スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2018年11月号には、第59回ゲストとして大日本プロレス11・11両国国技館大会にて13ヵ月ぶりの復帰戦をおこなう岡林裕二選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
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「復帰戦の岡林裕二ほど
恐ろしい男はいない」
という都市伝説
岡林裕二(大日本プロレス)
©大日本プロレス/FIGHTING TV サムライ/カメラマン:中原義史
病院でスクワットしなかった分、
まだゆっくりしようと思った方
昨年までは7月におこなわれていた両国国技館大会が、今年は11月11日の開催とあって年間最大のビッグマッチに間に合う形での復帰戦となります。
岡林 自分としては10月ぐらいに復帰して、試合勘とかも徐々に取り戻して両国を迎えられたらとも思っていたんですけど(登坂栄児)社長の方から両国でという話もありまして。回復具合的には、医者の先生からも「できたら10月ぐらいに出られたらいいね」というように言われていて、10月は出ようと思えば出られるけれどもちょっと早いかなという感じだったんです。
会社としてはビッグマッチのウリの一つにしたいでしょうからね。前回、長期欠場した時(2014年1月5日、遠征先のドイツで試合中に左肩を負傷)は復帰まで11ヵ月かかりましたが、今回は昨年10月15日ですから1年以上…13ヵ月と2ヵ月長い欠場となりました(右肩関節腱板損傷・脱臼後関節唇損傷)。
岡林 でも、早く感じました。ケガの手術をして、退院から1週間ぐらいで右肩を吊りながらスクワットをしていたんですけど…。
腕を吊ったままスクワットしている絵ヅラも凄いですけど、少しは安静にしていなかったんですか。
岡林 ジッとできないんですよ。とにかく体のどこかを動かしていないとダメで。それに早く試合に出たいという気持ちもあるし。前回は手術して5日目にシャワーを浴びられるようになった時、シャワー室でスクワットをしていました。だから今回は、これでも病院にいるうちはゆっくりしようと思った方なんです。トレーニングを続けるうちに、どんどん月日が流れていった感じですね。
上半身を動かせるようになったのはどれぐらいだったんでしょう。
岡林 えーっと…12月に手術をして1月…あいや、違った。6月!
1月と6月じゃ全然違うじゃないですか。なんで今、間違ったんですか。
岡林 ウハハハハッ。だから半年ですね。それから5ヵ月で復帰まで持っていった形です。でも今回はまだよかったんですよ。前回は左肩で利き腕だったから不便で不便で。それで入院中はご飯を食べる時とかもお箸を右手で使っていたら、慣れてくるんですね。
もともと“ピッサリ”のポーズは右手じゃないですか。
岡林 自分、上投げが左で、ボウリングは右なんです。だから、下から出す時は…右で。
ピッサリのポーズって下から出しましたっけ?
岡林 こう…こんな感じで(アンダースローのように指を振るが、無理やり感が)。
そんなだったかなあ。試合に出られない間、できた時間を利用して新しいことを何か始めたりはしなかったんですか。
岡林 前回と一緒かな。ちょっと映画を見ていました。『午後のロードショー』ってやっているやないですか。あれを毎日録画して見ていました。けっこう見たい映画をやっているんですよ。「沈黙シリーズ」が大好きで。(スティーブン)セガール、最強やないですか。ピンチがないんですよ、ほとんど。ピンチが訪れるのは奥さんとか子どもで、自分には訪れない…最強やなと。
こうなりたいと思いながら…って、子どもの見方ですよ、それ。
