鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txt/場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2018年5月号には、第53回ゲストとして新日本プロレス・KUSHIDA選手が本連載2度目の登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
※今回は『月刊スカパー!』スタッフが取材をおこない、鈴木健.txt氏が構成しております。

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※鈴木健.txt氏 twitter:@yaroutxt facebook:facebook.com/Kensuzukitxt

KUSHIDA(新日本プロレス)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

夢の起爆剤になって
KUSHIDAの名を
海外でも広めたい

KUSHIDA(新日本プロレス)

©新日本プロレス/FIGHTING TV サムライ/カメラマン:中原義史

ジュニアとして「夏のリーグ戦」
にも出るという野望を秘めて

―『ファイヤープロレスリング ワールドPresents BEST OF THE SUPER Jr.25』を前にして、ウィル・オスプレイの指名により5・4福岡国際センターでIWGPジュニアヘビー級王座へ挑戦することになりました。

KUSHIDA 願ったりかなったりです。(4・1両国で)指名された瞬間にスイッチが入りました。一昨年、彼はあの両国国技館で僕を相手にデビューしたんですけど、その時は僕がチャンピオンで彼がチャレンジャーだった。まったく逆の状況でタイトルマッチが決まることに運命じみたものを感じました。

―オスプレイ選手とはタイトルマッチやスーパージュニアの優勝決定戦など大舞台で対戦することが多いです。

KUSHIDA 海外遠征にいった時も常に彼が反対側のコーナーにいたり、常に会場を沸かせていたりしているのを見ていますからね。アメリカ、カナダ、イギリス…この間いったオーストラリアと、世界各国どこへいっても評価が高いライバルだと僕は思っています。ここ最近でヘビー級に転向する選手が増えた中で、階級の意味をジュニアは問われていると受け取っているんですけど、その中で僕はジュニアとしてヘビーを倒し、階級の壁をぶっ壊したいと思っていて、そこの部分においては同志というか、その可能性が一番大きい選手がオスプレイなんだと思います。

―ジュニアヘビー級のままヘビー級の選手に勝つことに意義があると。

KUSHIDA 福岡でのタイトルマッチはセミファイナルに組まれました。メインではオカダ・カズチカvs棚橋弘至のIWGPヘビー級戦が組まれています。その意味でもそれに負けたくない。セミというのを無視して闘います。世界に出るとわかるんですけど、プロレスのリングに上がったらもう身長、体重、年齢、国籍関係ないんですよ。言葉の壁を超えて、ニュージャパンがより大きくなっていく中で、体が小さいからこそジュニアヘビー級たる所以の意地やプライドを全部試合に落とし込みたいです。

―そのオスプレイが旗揚げ記念日(3・6大田区総合体育館)でヘビー級のチャンピオンであるオカダ選手とシングルマッチをおこないました。

KUSHIDA 絶対に勝ってほしいと思っていました。ファンの人にはどう映ったかわからないですけど、僕の目にはオカダが負けると思ったシーンは見られなかった。そこは僕も悔しかったし、ヘビー級のチャンピオンとのシングルを実現させたことは素晴らしいと思ったし頑張ったからこそだとは思いますけど、IWGPヘビー級チャンピオンに負けた人間をいつまでもIWGPジュニアヘビー級のベルトを巻かせておくわけにはいかないというのも同時に思いました。だからこそ今回の指名は、願ったり叶ったりなんです。

―オスプレイとしては、スーパージュニア前にタイトル戦をやらなければチャンピオンとしてリーグ戦に乗り込めたにもかかわらず、このタイミングでタイトルを懸けてやろうと思ったところになんらかの意気込みがあるんでしょうね。

KUSHIDA そうですね。前哨戦で棚橋&KUSHIDAとオカダ&オスプレイがけっこう組まれているんで、オスプレイには棚橋弘至を狙え、俺はオカダ・カズチカを狙うと。そういう前哨戦にしたいです。

―KUSHIDAさんの中では対ヘビー級を実現させる場合、どういうシチュエーションを描いていますか。

KUSHIDA オスプレイが旗揚げ記念日で実現させたので、同じことはしたくない。ベルトを持ったままスーパージュニアを優勝して、夏にあるリーグ戦に出て腕試しをしてみたいという野望を内には秘めています。スーパージュニアに2回優勝して、IWGPジュニアヘビー級には5回就いているとはいえまだやることがあると思っていて、そのうちのひとつが旗揚げ記念日でIWGPヘビー級王者vs IWGPジュニアヘビー級王者のシングルマッチに出ることだったのが、オスプレイに先を越されてしまった。だったら近年誰もやっていないという意味でも夏のリーグ戦も野望のひとつ。

