鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txt/場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2017年5月号には、第42回ゲストとしてプロレスリング・ノアのGHCヘビー級王者・中嶋勝彦選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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中嶋勝彦(プロレスリング・ノア)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

ノアとしての軸を確立した時に
本当の新風景が見えてきます

中嶋勝彦(プロレスリング・ノア)

©プロレスリング・ノア/FIGHTING TV サムライ/カメラマン:蔦野裕

マサ北宮とのチーム名は
ハングリー・アングリーだった!?

ーこの数年、ノアに上がっていた鈴木軍が撤退したこともあり、今年の「グローバル・タッグリーグ戦」は中嶋選手とマサ北宮選手のコンビが2年連続出場で、それ以外の7チームはすべて初出場というフレッシュな顔触れとなりました。

中嶋 その中で僕らのチームが、一番のキーポイントになるんじゃないかなと思っています。単純に出場経験がある唯一のチームなんだから、優勝して当たり前のように見られるだろうし、自分たちもそのつもりでいるんで。そこに使命感というか責任も感じているんで、その先に(GHC)タッグのベルトも見据えてやります。

ー昨年、初めて北宮選手と組んで出場した時、どんな感触が残りましたか。

中嶋 今も俺たちの世代が盛り上げていくという意識ではやっていますけど、そういう思いの中でマサと組んでやっていこうと決めて組み始めてから、まだ間もなかった時期でした。もちろん昔から(健介オフィス、DIAMOND RING時代の先輩後輩)知っている仲なのでお互いがわかっているわけですけど、その中でお客さんの期待感がすごかったんですね。マサと組むことでこんなに熱い声援を送ってもらえるのかと。それが実際パワーにもなったし。そういう感触が残りましたね。でも、今回は2度目なわけだからもう期待されているで終わらせるわけにはいかないんで。そこが責任感というものになるわけです。

ーチーム名の“ジ・アグレッション”なんですが、北宮選手から聞いたんですけどチーム名を決める時に「“ハングリー・アングリー”はどうですか?」と中嶋選手に聞いたら「それ、面白すぎるだろ」と却下されたと言っていました。

中嶋 いや! そこはむしろ僕がハングリー・アングリーいいじゃん!って言ったんですよ。ハンプティ・ダンプティみたいで語呂もよくて覚えやすくてインパクトもあるじゃないですか。

ーいんぐりもんぐりみたいですね。

中嶋 意味的にも勝利に飢えていて、現状に対する怒りをパワーにすると。でも、なんとなく周りがそれじゃお笑いっぽいんじゃね?みたいな雰囲気になって。

ーもったいないんで、合体技の名前か何かで使いましょうよ。

中嶋 あー、そうですね。そこは何か考えた方がいいですね。ハングリー・アングリーっていう名前にすればTシャツも作れるなって思ったんですけどねえ。

ーぜひお願いします。リーグ戦に話を戻すと、現GHCタッグ王者組の杉浦貴&拳王もエントリーされています。

中嶋 正直、何をしたいのかがまだ見ていない。ノアの活性化のためにやっているんでしょうけど…あの2人も組み始めてからはまだ時間も経っていないんで、本人たちもああいうやり方(反体制)をしながらそれを見つけ出そうとしている段階なんじゃないですか。

ー今年の始めは北宮選手と拳王選手が組んで一度はGHCタッグ王座を奪取しながらその後、拳王選手が試合中に裏切り杉浦選手と結託しました。

中嶋 あの時点では、マサは拳王と組んでやっていくのか、じゃあ自分のパートナーはどうしようかな…という感じでした。

ーそうなりますよね。ジ・アグレッションという正式チームでやっているにもかかわらず北宮選手が拳王選手に走ったことについては、ちょっと待てよとはならなかったんですか。

中嶋 むしろ待っていたのは僕でした。まあ、いつかはマサも戻ってくるだろうからと。ジ・アグレッションを解散したわけじゃないし、ちょっと散歩にいったようなものかなって。

ーあれは散歩だったと! マサ北宮の放し飼い。

中嶋 そういう広い心でいました。そうしたら、思っていた以上に早く帰ってきちゃったんでビックリしました。マサが拳王と組むとなった時、じつは何人かこの人とだったら自分も組んでいいかかなと思った選手がいて、じゃあアピールするかと思ったんですけど、その矢先にあんなことがあったんで、あぶねーあぶねーって。

