スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2019年3月号には、第62回ゲストとしてSEAdLINNNGの高橋奈七永が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
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ドラマティックと無制限
女子プロレスはここからです
高橋奈七永(SEAdLINNNG)
©SEAdLINNNG/FIGHTING TV サムライ/カメラマン:中原義史
SEAdLINNNGは正しいレスラーと
ファンの関係性ができている自信
SEAdLINNNGも旗揚げして4年目に入りました。所属選手3名(高橋奈七永、中島安里紗、世志琥)という中で、よくやっているという印象です。
奈七永 ありがとうございます。自分でもそれを思っていて毎回、スタッフも含め人数が少ない中で後楽園ホール大会とかもやっているわけですけど、その分の充実度は自分の団体を起ち上げてからの方が大きいですし、リング上で試合をしていてお客さんが大きな声を出してくれているのがわかるので、正しいプロレスラーとプロレスファンの関係性ができているという点で自信を持てていますね。自分は女子プロのファンって、けっこうおとなしいイメージがあるんですけど、私は“パッション”というのを言い続けているのでお客さんにもパッションを出してきてほしいんです。皆さん、日常の中でいろんな悩みがあると思うんですけど、プロレスに来たら叫んだりして全部ストレスを発散させて帰ってほしい。昔からプロレスってそういうものでしたよね。プロレスから勇気をもらうのが、戦後の力道山さんから受け継いでいるものだと思うので。
奈七永さんもファン時代、声を飛ばしていた方だったんですか。
奈七永 今でも出しますよ。プロレス好きだから見にいくんですけど立ち上がっちゃったりします。最近では、去年の全日本プロレスさんで見た宮原(健斗)さんと丸藤(正道)さんのチャンピオン・カーニバル優勝戦と三冠戦の2連戦。どっちも会場にいったんですけど「ポールシフト式エメラルド・フロウジョンをここで出したーっ!」って叫んじゃいました。
そんな長い言葉をじっさいに口走ったんですか。
奈七永 言いましたよ! そのまんま。大興奮でした。丸藤さんがポールシフト式エメラルド・フロウジョンを出したことって、背景を知らなかったら意味合いがわからないわけじゃないですか。そういうふうにずっと見続けてもらえるところにプロレスの面白さがあるわけだし、もちろん初めて見る刺激もある。出逢った時がどこからでもスタートになるのだから、ずっと見続けてほしい。その点で私は、シードラー(SEAdLINNNGのファンをこう呼んでいる)には自信があります。みんなありがとうって常に思っていますよね。
SEAdLINNNGを設立し、自分の団体を持つ前とあとではプロレスに対する関わり方は変わったんですか。
奈七永 そこは主催者側に回ると選手として見ていた目線とはガラッと変わりました。とにかく360°すべてを見なくてはならない立場になったし、よりお客さんの気持ちも聞きたいと思うようになりました。一選手の頃は自分がどう輝きたいかが一番でしたからね。もちろんそれは、今も持ち続けなければいけない部分なんですけど、それと並行して運営する立場の目も持たなければならないからバランスが大事なんで。
これほどプロレスの価値観が広まり、また国内の女子プロ団体が多い中で、他団体との差別化についてはどう考えていますか。
奈七永 女子プロレスならではのおんなの意地だったり、感情がダイレクトに出て、その中で争っていく。ウチはそれをより打ち出し、より伝わりやすいリングだとは思っています。感情って自然と出てくるものだとは思いますけど、昔からあったいいものは受け継ぎつつ今の時代に合ったことをやっていける団体が勝つと思うんで、闘いの部分はブレることなく追い求めていきたい。
最後のWWWA世界シングル王者ということで“最後の全女イムズ”とよく言われるじゃないですか。その価値観を守りつつ新しいものも求める中で、葛藤が生じることはありますか。
