鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2021年2月号では、第82回ゲストとして総合格闘家の元谷友貴が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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元谷友貴(総合格闘家/フリー)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

最初からDEEPなんで
ホームという感じがします

元谷友貴(総合格闘家/フリー)

総合を始めて思った以上に
何もできなかったのが
続けられたきっかけに

元谷選手はキックボクシングから格闘技を始めるまではサッカー(石川県代表)やサーフィンを経験されていました。それが格闘技の方に傾倒していったのは、なぜだったのでしょうか。

元谷 僕の高校があまりサッカーは強くなくて、それでサーフィンをするようになったら楽しかったんですけど、そういう中でトレーニングの一環としてキックボクシングを始めたのが最初でした。それで試合に出たらけっこう勝てたんで…いつの間にかという感じですね。

劇的な何かがあったというよりも気がついたらという感じですか。

元谷 そうですね。サッカーは勝っても負けても自分だけじゃなくみんなとのチームワークがあるんで難しいと思ったこともありましたけど、個人競技だとミスしたり失敗したりしても全部自分なんで、そういうところがわかりやすいなと思いました。プロデビューして1年ぐらいでチャンピオン(DEEPフライ級初代王者)になったんですけど、なったからには本腰入れていこうと思うようになったことが、それに当たりますかね。

それ以前は社会に出たらなりたい職業はあったんですか。

元谷 そのフライ級トーナメントが、ちょうど就活の時期だったんです。特にしたいこともなかったんで、とりあえずこのトーナメントが終わったら考えようぐらいに思っていました。十代の頃は、自分の好きなもの…まあ、スポーツが仕事になったら最高だなとは思っていたんですけどこれといったものはなく、格闘技をやっていたらチャンピオンになっちゃったんで、じゃあこれを頑張っていこうかという。

ということは、好きなものを職業にできたことになりますね。

元谷 はい。格闘技を始めて最初に思ったのが「自分って弱いな」だったんです。じっさいにやってみると打撃でも経験者と比べたら全然できないし、また総合をやれば寝技もまったくかなわないですし、思っていたより何もできなかったんで、もっとできるようになりたいと思ったのが続けられたきっかけでした。

やるまでは自分がどれほどのレベルなのかわからないですからね。

元谷 ええ、これほどまでにできないのか!って思いました。

できないのがわかったからやめるとはならなかったんですね。

元谷 キックボクシングしかやっていない状態で総合に出て負けた時、悔しいって思えたんです。寝技になった時、何がどうなっているかもわからなくて、ただ勘でやるというかもがくだけの状態。

キックしかやっていなかったのに総合の試合に出たのはなぜだったんですか。

元谷 総合の試合に出ないかとジムの方にオファーがあって、はい出ますと。

経験していないわけですから、出ない方を選ぶのが普通です。

元谷 ああ、やっていないことに対する恐怖心はなかったですね。やっていないからわからない、わからないからなんとかなるやろという考えでした。わかっていたら恐怖に感じていたかもしれない。じっさい、思っていた以上に違うもので、そこから寝技の練習もするようになりました。

そうやって本格的に取り組んでみるとできてしまうタイプなんでしょうか。

元谷 わりとそうなのかもしれないですね。サッカーもそうでしたけど。

格闘技をやる前に影響を受けた人や自分にとってのヒーローはいましたか。

元谷 ヒーロー…ヒーロー……難しいですね。石川県でいうと松井秀喜選手。野球は別競技ですけど、スポーツで生活している人という意味で、ですね。

格闘技を始めてから影響を受けた選手は?

元谷 特にこの人を目指しているとかはないです。

他者の影響を受けるよりも、自分の中へあるものに忠実でいるというタイプですね。

元谷 そうかもしれないです。この人というより、これで生活していきたいという方が強いですね。そう思ったのは、サーフィンで海外へいった時に、向こうの人はあまり仕事しないで遊んでいて楽しそうに映ったんです。仕事をせずにではなく、仕事が好きなものだったらいいなと思って。格闘技をやりながらバイトもしましたけど、その中でこっちの方を仕事にしたいと思えるものはなかったし、その頃には格闘技でトップにいきたいという気持ちもあったんで、これでいきましたね。

2011年7月10日にDEEPでプロデビューを果たしましたが、あの試合はどんなものとして残っていますか。

元谷 パッと終わったなというぐらいしか記憶に残っていないんですけど…プロデビューまでにアマチュアでキックをやっていて、プロデビューってなってパッと勝ってという流れでひんぱんに試合をしていたので、この試合!っていう思いはなかったんです。

続ける上での得られる喜びは何になりますか。

元谷 やっぱり応援してくれている人たちが喜んでくれるのが嬉しいなあと思います。勝った時に一番なのは、周りの人たちが喜んでくれる姿ですから。あと、格闘技を続けているのは楽しいからです。まず自分は練習が楽しくて。自分が好きなことを毎日やれるんで。自分が好きでやっていることを応援してくれるみんなが喜ぶのが一番。

そこは「俺、つえー」よりも上に来ますか。

元谷 はい。嬉しいのでいったら周り人が喜んでくれる方ですね。

ずっと好きなことをやって
人生を楽しんでいる三浦知良
さんっていいなと思います

練習は苦しい対象ではないんですか。

元谷 苦しい練習もありますけど、たとえばスタミナトレーニングでスタミナが上がっていく喜び、変わってきているな、スタミナついてきとるなとか、自分ではわからなくても周りから体つきが変わってきたと言われたりとか、苦しいトレーニングも試合に必要なことであったりで、苦しいというよりも自分の中では遊んでいる感じ。運動が好きなので、やっていることは遊ぶ感覚なんです。