岡林 わかりやすいですよね、アクション映画。映画館にはいかないんですけど…あとは『トラック野郎』は必ず。
それは別にケガをする前から見ていましたよね(岡林選手が『トラック野郎』について熱く語ったのはバックナンバー2016年4月を参照)。
岡林 あとは6月に長女が生まれたんで、その世話に時間を使っていました。それはそれでいいリハビリになりました。ケガした箇所を意識しつつ抱っこするんで。
生まれたばかりの我が子までをもリハビリに利用すると。裕子ちゃん、かわいい盛りでしょう。
岡林 裕子じゃないです。
ええっ、岡林裕子(仮)だとばかりてっきり…。
岡林 違いますよ。でも、父親になったことでさらに頑張らなければと思うものじゃないですか。それってホントですね。そうなると、一日でも早く復帰したいって思うようになる。これはねえ、もう復帰戦一試合で1年間休んでいたことを帳消しにせなあかんって。
溜まりに溜まっているものを一試合の中で全部放出すると。
岡林 休んでいる間、やれなかったことを全部一つの試合の中でやるイメージですよね。それを溜めていた分、勢いをつけて。水もそうですけど、ホースの口をふさいで出した方が勢いよく出るじゃないですか。
わかりやすいたとえです。2014年12月13日に地元・高知で復帰戦(関本大介&岡林&橋本和樹vs佐藤耕平&石川修司&河上隆一)をやった時の対戦相手だった石川選手が言うには、復帰戦の岡林裕二ほど恐ろしい男はいないと。勢いや溜めていたものや試合に出られなかった悔しさを怒りに変えて暴れるものだから人を殺しかねないぐらいに暴れると言っていました。もはや都市伝説化しているようです。
岡林 ああ…そういえば、試合のあとに耕平さんと石川さんに「ビックリしちゃったよ!」って言われましたね。自分はそんな意識まったくなかったんですけど…というか、あの試合は半分ぐらい憶えていないんで。舞い上がってアドレナリンがブワーッと出ていたのもあると思うんですけど、河上のエルボーを食らって記憶が飛んだんです。
記憶を飛ばしたことで逆に制御が効かなくなって、尋常ではないぐらいに暴れ回ってしまったのかも。
岡林 そうかもしれないですね。今回はその河上との一騎打ちですから、楽しみです。
記憶を飛ばされているのに楽しみと言えるのも凄いですが、河上選手は前回に続いて岡林さんの復帰パワーを浴びることになります。
岡林 そこは河上もわかっているだろうから準備はしてくるでしょう。それによってまたあの大日本一のエルボーを食らったら…。
また見境なく暴れ回ることになるかもしれない。
岡林 特別に暴れようと思ったわけではなかったんですけど。ただ、溜まっていたものを吐き出そうとしか考えていなくて…それが、結果的にそうなったということでしょうね。今回はそれに加えて、一試合で1年間休んでいた印象を完全に消す。それしか考えないです。
前回の復帰戦でそういう岡林裕二を体感していながら、自ら復帰戦の相手に名乗りをあげた河上選手は男ですよ。
岡林 あれはビックリしました、嬉しい反面。自分の中でこの人と復帰戦できたらいいなと思う人が何人かいて。ケガした時のメンバー(パートナーは鷹木信悟、相手は宮本裕向&木髙イサミ)もそうだったんですけど、河上だったら相手にとって不足はないし、やろうと言ってくれたことが嬉しかったんで。
13ヵ月、休んでいる間も大日本プロレスは動き続けています。ストロングBJ戦線はどのように映っていましたか。