奈七永 全女頭だけだったら、私はここにいないと思うんです。全女がなくなった時点で作り変えたと思うんで、そこで悩むことはないです。ただ…大変でしたね。プロレス観そのものから変えなければならなかったですから。全女がなくなってから、プロレスリングSUNという団体をやっていた時にスタイルから考え方までを日高郁人さんに教わったんです。全女のプロレスしかやっていない自分は、ほかのプロレスを知らなかったわけですけど、それだと対応力が弱まるということで、日高さんにコーチになってもらってそれこそイチから教わったんです。その時点で10年ぐらいやっていたから「いいじゃん、これで」って最初は思って、今より若かったから頭がコチコチに固くて何回も投げ出そうとしたんですけど、私より頭の柔らかい後輩の方が出来が早いのを見た時にすごく悔しくて。でも、それを後輩の前では出せないからトイレに入って泣きました。そのためには自分が身につけるしかなかった。葛藤があったのはその頃ですね。日高さんがいなかったら、SEAdLINNNGもなかったことになります。感謝です。
所属選手が3名ということで、他団体やフリーの選手を上げる必然性が常にあるわけですが、そのさいどういった点に着眼してオファーをかけているんですか。
奈七永 パッションです。それを直感で私が感じるかどうか。これは主観になっちゃうんですけど、目を見ればわかる。たとえばキャリアの若い子にもチャンスを与えたいと思う中で、今はできなくてもどうにかしてプロレスで何かをつかみたい、今よりもよくなりたいという気持ちは目を見ればわかるんです。闘いの苗を植えたいということでSEAdLINNNGを始めたので、その苗を植えて育てていくことをやっていきたい。その子たちが成長するための何かしらのきっかけにしてほしいというのがあって。
最近で、目を見て感じる者があった若い選手となると誰になりますか。
奈七永 水森由菜(我闘雲舞)はどうにかしたい!という気持ちが強くて、それでいて謙虚で。こういう思いでいる子って久しぶりだなと思ましたね。だから私の方からタイトルを懸けてやりたいと思ったし(2・28新木場1stRING大会でSEAdLINNNG BEYOND THE SEA Single Championshipをかけて対戦)。私の場合、そこは直感ですしあと所属かどうかっていうのは関係ないですね。私的にはK-1とかPRIDEのようなリングだと思っているんです。
団体というよりも“場”という受け取り方ですか。
奈七永 そうです、そうです。所属が少ない分、旬の選手を読んでマッチングできるのが強みだと思います。所属のみでまかなえる人数だったら、そちらを出していかなきゃいけないというのに縛られてしまうけど、そうじゃないから場として創っていける。だから、その場を熱くするパッションが必要なんです。じっさい、上がってくれる選手の中にSEAdLINNNGだから成長できたと言ってくれる子もいるので、そうやって女子プロのステージが上がっていく力になれたらいいと思います。
サスケさんはパッションの神様
宇宙大戦争に出るのが夢でした
SEAdLINNNG BEYOND THE SEA Single Championshipの初代王者を決めるトーナメントにエントリーされた選手たちが、各団体のエース級ばかりだったのが話題となりました。あれもよく集められましたね。
奈七永 どの団体さんも二つ返事で賛同してくれましたね。それもSEAdLINNNGの熱を感じてくれたからだと思います。そういう選手たちがたくさんいるんですから、女子プロの未来は明るいです。世間一般からは見えていないかもしれないけど、女子プロレスはここからですよ。女性が見てもカッコよくてあこがれる女子プロレスラーを育てていきたいし、また自分自身もなりたいと思うし。
自分以外の選手を育てるモチベーションが高い一方、一プレイヤーとしてのモチベーションはどこにあるんでしょう。
奈七永 今、SEAdLINNNGのベルトを持っているわけで、そのチャンピオンとしてというところがモチベーションになっています。今までもたくさんベルトを獲ってきましたけど、このベルトは自分がお腹を痛めて産んだと思えるぐらいにかわいくてしょうがないですね。このタイトルに関しては本当にいろんな思いがあって。3人しかいない団体でチャンピオンベルトを創ったところでなんの意味があるんだって批判をされながらも創ったんで。
それは、さっき言った場としての意味を理解されていないからなんでしょうね。
奈七永 だからベルトも育てていきたいですよ。つまり、ベルトの価値を上げていく。そのための挑戦者について、私の中に条件があるんですけど。1にドラマティックで、2に無制限。見ている人の心に残るようなドラマを描ける相手。無制限っていうのは枠を超えた何かを持っている人。もともとタイトルにある「BEYOND THE SEA」は海を越えて…つまり世界に広げていくという意味があったし先日、私は朱崇花選手に負けちゃったんですけど、彼女も日本初のジェンダーレスレスラーとしていろんなものを越えて活動している。水森のようにキャリアを飛び越えて挑戦してくる選手もいる。そういう制限なくやれる相手とやることで価値を高めていけると思うんです。