ー戻ってきた時に、北宮選手から「すいません、戻ってきちゃいましたんでまた組んでもらえませんか?」みたいなのはあったんですか。

中嶋 いやー、なかったッスね。まあ、自然と元に戻ったような感じですよ。拳王と割れた時点で当たり前のように2人で組むカードも組まれたし。僕もそんなところで「挨拶はないのか?」とかいう性格じゃないんで、あえて触れずに。

ー心の広い先輩ですねえ。

中嶋 拳王と組もうとなったのも、ノアを盛り上げたいという気持ちからなのはわかっていましたからね。あいつもプロレスが本当に大好きで…それだけに、その思いを踏みにじられて怒りがすごいことになっていますよ。

ー傷ついていなかったですか?

中嶋 いやいや、もう怒りしかないようです。体だけでなく心もブルブルと震えている。だから公式戦の中でも特に杉浦&拳王との試合のマサは、僕も止められない。

ーそれこそハングリー・アングリーですよ。そこでも放し飼いにするんですか。

中嶋 それがジ・アグレッションらしさにつながると思うんで。ただ、狙われるという立場はタッグチャンピオンだけじゃなく僕らも同じですから。今、僕がGHCヘビーの方を持っているんで、勝てば挑戦というのを誰もが狙ってくるじゃないですか。

ーチャンピオンはすべての試合がそういう立場になります。ここでリーグ戦を制覇し、そのあとにタッグにも挑戦して獲れたら、もう北宮選手も他の選手と組むようなこともなく、ジ・アグレッションとして揺るぎのない…。

中嶋 それはマサに言ってくださいよ! まあ、僕は信じていますから。現実的なことをいうと、チームとしてはタッグのベルトも獲っていないし、リーグ戦も優勝していない。実績自体は残せていないんですよ。

ー中嶋選手はGHCヘビー級奪取、北宮選手は昨秋のグローバル・リーグ戦で準優勝と個人では出していますが。

中嶋 僕は今年の目標としてグランドスラム(GHCヘビー級保持、GHCタッグ戴冠、シングル&タッグのリーグ戦制覇)を掲げているんで。

ー過去に誰もなし得ていないことです。

中嶋 今回のリーグ戦に優勝してその後にタッグのベルトを獲れば、もう王手がかけられるわけですから。逆にこのタッグリーグ戦で優勝できなかったら上半期の時点でその目標が崩れてしまう。

同じ年にデビューした潮﨑選手と
ベルトを懸けてやれたのは不思議な感覚

ーシングル王者だけにタッグリーグ戦以後のことも視野に入れてやっていかなければならない立場ですよね。GHCヘビー級王座の方は3・12横浜文化体育館のビッグマッチで潮﨑豪選手の挑戦を退けました。

中嶋 今のノアにとって大きなポイントとなる試合になったと思います。あそこまで試合の中で潮﨑選手と会話ができたのも初めてだったんで。気持ちの部分で過去にやった時とはまったく違うものが伝わってきたのが、実感として残りましたよね。

ー敗れた潮﨑選手が自力で起き上がってくるまで反対側コーナーで待ち続けて、立つと近づいて深々と礼をしました。

中嶋 あそこは…当日を迎える前に潮﨑選手の口から「ノアのために戻ってきた」という言葉が出ていたんですけど、それがどれほどの思いで言ったのかがわからなかったし、伝わってもこなかったんです。だから僕は、ノアを思う気持ちは自分の方が上だって言っていたんですけど、その思いが感じられたという素直な思いと、あとはこのタイミングでタイトルを懸けてやれたことでの潮﨑選手に対する感謝ですね。

ー感謝ですか。

中嶋 きっかけは横浜ラジアントホールで彼が僕に勝ったことで挑戦するとなったんですけど、そこからタイトルマッチに向けて気持ちの過程がお互いにあったと思うんです。それぞれが気持ちを高ぶらせていくことで、いい状態で文体を迎えることができた。そういうのって、一方だけが高まってもなし得られないものじゃないですか。