岡林 若い選手たちの成長するスピードの速さに驚きますよね。次に会場へいって試合を見ると、前回見た時と比べて明らかに違うんです。特に神谷(英慶)の成長の速さにはあせりました。前も成長はしていたんでしょうけど、毎日のようにやっているとわからなかった。それが見る側に回ることによって実感できて、これは休んでいる場合ちゃうぞと。デスマッチの方でも血みどろブラザースの3人(高橋匡哉&植木嵩行&佐久田俊行)も成長しているじゃないですか。宇藤(純久)も最侠タッグリーグで初めてデスマッチをやった時は「ああ、頑張ったな」ぐらいにしか思わなかったのが、2戦目でガラッと変わったのを見て驚かされたし。要は大日本全体の成長が凄いスピードっていうことになるんですけど。
岡林が長期欠場したことで
大量生産型オカバヤシが続々と
ただ、そうした中でBJW認定世界ストロングヘビー級のベルトを持っているのはフリー参戦の鈴木秀樹選手です。
岡林 鈴木選手とやった人間は、みんな持ち味を消されているなって思いながら見ていました。関本さんは別として、それ以外の挑戦者は鈴木選手の土俵に乗せられるというか、乗ってしまうというか。僕が闘った時もそうだったんですけど、レスリングで勝ってやろうとこっちに思わせる誘い方がうまいんですよ。神ちゃんも持ち前の肉弾戦に持ち込めばいいし、河上もエルボーでガンガンいけばいいと思うのに、気がついたら鈴木選手とグラウンドの攻防をやっていて、それで渡り合おうとしていた。プロレスラーとして、相手の得意分野でも負けたくないという気持ちはもちろん持つべきですけど、それだと鈴木選手に勝てないという現実が続いている。
岡林さん自身も昨年の5月5日に鈴木選手へ挑戦しましたが、新卍固めによるレフェリーストップでTKO負けを喫しています。
岡林 あの時もレスリングに付き合いつつ、それを力で上回ってやろうというつもりでいったんですけど、それって向こうからすれば計算ずくだったんでしょう。力でどうにかなる相手ではないという結果でしたからね。今までの歴代ストロングヘビー級王者の誰ともカラーが違います、鈴木さんは。
9・16横浜文化体育館ではサムライTV生中継のゲスト解説を務めているところで、リング上から防衛を果たした鈴木選手が「両国の次だよ、岡林さん。やろう!」と宣戦布告してきました。
岡林 あれを聞いて絶対、次は自分が挑戦してやるって思いましたね。両国で鈴木選手は関本さんとタイトルを懸けてやりますけど、そこで鈴木秀樹が勝ったら自分がいきます。
復帰してすぐにタイトルへ挑戦すると。
岡林 あんな挑発されたら、こっちはせっかちですから。早いとか遅いとかじゃなくて、“すぐ”が結論ですよ。すぐやれば復帰戦で爆発させた勢いをそのまま持っていけるし、自分でもこのエネルギーをぶつけたらどうなるか試してみたい。前回も復帰戦で爆発させて、その勢いでそこから1年間を駆け抜けたなっていう思いがあったんで。
溜まっていたものを吐き出す場があってよかったですよね。リングがなかったら、せっかちなだけに街で暴れていたとか、鶴見川を泳いでいるところを目撃されたとかなっていたかもしれません。
岡林 いやいや、せっかちですけど忍耐力や我慢は自衛隊で身につけているので。僕のようなせっかちは自衛隊を経験してよかったです。自衛隊にいっていなかったら、鶴見川を泳いでいたかもしれないですね。
先ほど若い人たちの成長のスピードが速いと話されていましたが、鈴木秀樹選手に聞いたんですけど欠場中の岡林さんは道場で教えるしかやることがないから、若手が鍛えられてみんながみんな、岡林さんのような体型に成長している。いわば森廣祐基や加藤拓歩、兵頭彰、石川勇希といったあたりは“大量生産型オカバヤシ”だと。
岡林 それ、よく言われるんですよ。加藤や兵頭はスタイルも岡林に似ていると。トレーニングは教えても、プロレスのスタイルまではああせいこうせいとは言わないんですけどね。
体型が似ると、それを生かす形を模索すれば同じ方向性になるでしょうから、プロレスのスタイルも岡林型になるのでは?