―その夏のリーグ戦の前にジュニア戦士たちが見せてくれるリーグ戦があります。昨年は獣神サンダー・ライガー選手が最後の出場と宣言したので、今年からジュニアの象徴がいないリーグ戦が始まることになります。

KUSHIDA 去年、ベルトを落としてから川人拓来やそれ以外のヤングライオンと組む機会が増えて背中を押すシチュエーションが多くなったり、ロス道場にいってトレーニングキャンプでコーチとして教えたりする場面がキャリアとともに増えてきた。そうした中で、新日本プロレスとはなんぞや、ストロングスタイルとはなんたるかというところに行き着くわけです。そこで自分はまだまだ未熟者なので何も答えは出ていないんですけど、これだけプロレスがいろいろな形で進化していく中で、やはり僕はレスリングを見せたいなと。道場で培ってきたレスリングを今一度リング上で表現していきたいと思っています。

―はい。

KUSHIDA だからライガーさんがいないということ以前に、自分の中では地に足がついたレスリングというんですか、温故知新で先人が培ってきた道場で教えてもらった技術をこれまで以上に武器にして、スーパージュニアは闘いたいという気持ちです。そしてそれは、今の新日本プロレスのヘビー級においても失われつつある部分だと思うので、ヘビー級の中でも技術を持つ、リング上で表現できる選手も限られてくることにちょっと危機感を覚えていて。頭から落とすとか、場外で危険な技をやるとかの風潮は新日本の若手が海外遠征にいって身につけたものをヤングライオン時代との変化として見せるというのがフィーチャーされるじゃないですか、新しく見えるから。そういった中で自分は何を見せるか――バック・トゥ・レスリングですね。

―原点回帰。

KUSHIDA そういうところで魅せるってすごく難しいんですよね。ただ、僕はそれをやっていきたい。

―どんどん新しいファンが入ってくる中で、ストロングスタイルとは何かを知らない人たちも増えたでしょう。

KUSHIDA そもそも僕自身も当時を見ていないですから。それぞれの価値観があって、それぞれの戦法がある。オスプレイのような身体能力のある選手も僕自身も好きです。でもそういった中で日本人の僕が何を武器に闘うのかは、この3年ほどの中でシリーズとシリーズの間に海外遠征を繰り返す中で培ってきたものなので。そういう財産かつ、ヘビー級に負けたくないという腹の底からのものを吐き出したい。僕にとっての今年のスーパージュニアはそういう場ですね。

―そこが今回のスーパージュニアに臨む中でKUSHIDAさんの武器になるんでしょうね。

KUSHIDA もともと僕はプロレスラーになれない身長から始まって、片脚タックルで相手を寝かせて関節技にいくっていうのは身長も体重差も関係ないという基本からスタートしたんで、そこに活路を見いだすのが僕のスタイル。今年は連覇だからこそ言わせてもらいことがある…そういう野望です。

国内外からみた、昨今の新日本ジュニア

―先ほどロス道場の話が出ましたが、他の海外での大会も含めて新日本のジュニアでやっていきたいという選手はいましたか。

KUSHIDA これはもう、メチャクチャいましたね。特に海外では試合が組まれていないけど第0試合でもいいから使ってもらえないか、ケガ人が出たら代わりに出ますよという人たちがコスチュームに着替えてバックステージをうろうろしているんですよ。片手には自分の入場曲のCD-Rを持っていて、いつでもいけますよと。それで何人かトライアウトを受けた選手もいますし、新日本のキャンプでも普段はマスクを被っているメキシカンが「よかったら食べてください」って菓子折りみたいなのを持ってきて。

