スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2019年6月号には、第65回ゲストとして6月26日に現役としてのファイナルマッチを迎える長州力が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
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※鈴木健.txt氏 twitter:@yaroutxt facebook:facebook.com/Kensuzukitxt
誰も言わないから僕は
自分でやめると言った
長州 力
©FIGHTING TV サムライ/カメラマン:中原義史
リングを降りてやってみたいものがあるから
余力が残っているうちに降りたかった
まずはラストマッチが近づいてきた今のお気持ちからお聞かせください。
長州 何も変わっていないですよ。まあ…長くいすぎたなあ。45年も? いすぎましたね。正直、ここまでやれるとは思わなかったですね。若かったから乗っけられてやってきたけど(ジャイアント)馬場さんだってこんなにやってないでしょ。僕たちが三十代の時に、馬場さんっていくつまでやってんの?とか言っていたからね。その時の馬場さんを超えちゃってんだから。よくこなせたなと思いますよ。自分の体に余力があるうちに(リングを)降りたいっていうのはやっぱりありますよね。同年代っていうか、ちょっと上の方がいろいろ後遺症みたいなものが出たりするのを見るとね。自分もすべて体調がいいわけではないし。降りて、ちょっとやってみたいなと思うものがあるから、余力が残っているうちに…ただそれだけですよね。体も動かないのに何をやるんだっていうのもね。怖がってリングには上がれないですね、うん。怖くなったっていうか…周りがそういう事故多いし、他人事には思っていないから。
怖くなったというのは、そう感じることが長州さんにあったのでしょうか。
長州 僕は視力が悪くなって、普段はかけないけど家ではずっと眼鏡をかけているんですよ。それでここ2年ぐらいかな、何回かロープをつかみそこねる状態があったんです。いろんな団体のリングに上がって、始まる時間を聞いたらこれぐらいまでの時間は道場で体を動かしていけば間に合うなって向かうんだけど、常に同じ道場でやっているから他団体だと(リングの)サイズが違うからそれを確認するんですよ。まず大事なのは歩幅。これがね、怖いんです。すごく怖い。体が動いた頃はそのままロープに走って当たればよかったんだけど…それがつかまえられないことが何回かあって。ヒットロープした時、たまにつまずくことがあるんです。それはアレがあるんですけどね、硬さとかが。ライトが当たってちゃんとロープが見えていればいいんですけど、ちょっと暗くてロープが溶け込んじゃって昔みたいに感覚でいくっていうのはまずいなという部分は、間違いなくありました。
キャリアを重ねるうちにファイトスタイルをシフトチェンジして、長くやる方を選択する選手もいます。長州さんはそれを望まなかったんですね。
長州 それはないですよ、うん。それはない。別にこだわっているわけじゃないし、今でも満足できるものを表現できているわけじゃないけど。
それほど長く携わってきたプロレスというものについて思うことはなんでしょう。
長州 勝っても負けても最後はイーブン。プロレスの世界っていうのは面白いもので痛みもあり、やさしさもあり…世の中とおんなじだな。
やさしさを感じたのはどんな時だったんですか。
長州 やさしさ? 思いっきりシゴくことだな、ハハハハハ。まあ冗談だけど、うん。元気な頃は一緒に練習して叱咤もするんだけど、終わってからの切り替えというか、言葉なり行動なりっていう。そういう部分ではみんな上の人間は下の人間に対してやさしさを持って接してあげたりしているつもりではありますけどね。基本的に僕はガキの頃から体育会みたいな生活ばっかりやってきているから、今の世の中ではとんでもないようなことでもプロレスの世界だからっていうのはあったけど、今は手を取り足を取りじゃないけどちゃんと指導する人間もいるし、こういう人間が教えていればそれなりに基本的なことはできていくっていう。まあ叱咤はしますけどね。それは言葉だけじゃなくて、一日中叱咤ばかりだったら昔も今もシンドい。
今後のプロレス界に望むことも…。
長州 まったくない。ただ、リングの中でまだやりたかったことができないで、大きな事故で亡くなっていく選手を何人か見てきたんで。レスラーだから、リングの中だから本望だっていうことは、僕はないと思いますけど。これは僕の受け取り方。やっぱり僕も子どもできると、一緒に歩けないっていうのは…。そんな、難しいことを考えてああだこうだじゃないんですよ。単純に、僕なりに必要な時間を作りたいっていうのはありますよね。
昨年、プロデュース興行を3度開催して、現代のプロレスを担う選手との接点がありました。その中で新しい気づきは何かありましたか。
長州 どういう選手かわかんないままやってましたからね。あいさつには来るんだけど、こっちはいいよいいよっていう感じだったから。ただ、何人かは見てみて面白いものを持ってんな、もうちょっと…まあ、これは言うと押しつけになるから僕は言わないだけで、もうちょっと考えてやればいいひきだしができるんじゃないかなと思う選手は数人いました。でもそれは、言うのもおこがましい。
どうでしょう、選手は長州さんに言ってもらいたいのでは?