そう思えるところがすごいのだと思います。

元谷 苦しいことも今後、遊ぶため、楽しむためだと思えば。負けた時もそのつど「どうすればもっとよくなるか」と考えます。去年は連敗が続いて負けるごとに考えて、時には続けても上にいけないようだったらどうなのかなっていう気持ちにもなりますけど、負けた時にけっこう大幅にいろんなことを変えるんで。そして変えた結果、今年はちゃんといい結果(取材時点で2020年は3連勝)が出ているので、そんな感じでやっています。

劇的に変えることに対する不安はないんですか。

元谷 2019年が3連敗で、これ以上落ちようがないと思ったので、変えられました。自分の理想とする方に練習とかも変えていった方が、効果もあるだろうと思ってやりました。

格闘技をやめたいと思ったことはありましたか。

元谷 やめたいというより、やめなければいけないのかなと考えたことはあります。自分、石川県に妻と子ども3人いるんで、あまり負けが続くと生活が厳しくなるんで、そういうことを考えたら今後続けていっても大丈夫なのかなあっていうのは考える時があります。

今はご家族とは離れての生活なんですか。

元谷 1年以上は東京に一人で住んでいます。

格闘家の単位赴任。

元谷 そうなります。自由にさせてもらっているのでありがたいです。生活費さえちゃんと入れておけば。

背中を通じてお子さんたちに父親というものを伝えたいとの思いはありますか。

元谷 背中で伝えるとしたら、好きなことをしてほしい。自分の思った通りにやってほしいですね。

ただでさえ2020年はコロナの影響で先を見据えるのが難しく、モチベーションを持ちづらい時期もあったと思われます。

元谷 最初の試合が3月で、それに勝ったあたりからコロナという話が出始めて、ジムも閉じてしまったりで、石川へ帰って練習仲間に来てもらってずっと練習はしていたんですけど、その時は家族と久しぶりにゆっくりと時間を過ごせました。ただ、試合ができなくなるんじゃないかという不安はすごくありましたね。1年ぐらいはないんじゃないかなとも思いましたけど、そうなったらその時に考えればいいって。

ポジティブですねえ。ネガティブな方向に気持ちがいかないんですか。

元谷 その時は、今は家族と過ごそうという思いでした。その間も練習はしていたんで、いつ試合があってもできる準備はしておこうと。誰も練習していない間にもっとよくなればいいなというのがその時のモチベーションで。

じっさい、それが連勝という形につながりましたよね。元谷選手は格闘技以外のジャンルで意識する対象はありますか。

元谷 サッカーだと三浦知良さんが50歳を過ぎても現役でやられているじゃないですか。自分が50過ぎて現役でやっているかではなく、ずっと好きなことをやって人生を楽しんでいるという意味でいいなと思います。だからこそ、長年その競技でやり続けているところがすごいなと。自分も続けたいですけど、格闘技はやっても10年できるかなと思っています。

そこは現実的にとらえているんですね。

元谷 ただ、10年やってそのあと何をやるかというのは今の時点で考えていなくて。

その時点で自分が何をやりたいと思っているかでしょうからね。

元谷 半年、1年後さえもどういう状況なのかわからないですから、もっと先のことは考えられないですよね。

DEEPが20周年、100回大会を迎えます。

元谷 自分はそのうちの10年ぐらいしか上がっていないですけど、そのほとんどがDEEPのリングだったし、100回というタイミングでそこにいられることが嬉しいです。本当に、最初から今までDEEPなんで、ホームという感じがします。

RIZINに出場する時もDEEPを背負っているという意識でリングに上がっていますか。

元谷 そうですね、自分が負けるとDEEPの評価も落ちると思うんで、RIZINでも負けたくないです。

このジャンルを背負ってやっている自負はありますか。

元谷 背負っているという意識はないんですけど、そういう立ち位置になれば…うーん、背負っているという気持ちになるかはわからないですね。自分のやっていることをもっと知ってほしいという気持ちもありますけど。いろんな人にやってもらいたいですよね。

経験してほしい。

元谷 みんながサッカーや野球をするように打撃とか寝技をしてもらいたい。もっと軽い感じでいいと思うんです。苦しいのは勝つためにやることであって、楽しむだけでもいいんで。

競技人口を増やすために将来、教える側にまわることは考えていますか。

元谷 自分がジムを開くとかは、今のところは考えていないですね。でも、石川県に総合のジムって少なくて、自分も加賀市から金沢市まで通っていましたから、もっと田舎の方にもあればいいなとは思います。

元谷選手は強さの先に何を求めていますか。日々やっていることは強くなるためと思われますが、その先に見いだしているものは?

元谷 いつもそうなんですけど、あまり遥か先というのは見ていなくて、目の前の試合だけで。半年後さえも読めないんで、先というよりはとりあえずこの競技でトップにいきたいという思いでやっています。お金も名誉もほしいとは思いますし、最近になってネームバリューというのがあった方が試合にもプラスになると思うようになって。今後の生活においても、いい方に向いていくだろうし。

最近になってそれを思うようになったんですか。

元谷 それまではネームバリューとか考えなかったんですけど、あった方がいいということに気づいたのが最近で。勝っていろんなものがよくなっていけばいいなと。

強い野心を持っていて、そのために日々の苦しいこともやれているのが格闘家というイメージですが、元谷選手は個性的ですよね。

元谷 ああ、よく言われます。あった方が楽しいだろうなという考えなんですけど。

これからも楽しめるように格闘技を続けていくと。

元谷 これも最近意識しているのは、試合でちゃんと打撃でも寝技でも(判定ではなく)決着をつける。その方が見ていてもわかりやすいし、一番面白いと思うので、高いレベルでの攻防をDEEP20周年でも見せて、楽しんでいただきたいと思います。