海を越えるという点では海外にもアンテナを張る必要がありますね。
奈七永 そうです。海外のパッションを持っている選手を見つけるのはなかなか難しいとは思いますけど、海を越えてまで飛び込んでくるような選手はウェルカムなんで。
奈七永さんは男子の選手との闘いも継続して実現させていますよね。田中将斗、ザ・グレート・サスケ、そして昨年は潮﨑豪と、トップクラスばかりです。
奈七永 女子だけだと刺激が足りなくなっちゃって。単純に強い人と試合をしたいという欲求ですよね。それで男女の垣根を取っ払ってしまおうというようになりました。最初の男子との一騎打ちは田中選手だったんですけど、それは自分で決めたわけではなく南月(たいよう)に言われて組まれたもので、私もキャリアを重ねて上の方にいるので叩き潰されたのが新人時代以来のことだったんです。そこで悔しさを味わってからですね、プロレスへの思いがより深まったのは。そこから大谷晋二郎選手と電流爆破デスマッチをやったり、潮﨑選手に果たし状を持っていったりするようになりました。
闘う対象としての男子は、どういうところに…これもパッションですか。
奈七永 そうですよ! 大谷選手は私と同じアニマル浜口ジム出身ですから、同じ血筋であの気合のパッションがある熱い男の代名詞ですし、潮﨑選手は一見クールに見えますけどあのチョップへのこだわりはパッション以外の何ものでもない。なんか、そういうクセみたいなのが私にはあって。あのチョップを食らってみたい、あのエルボーを食らってみたい、でも食らっても負けたくないみたいなところがある。そういうのを追い求めた結果、チョップがメチャクチャ痛くて胸が真っ青になったんですけど、それによって私の胸板は厚くなったと思いますし。
潮﨑選手のチョップを食らったあとに、火野裕士選手のチョップも食らったんですよね。
奈七永 はい。でも潮﨑戦で厚くなったので大丈夫でした!
サスケ選手とはハードコアマッチで対戦しましたが、マスターからもパッションを感じたんですか。
奈七永 それはもう! いやいや、あの方こそパッションの神様です。
初耳です。
奈七永 プロレスバカですよね。紙一重だとは思うんですけど、あれはパッションですよ。対戦してパッションを受け取りたいってずっと思っていて、じつは私の中で夢のカードだったんです。プロになってからなんですけど、サスケさんの試合を見て「この人、ヤベー」って思って。それを体感できてよかったです。
常識的判断ではヤベーと思ったら近寄らないようにするものですが、奈七永さんは近づいていった。
奈七永 それはおそらく自分もヤバいからだと思います。引かれ合ってしまったという。それで宇宙大戦争にも出られたし。あれも夢だったんで。
宇宙大戦争に出るのが夢というのもすごいですよ。
奈七永 もう、わけわかんない世界でした。
それはいい意味で?
奈七永 いい意味でも悪い意味でも。ただ、知らない世界があるということが嫌だというか、モノ足りなさを感じてしまうので。なんでも知りたいという欲求がどんな分野にもあるんです。だからこれからも知らないことを知るために自分で動いていくんだと思います。
自分から動いてでも実現させたい対男子の試合はありますか。
奈七永 長州力さん。今年、引退されるんですよね?
6月にリングを降りると決めています。
奈七永 私、長州さんのラリアットにあこがれていたので…難しいですかね?
確かに長州さんが女子選手と絡むことはなかったですが。
奈七永 でも動けばわからないじゃないですか。長州さんのお店にいって直談判します。パッションがあれば世界が変わるんです。日本は今、元気がないんで元気な人を求めているんだと思います。だから私が元気な人になります。あのう、なんでプロレスラーってあんなに技を受けるの?ってよく言われるんですけど、プロレスと格闘技の一番の違いは“受け止める”であって。相手の技を受けても立ち上がる姿を見てほしくて闘っているんですけど、それはなぜかというと、いろんな悩みに打ちひしがれる日もあるけれど、それでも明日はやってくる中でもう一度立ち上がって一歩踏み出すためのきっかけであったり、勇気をお届けしたいなと思っています。そしてSEAdLINNNGのリングはみんながそういう気持ちで闘っています。見に来てくれたら明日へのパワーを受け取ってもらえるプロレスをやっていますので、会場に来てそれを受け取ってください。