―そういう文化が向こうにもあるんですねえ。

KUSHIDA まあまあ、それはアミーゴとしてくれたのかもしれないんですけど、やけに丁寧な包装紙で包まれていました(笑)。外国でいうところのレガシーっていうんですか、先人が築いた偉大なる大会の歴史というものがベスト・オブ・ザ・スーパージュニアはありますからね。海外への浸透率でいうとスーパージュニアの方が名は通っているんです。なぜかというと、エディ・ゲレロ(2代目ブラック・タイガー)やクリス・ベノワ(ワイルド・ペガサス)、プリンス・デヴィット(現フィン・ベイラー)といった選手たちがみんなG1じゃなくてスーパージュニアで活躍したから。遠い島国で天下一武道会みたいな本当の実力者が集まる大会があるらしい。そこに出てこの業界で名を売りたいという選手がゴマンといます。

―そこに出て優勝しているKUSHIDAが来たと聞いたら…。

KUSHIDA 菓子折りのひとつも持ってきますよ(笑)。今の時代ならフェイスブックのメッセンジャーですごく律義に「ありがとうございました」って来ますね。どうやったら新日本に上がれるかというクエスチョンも直接僕に来ますし。プロレスで飯を食いたいと願っている外国人はみんな新日本プロレスワールドに加入していますよ。

—そんな中で日本人選手に関してなんですが。

KUSHIDA まずSHO&YOHは今回のウリなんじゃないですかね。シングルはほとんどやっていないんで未知数ですし、何を見せてくれるのかという期待感があるんで僕自身もやるのが楽しみです。髙橋ヒロムは人気・実力とも誰もが認めているところなので、スーパージュニアに優勝したことがないから、したいというモチベーションによる原動力はレスラーとして最高のエンジンになるので怖い部分ですよね。人によってはIWGPを獲るよりもスーパージュニアで優勝したいと思う選手もいるだろうし。

―鈴木軍では金丸義信、エル・デスペラード選手がジュニアタッグのベルトを獲っています。

KUSHIDA デスペラードは去年闘った時と比べて別人のようになったというか、覚醒しつつありますよね。今までは鈴木みのるの言葉を借りているような、彼本人の言葉ではない気がしていたんですけど、認識が変わってきました。金丸義信は誰もが認める実力者ですし、僕好みのタイプ。

―2016年に開催されたスーパーJカップ決勝戦の相手でした。

KUSHIDA チェスをやるようなレスリングができる相手。チェス、できないですけど(笑)

―ハハハハ、大概そうですよね。源流がまったく違うのに合う部分があると。

KUSHIDA そうなんです。それはすごく感じました。技術体系も間(ま)も全然違うと。それまでは全日本、ノア系の選手と闘ったことが一切なくて、それ以外のインディーの選手や海外の選手だったらなんとなく肌でわかるんですけど、金丸選手はJカップで闘った時にこれが馬場流と猪木流の流派の違いなのかとすごく感じました。

―そういうのを頭に入れて見るとファンも、より深く見ることができると思います。そうした中で、この数年は外国人選手が絡む優勝決定戦が続いています。

KUSHIDA 僕は3回優勝決定戦に出ているんですけど、リコシェ、カイル・オライリー、オスプレイと、この3人ですよ。優勝決定戦の舞台ってゴングが鳴った瞬間、本当に特別な空気が流れるんです。あれは何回経験しても緊張するんですけど、そういう中であの3人と闘えたのはすごく誇りに思っていて。あれは本当に贅沢な空間で、また味わいたいという意思が強いんです。そして、その空間に上がってくる相手は…今年は日本人がいいかなと。ただ、それが誰なのかはわからない。今まで優勝決定戦で見せてきたクオリティーのものを誰が出せるのかは今の時点ではわからないんで。

―出せる人間が上がってくるわけですからね。

KUSHIDA 僕絡みの優勝決定戦3回が、すべて外国人が相手というところに新日本の現状が表れていたということなんだと思います。それで今年からライガーさんがいないという中でどうなるか。僕は何がなんでも優勝決定戦に進みますので、日本人出てこいや!と髙田(延彦)統括本部長風に。

―さすがは元・髙田道場生。

KUSHIDA それこそ新しい新日本ジュニアを始める象徴的なものになると思うんで。過去・現在とすごいじゃないですか、スーパージュニアにおいての外国人の活躍ぶりが。そこに日本人対決による優勝決定戦でくさびを打つと。

―日本人同士による優勝決定戦は2011年の飯伏幸太vs田口隆祐以来6年間ないんですよね。その間、2013年にプリンス・デヴィットがバレットクラブの乱入絡みで優勝した時にライガーさんが「スーパージュニアは死んだ」と言っていて、最近話を聞いたら今でもそれを言っているんです。

