スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2021年12月号では、第92回ゲストとして新日本プロレス、全日本プロレス、DDT、スターダムなどのサムライTV中継で実況アナウンサーを務める村田晴郎さんが登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
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※鈴木健.txt氏 twitter:@yaroutxt facebook:facebook.com/Kensuzukitxt
知識を言葉として出力するスキル
生きた情報が自分の中に入っているか
村田晴郎(実況人)
年越しプロレスが始まった当時は
インディーらしさがあっていいなと
大晦日の後楽園ホールにおけるプロレス興行は2006年の「インディーサミット~カウントダウンプロレス」からスタートし、プロレスサミット→天下三分の計スペシャル→大晦日年越しプロレスとテーマを替えながら今年で16年続くことになります。村田さんはその一発目から全大会の実況を務めてきた生き字引ということで、ご登場願いました。
村田 15年間、大晦日は後楽園ホールにいたことになりますね。
それ以前の大晦日はどう過ごされていたのですか。
村田 紅白歌合戦を見ていました。僕、紅白大好きなんで。紅白を見ると大晦日って感じがするじゃないですか。“ガキ使”と格闘技は録画して紅白をリアルタイムで見ていました。レコーダーが2番組しか録画できないので。
紅白は録画しない?
村田 Perfumeが出てからは録画するようになりました。年越しプロレスをやるようになってから、なんとかして3つ録画するようにしたんですよ。でもねえ、年が明けてから見ても紅白はそういう感じがしなくてね。さまざまな音楽を意識して一年を過ごすわけじゃないじゃないですか。紅白を見るとこんな曲があったんだ、演歌は今こんな感じなんだというように聴かない音楽を知ることで新しい発見があったりして、お酒を飲みながら紅白を見るのが大晦日らしくて好きでしたね。
すこぶる庶民的な過ごし方だったんですね。
村田 メチャメチャ庶民ですよ。買い物をなるべく早めに済ませて、年越しそばとか天ぷらとかを近所で買ってきて何もしなくていいという時間を作るんです。で、紅白見終わってゆく年くる年をちょろっと見たら、地元の神社に初詣にいきます。それで戻ってきたら朝方までだらだらして、元日の昼に起きたらお雑煮を食べる。
それが2006年を境に変わるわけですね。プロレスを年越しでやるというのを聞いた時はどう思いましたか。
村田 面白いなと思いました。そういうフットワークの軽さや突拍子のないアイデアをパッと行動に移せるよさが、当時のインディーにあったじゃないですか。そのらしさが出ているし、サムライTVもインディーのダイナミックさをキッチリとフォローできていた時代だった。インディープロレス=サムライTVのイメージがあったんで、僕はサムライらしくていいなと思いました。
多団体が一堂に会しておこなう大会の実況はそれまで経験されていたのですか。
村田 APEX OF TRIANGLEの後楽園(初代王者決定トーナメント)っていつでしたっけ?
2001年4月です。
村田 それぐらいですね。あれで(情報を)稼ぎましたよ。知識を広げざるを得ないというか、それまでは担当していた団体のことでまかなえたのが、それ以外もカヴァーしなければならなくなったと。一つの団体を担当することだって僕は大変だと思うんで、ラクをするわけじゃないけどなるべく担当団体に集中した方がいいんですけど。
団体数や選手の数が増えると事前に調べる量も増えるわけですよね。
村田 資料として選手のデータを調べることは、そんなに難しくないんです。インターネットさえあればハッキリ言って誰でもできるでしょ。それを、知識としてストックした上で、目の前で試合が繰り広げられている時に言葉として出力するのはまったくの別のスキルだと思っているんです。私個人としては、その知識が身についていないと実況として使える知識にはならないというのがあるので、その部分での苦労はしましたね。今でもそうなんですけど、私が資料を集める一番のベースになっているのは、生きた情報が自分の中に入るかどうかなんです。言ってみれば調べたことをノートに書いてそれを見ながら実況するんじゃなくて、理想としてはノートに書いた時点で僕の中に入っていてほしいんです。実況って臨場感を伝えるものなんで、喋る側がライブ感覚でモノを伝えないと実況にはならない。とある選手のことを調べて、ここでベルトを獲りました、現在はこのユニットに所属しこのユニットと抗争していますとあったら、想像するんです。それを解説の方とこの選手はこうなんですよねと、会話として共有した上で視聴者にお伝えするやり方を採っているんで、知らないとバレるというか。あとで聞くと不自然で気に入らないんで。本当は知らないんですよ、身近な団体でもないんですけど、そんな自分の都合を視聴者に感じさせないように楽しくプロレスをお伝えできるかっていうのは苦労しました。