長州 選手は間違いなく個々違うわけですから。新日本に石井智宏っているんですけど、あのちっちゃい体で一生懸命トレーニングしながらプロレスに打ち込んで、まあプロの選手だなという感じ方で安心感はありますよ。ただ、体が小さいから僕のようにトシとってまでやっていたらかなりシンドい後遺症が出てくるだろうなという心配はありますよね。でもそれは彼がどこかで判断することであって。今、新日本は長くいる人たちが引退するようになりましたけど、あれはいいことだと思いますよ。僕の場合は誰もやめろって言わなかったから。
それはまだ長州さんを見たいと思う方々が多いからではないですか。
長州 そんなこと! まあ、そういう声はありがたいですけど、誰も言わないから僕は自分で(やめると)言った。まあ、僕は仕事って言ってんだけど、それで食っているわけだから仕事ですよ。それで糧を得ているんですから。だからそろそろいいかな、もう年金(生活)かなって、ハッハッハ。だからやり残したこともないし。
生まれ変わったらプロレスラーに?
やらない。でも生き方は似たような…
45年間もひとつのことに打ち込めたのは、どこに惹かれたからなんでしょうか。
長州 いやいや、どの世界でも(打ち込むのは)みんな一緒ですよ。いい巡り合わせでチャンスを生かせたということで、そうするとその年代はまだ若いから自分が得る糧っていうものが魅力的な世界だなと感じた部分もあったし、まだまだ頑張ってっていう部分もありましたよね。それも動けているうちはいいけど、これぐらいになるともっと大きなものを吐くことになるんじゃないかとも思って。今の方が全然いいですよ。
これが欲しい、これを得たいというものがあったんですか。
長州 若い時と今は自分が得ようとするものは変わってきていますよ。若い時はみんな、収入を増やしていこうとか(なる)。だからって増えたといってもそれをいつ何に使うんだっていうことを考えなかったし、無駄なことに使う方が多かったですよね。まあでも、今はもうあんまりそういうところにこだわりはないですよね。自分にとっていい状態の時に自分のやれそうなことをやって生活できていればいいですね、それで。
やはり、やり甲斐を持てなかったら続けられなかったのでは…。
長州 やり甲斐って、どういうものですか?
たとえば自分を奮い立たせる何か、でしょうか。
長州 ああ、それはやってみないとわからないものだけど、そういうところに今のトシで自分を持っていけたらいいですね。やり甲斐…うん、確かにやり甲斐なのかもしれないな。そんなに大きなことじゃないんですけど、そういうものを会社(会長職を務めるリデットエンターテインメント株式会社)に協力してもらってやってみようかなと。
あとはご家族の存在ですよね。
長州 ああそうですよ! これが一番大きいですよ。家族に対しては向き合うというか、たぶん自分の一方通行だったんだと思いますよ。自分の考えていることを押しつけていた部分もあったんじゃないかな…まあ、あったんだろうな。三十代、四十代っていうのはやればやるほど自分なりには見返りがある。その見返りっていうものはその頃には家族も子どもいたし、とにかく安心させようさせようという部分でのアレは、うん。まあ、時代も時代でね。もうこれ(家族)と健康は代えられないですからね、間違いなく。
すでにテレビに露出するなどリング外の活動もされています。
長州 この会社でやれることはそういうことぐらいで受け止めてもらって。自分でできることは…それも含めて健康でないことにはやれないですからね。
若い時は闘うこともあった同年代の皆さん…藤波辰爾さん、天龍源一郎さん、藤原喜明さん、少し下の世代になりますけど前田日明さん…今となってはとてもフレンドリーな関係を築けているのは素晴らしいと思います。
長州 でも、できないやつもいますよ! それは普通の社会と一緒ですよ。まあ、自分も接して向こうも接して、なんとなくわかるでしょう、社会の中でいろんな人間と付き合っていたら。そんなに接しているわけでもないですからね。期間が空いてたまに会ってまだ元気だなっていうような程度の会話ですから。飯を食おうとか一杯飲もうとかそういうアレにはならないですよね。またどこかの仕事で会った時に、お互いすんなり入れて終われればいいなっていう。
わかりました。最後に、生まれ変わったらまたプロレスラーになりたいですか。
長州 (即答で)やらないですよ。でも、生き方は似たような…プロレスの世界に入る前のような、なんかこう右往左往しながら生きて、暴れているような。
暴れているだけじゃ食っていけないですよ。
長州 そこんとこはもう少し考えて。僕は職人のようなアレはないんですよね。もう一度人生があればなんていうのは、僕にはないんですよ。