ー対戦する者同士が同じ意識を持たなければ、ズレが生じてしまう。お二人がデビューした2004年は高橋裕二郎、諏訪魔、鷹木信悟、飯伏幸太、フジタ“Jr”ハヤトといった選手がデビューした年で、豊作の04年と言われました。若い頃から同期という点で潮﨑選手のことは意識していたのでしょうか。

中嶋 ありましたけど、その時は上がる団体が違ったし、自分がジュニアだったので接点はなかったんです。それが13年ですか、時間が経ったらあの時に頭の中へあった選手とタイトルを懸けてやっている…意外とこの世界って狭いんだなって思いますよね。

ー狭いというのは遠いようで実現するといういい意味ですよね。

中嶋 そうです。普通に考えたら団体も階級も違うわけですから、当たるはずがないんですよ。でも、気づけば僕がノアの一員になって、そのあとに潮﨑選手が戻ってきた結果、こういうシチュエーションが巡ってきた。本当に、最初はやれるとは思っていなかったぐらいでしたからね。そう思うと不思議ですよね。

ー過去3度の防衛戦とは違った意味合いがあったんでしょうね。

中嶋 鈴木軍との闘いでは“守る”という意識が強かったのに対し、今回は“見せる”という方が強かったのかもしれません。

ー提示するという意味の“見せる”ですね。

中嶋 今のノアに必要なプロレスがどんなものなのか、そしてそれは俺たちの中にあるんだぞというのをお客さんに見てもらうタイトルマッチでした。ただ、そういうのはたった一つの試合で伝わるものではないんで、これからも続けていかなければならない。それでもまずは提示することから始める。そしてその相手が潮﨑選手だったというのは…やっぱり集約すると“感謝”になるんですよね。

ーリングを降りたあと、ゲスト解説で放送席に座っていた小橋建太さんの前にいき、勝利を報告しました。じつは東京ドームの小橋さんと佐々木健介さんの一騎打ちがおこなわれた3ヵ月半後(2005年11月5日)の日本武道館で、小橋&潮﨑vs健介&中嶋というタッグマッチがおこなわれたんですけど、あのシーンを見てその記憶が蘇ってきたんです。

中嶋 解説で来られているというのは知っていたんですけど、やっている最中はもちろんまったく意識していなくて。勝利者インタビューを受けている時に見えたんで自分が今、このベルトを持っていますよというのを伝えたかったんです。

ー過去に小橋さんが巻いていたベルトですもんね。

中嶋 頷いてくださいました。言葉がないところが小橋さんらしいなと思いました。なんか、こういうのってこれで完結みたいな感じになっちゃいますけど、僕と潮﨑選手はまだまだ熱い試合ができると思っているんで。むしろここからが始まりです。

ーお二人だけでなく、今年に入ってからのノアはどんどん風景が変わっていって他団体勢やフリーの新顔の選手も集まり、それぞれが主張をすることで活性化しています。

中嶋 でもテッペンから見させてもらうと、今のところはまだゴチャゴチャしているように映っています。もっと言わせてもらうと軸がない。顔ぶれが多いと確かに見る側としては面白いし興味が持てると思いますけど、それは逆にノアとして何を見せるのかというものが定まっていないことにもなってしまう。だからそれを正すのが僕の役目だと思っているし、そこは上の人たちに頼っていちゃダメですから。

ー上というのは丸藤正道選手のようなキャリア組の選手ですね。

中嶋 それは、先輩の人たちとやって超えるとかとは別次元の話だと思うんですよ。一人のプレイヤーとしてだったら、そういう人たちを蹴落として自分が上にいくことさえ考えていればいいんでしょうけど、今の僕はそれよりもノアという団体として何を打ち出すかをテーマにしているんで。軸をしっかりと立てることって、これからノアを見ようとしている皆さんにとって入る上での入り口になるわけじゃないですか。どんなに面白い個性を持っている選手たちが集まっていい試合をやっていても、まずは入り口を通ってもらわなければ見てもらえない。

ーその通りです。

中嶋 ジュニアに関しては、新風景になりつつあるとは映っています。ユニットもできてわかりやすくなってきている。じゃあ、ヘビーはどうなのか? 今年に入ってマサと拳王の件があったりで、どこか定まりきれずにいる。

ータッグリーグ戦エントリーチームのほとんどが初出場というのも、そこから派生している現象だとも言えます。ユニットとして定まっているジ・アグレッションのみが、出場経験のあるチームという。