岡林 森廣まではすごくゲキを飛ばして教えていたんです。それを加藤たちが見て触発されたんじゃないですかね。
若手選手全員が岡林さんのような肉体になったら将来が期待できます。秀樹さんは「このまま岡林さんが復帰しない方が会社のためになる」と。
岡林 いやー、みんな一緒の体型だと同じに見えちゃいますよ。この前、佐渡島大会と商店街プロレスの2班に分かれたんですけど、商店街プロレスに出たのがみんな黒のショートタイツ。最後、バトルロイヤルをやりますってリングに上がったら全員黒パンツなんですよ。一見さんばっかりなのに、誰が誰なのかわかるか!って。
特に加藤選手と兵頭選手は、遠巻きに見るとけっこう同じに見えますもんね。でも、先輩から率先して替えないと。下の人間は「先輩より先に色のついたタイツを履くのは…」と言い出せずにいるのかもしれないですよ。
岡林 考えたことはあるんですよ。もう黒は後輩が履いているし、10年目だからそろそろ替えようと思ったんですけど、周りから「やっぱり黒がいい」って言われるんで替えられずにいるんです。
何色にしようと思ったんですか。
岡林 赤とか紺、緑…もともと自衛隊なんでカーキー色。
自衛隊カラーなら迷彩もいいんじゃないですか。
岡林 迷彩も考えました。だから、毎回ではなくビッグマッチ用に黒以外にしてもいいんじゃないかって思っているところです。ちょっと考えます。僕自身はまったくこだわりがないんで。なんで黒になったかっていうと、デビュー戦の日があっという間に来ちゃって関本さんから「とりあえずこれを履け」って渡されたのが黒のショートタイツで、沼澤(邪鬼)さんに「これ持っているから」って黒のリングシューズを出されて。それでデビュー戦をやって、そのまま10年間来ただけのことなんで。
4度目の開催となる両国大会ですが、デスマッチヘビー級戦、ストロングヘビー級戦以外にも葛西純選手(プロレスリングFREEDOMS)が4年半ぶりに古巣・大日本へ参戦することが大きな話題となっています。どの試合が一番強いインパクトを残すかという勝負もあると思われますが。
岡林 そこはあまり考えちゃうと、復帰戦なんで自分がカラ回りしちゃうんじゃないかと思っていて。なので意識していないです。いろいろ考えるとすぐカラ回りしちゃうんですよ、自分。
そうなんですか? あまり岡林裕二がカラ回りしているところは見た記憶がないですが。
岡林 するんです。自分の中であるんですよ、いろいろ。見ている方はわからないかもしれませんけど。中にはいるんです、選手で。「今日、なんか違くなかった?」って。自分の試合にだけ集中して、ケガをしないように暴れます。
10周年だったんですよね、今年の6月で。記念イヤーに間に合ってよかったです。
岡林 11月18日に地元(高知県南国市)で10周年記念興行をやるんですけど、自分は考えていなかったんです。まだ10周年しか経っていないっていう考えなんで。でも、ウチの兄貴とか地元で応援してくださっている方々がやろうということで5ヵ月遅れながらやるんですけど。11月は浜(亮太)さんも10周年で、植木が5周年。5周年なんて記念すんな!と。まだ、たったの5年ですよ?
マイクでアピールした方がいいですよ。「何、記念してんだよ!」って。
岡林 僕も10年っていっても2回長期欠場していて実質8年ですよ。ケガの回数は少ないけど、その一回が大きいのが2回もやってしまっているんで、11年目からのテーマはケガをしない。向こう10年は無傷でやれたらと思います。
わかりました。それでは最後に…これは前回も聞いたのですが、ここ最近でピッサリだと思うことは何かありますか。前回はリングトラックをDIYカスタムすることでしたが。
岡林 ユーチューブで「亀田史郎チャンネル」というのがあるんですけど、そこで作る料理が本当に手がこんでいなくて、たとえばカップラーメンの麺だけ別に茹でて、つけ麺風にして食べるとか、一工夫加えると。それを自分もちょっと家でやっています。その中で一番うまいのが焼うどん。ホルモンと野菜を炒めて、そこにうどんを入れるんですけど、それを焼き肉のタレで味付けするんです。これがもう、最高にピッサリで。6月にそれを見て以来、2日に一回は食べてます。カトキチの冷凍うどんを買ってきて作るんですけど。
トラックから焼うどんというのもガラッと変わりましたね。
岡林 トラック、最近は乗っていないんですよ。運転するメンバーが替わったんで。今は4人ぐらいで回しているんですけど、せっかく内装を変えたのに自分が乗れないという。その悔しさを焼うどんにぶつけるしかないですよね。
「岡林裕二のピッサリホルモン焼うどん」といって会場で売ってください。
岡林 あー、いいですね。ピッサリ焼うどんを食べれば僕と同じ肉体になりますよ…って、お客さんもみんな岡林体型ってイヤなプロレス会場ですねえ。