KUSHIDA スーパージュニアって新日本の常連ではないけれど、そこで認められてレギュラーを掴み獲るというケースもある大会ですよね。僕自身もスーパージュニアきっかけで新日本に入団したわけで可能性、多様性に富んだのがジュニアの魅力じゃないですか。そういった選手たちとシングルマッチができるのも喜びです。

ジュニアは多様性に富んで
感情移入しやすい空間

―今年は優勝決定戦が後楽園ホールでおこなわれます。この4年間は国立代々木第二競技場や仙台サンプラザホールと大会場でした。

KUSHIDA 最初に聞いた時はやっぱり残念でした。G1が今年、日本武道館で3連戦ですからね。でもネガティヴに捉えても仕方がないので、これはもうプレミアムチケットですよ。去年、代々木第二が完売になったにもかかわらず、オリンピック前の会場の状況を加味したとしても悔しいと口にしないで、大人の事情だからと言っちゃうのは嫌なんですよ。だから僕が優勝して、来年の優勝決定戦を「両国でやります!」と発表するぐらいの気持ちでやります。

―後楽園だからこその爆発力が味わえる年だという考え方ですよね。

KUSHIDA そうです。会場にこだわると言っている一方で、プロレスに国境はないなということを最近本当に感じていて、リングに上がってしまったら闘うしかないのが僕らなんだと。アメリカだろうがイギリスだろうが、第1試合だろうがメインイベントであろうが100%、120%でコツコツとやり続けることで僕は上がって来られたと思っているんで。

―IWGPジュニアヘビー級のベルトを巻いて、スーパージュニア優勝も経験して、ここ数年の目標だった海外のタイトル奪取(ROH TV王座)も達成してとKUSHIDAさんの夢はどんどん実現しています。そこから先の夢…先ほど野望という言葉が出ましたが、今の自分を突き動かしている一番のものは何になるんでしょう。

KUSHIDA 2018年に入ってまさにそれを模索している最中で、ひとつやりかけていることとして先ほども言いましたけど階級の壁を壊すことに尽きますよね。地方にいっても肌で感じるんです、試合順とか声援の大きさとか、そういうところで差を感じてしまう。僕、34歳なんですけど残りまだまだあると思う一方でヤバい、もう残りの時間がないぞという焦りがあるのも現実で。今まで築いてきた基盤をフル活用、ジャンプ台にして自分の野望に対し忠実に行動していきたい。去年、死ぬほど忙しい中で海外をまわって、ケガを負ってもそれを隠しながら続けたんですけど、もうひとつの野望として新日本プロレスのKUSHIDAを海外に広めたいというのがあったから苦しくてもやれた。その中で、1・4のクリス・ジェリコや今回のロス大会で残念ながら負傷により流れてしまったんですけどレイ・ミステリオが参戦する予定だったじゃないですか。これから新日本に海外の大物が上がる機会が増えてくると思うんです。それと対戦することによって海外に名を広げられる部分はあるでしょうからね。

―レイ・ミステリオ戦は見たいですね。

KUSHIDA ミステリオは子どもの頃から好きな選手でしたからねえ。IWGPジュニアのベルトを懸けてやるとか妄想は膨らみますけど、やるなら夢の起爆剤になりたいですよね。ひと昔前だったらそれこそ夢の中の話だったのが、今の新日本なら実現できることですから。

―それではスーパージュニアに向けての意気込みをお願いします。

KUSHIDA ヘビー級とジュニアのどちらが好きかというのは人それぞれ分かれるとは思いますけど、初めて見に来た人にも楽しいと思ってもらえてわかりやすいのがジュニアの闘いだと僕は思っています。等身大の選手…体はけっして大きくない選手がそれぞれの闘い方で競い合う多様性の中で、感情移入しやすい空間です。去年のスーパージュニアで、僕は自分で「青春してるなあ…」って思えたんです。学生に近い独特なフィーリングなんですけど、出場した選手たちが優勝決定戦のセコンドについてくれて、大会が終わったら記念撮影するっていうのもG1にはない光景ですからね。そういうのを次の世代につないでいきたいって、キャリアを積んでくると思うようになりました。この灯を絶やしたくないです。