中嶋 結局、マサと拳王がああなったのもやろうとしていることが割れちゃって、ああなったわけじゃないですか。定まりきっていないからみんながあっちこっちにいったり来たりしている。その現状の中で今回のリーグ戦がおこなわれることによって、ここから各選手、あるいはユニットの方向性が定まっていくんだと思います。単に新参戦選手が集まったからではなく、動きとしての新風景が見えるのはそこからなんじゃないですか。

ー軸というのはノアとイコールで結ばれるものを指していますか。

中嶋 そうですね。あとはもっと突き詰めるとイコールで結ばれる人間でしょうね。現状は、僕がベルトを持っていてもやっぱり丸藤正道であり杉浦貴となるんだと思います。特に今のノアを見ていない人にとっては、イメージとしてずっとそのままじゃないですか。外から見ていたら、ノア=中嶋勝彦とはならない。

ー……。

中嶋 そこを変えていくのって、本当に長い時間を要すものですよね。一回直接勝ってどうなるというようなことではないんで。でも、それをやり遂げたいし、やり遂げなければならないとも思うし。本当の意味で風景を変えるのって、そういうことですから。

ー歴代のチャンピオンはみんなそれとの闘いでした。

中嶋 僕なんてまだベルトを持ったばかりなんでひよっ子です。今、イコールで結ばれている丸藤さんも、三沢(光晴)さんや小橋さんの存在との闘いの中でノアの風景を築いてきたわけじゃないですか。だからいずれは丸藤さんともベルトを懸けてやるつもりだし。そういう意思もこめて発言しているつもりなんですけど…。

ー今のところ、ベルト獲りに向けての動きは見せていないですよね、丸藤選手。

中嶋 不気味ですよね。丸藤さんって行動派の方なのに、これに関しては慎重なのか、それとも興味を持たれていないのか。何も言われないんで不気味だから、こっちも小出しにしています。

ーチャンピオンになったことでメインのあとを締める役どころも増えました。慣れましたか。

中嶋 マイクですか? いや、慣れません。恥ずかしいです。でも、やるからには何かしら言葉が必要だと思っての「俺は止まらねえ!」なんですけど。

ー最初は自然に口から出た形だったんですか。

中嶋 鈴木軍の時の杉浦貴とやって、大流血して負けた試合(2016年3月19日、後楽園ホールでGHCヘビー級王座に挑戦)の前だったと思います。その時は、普通に「俺は止まらねえよ!」って言いたくてそのまま出たんですけど、それが結果的に…でも、締まってんですかね?

ー締まってますよ。

中嶋 あそこはやっぱり、みんなにも言ってほしいところなんで。ホント、いまだに恥ずかしいんですけど…言い続けます。ああいうことも、ちゃんとやれるようにならないとカラーもつかないですし。勉強中です。

ー勉強してどうにかなるものなんですか、マイクって。

中嶋 いやー、そこは回数をこなせばなんとかなるのではと。

ーリングを降りたあとにリングサイドを一周して押し寄せた観客の皆さんとスキンシップを図ってから帰るじゃないですか。ああいうのは本当に大事だなと思います。

中嶋 地方でもやるようにしています。後楽園では、やるたびに寄ってきてくれる人数が増えているんでありがたいですよね。ベルトを持ったらやろうと思っていたわけではなくて、横浜で(GHCヘビー級を)獲った時にマサが肩車をしてくれて、とっさにやろうと思ったのがきっかけだったんです。でもあれをやると、バックステージでコメントを出すのを待ってくださっているマスコミの皆さんを待たせてしまうんで、申し訳なくて。

ーあー、そこはまったく気にせずファンの皆さんを優先してください。1時間でも2時間でも待ちますから。あれこそがライヴに足を運んだ方の特権じゃないですか。中継等では得られないことですし、握手を交わせたら一生モノの思い出にもなります。

中嶋 喜んでもらうというより、僕の方が嬉しさをもらっている。「ベルトを持ち続けてくれ!」というように言葉をいただくことがあるんですけど、グッときますよね。あと、小さい子が近づいてきてくれるもの嬉しいし。これはたとえベルトを失うことになっても、自分がメインで勝ったら続けようと思っています。