8本とか9本とか。

―ケガはできないですね。

郷野 そうですね。僕は格闘技を始めてからもう十数回も手術をしているんですよ。でも、それはこれまで僕が自分の骨格に対して、あまりにも大きすぎる筋肉をつけていたからなんです。関節が持たなかったんですね。体重が減るにつれて、ケガもしなくなっていったんで、今はその心配はないです。まあ、試合では何があるかわからないですからね、最大限の努力をして、頑張っていきたいです。

―最後に読者やファンにメッセージを。

郷野 41歳でこれだけできるんだっていうのを見せられたらいいんですけどね。僕が勝つ時ってどうしても静かな試合になっちゃうんですよね。相手の光を消して、僕もどれだけ有効な攻撃をできるかにこだわるから手数も少ないんで。なかなかお客さん的には面白くなくなっちゃうんですけど。やっぱり僕は大衆向きではないですねえー。そういえば、渡辺久江が同じ大会に出るじゃないですか。10年前にも僕と同じ大会に出ていて、勝ったらデートっていうコメントをしたんです。僕は負けたんですけど。今回勝ったら10年越しにデートしてもらおうかなあ。でも向こうも35歳だしなー。10年前の久江ちゃんじゃないしなあ。そんな10年経った自分と、渡辺久江がどんな試合をするか、楽しみに見てもらえれば。本心は僕がダイエットによって失ったものを取り返す闘いをしたいです。“女の子のネットワーク”も。勝って、もう一回作りあげたいですね。そのために、女の子に「素敵!」って思われるような試合をします!