2006年の時点でそういう姿勢を持っていたのですか。
村田 いや、徐々にですね。ウィキペディアにしたって団体のホームページにしたって、データはたくさん書いてある。それを箇条書きにしたところでなんの役にも立たないです。それはやっているうちにわかりました。あ、ダメだな、使えないなって。
それを実感するきっかけになったのが大晦日プロレスだったと。
村田 それだけではないですけどね。ありがたいことに単発興行やいろんな団体をピンチヒッターでやらせてもらった時に、やりにくさとかしっくりいかない感覚、やり残した感は何なんだろうと考えた時に、徐々にたどりついた考え方です。
インディーサミットから、プロレスサミットになってさらに拡大され新日本プロレス、全日本プロレス、プロレスリング・ノアといった老舗系団体の選手も出場した時期がありました。
村田 一度も見たことがない選手が出てきます。そこで大事になってくるのは、プロレスを好きかどうかかなとは思いますね。ジャンルとしてのプロレスの理解度が深まっていけば応用が効くんで、各団体に。自分の中でのこういうことだよなっていう解き方の応用があるわけじゃないですか。それを使うようにしましたね。
最初にカウントダウンから年越しを経験した時はいかがでしたか。
村田 後楽園ホールで年越ししたのはイベントとしては面白かったですよ。お客さんがカウントダウンして、あけましておめでとう!って喜んでいるのを見て、やってよかったなって思いました。
その時点では、毎年15年も続くなどとは思っていなかったですよね。
村田 どうだろう…やりかねないな、でもそんな長く続くものではないんだろうなと思っていたかな。
2008年のプロレスサミットでは、第1試合にオカダ・カズチカ(当時は岡田かずちか)選手が出て岡林裕二選手と6人タッグマッチで対戦しているんですよね。
村田 アーカイブを紐解いて、会場の隅々まで見るといろいろお宝映像があると思いますよ。思わぬ人がそこにいると。
そこから企画を替え、大日本プロレス、DDT、KAIENTAI DOJOの3団体で回していくようになっていきます。
村田 僕はDDTの中継をやっていたので、大日本とK-DOJOに関する発見がありましたよね。どんな技を使うかはデータであっても、試合のディテールとかは動いているところを見ないとわからない。特にK-DOJOの皆さんの才能の豊かさはすごく感じました。TAKAみちのくさんの団体方針から、一番カッチリ型にハマったものができる団体という印象だったのが、選手一人ひとりのキャラクターが立っていたし、自分で面白いことをやろうというアイデアが試合の端々に見えて。アスリート的な強さでいえば大日本が飛び抜けていて、DDTはああいうカラーだったじゃないですか、その中で才能や土壌の豊かさを感じられたのがK-DOJOだったんです。今でもそう思います。K-DOJO出身の人たちは安心してお届けできるみたいな。
現在は大日本とDDTが中心になっています。
村田 個人的な好みでいったら昔の方が好きでした。今のシャッフルタッグトーナメントは、それはそれで面白さがあるんですけど、自分も若かったですし、何か特別なことをやっているという場の高揚感も当時はあったので、楽しかったという思い出が残っているのは昔のほう。ここ数年はトーナメントというリング上の勝負がクローズアップされてきて、そこに各団体の成長というものを感じることができるんですけど、あの頃は大日本もDDTもK-DOJOも規模的にも本当にインディー団体だったので、まずはアイデア勝負だったじゃないですか。それを武器にメジャー団体と対抗して面白いことをやっていこうというのが年越しプロレスだった。でも今は皆さん、立派になられてリング上の闘いでお客さんを満足させて年を越すっていう方法論ができたのは、そこに成長があるということなんじゃないですかね。
ゲスト解説の方に言うのは
「リアクションをとってください」
年々変わりゆく中で、昨年はコロナの影響で「年越さないプロレス」として24時前に大会が終了しました。
村田 DDTが大会終了後にニコ動で生配信をしていた頃は、新宿御苑の事務所にお邪魔して朝までいました。というのも、僕が住んでいる最寄り駅の線は大晦日でも終日運転していないんです。だから年が明けて25時ぐらいに終わって、4時間ほどの空白があったんです。
関本大介選手も最寄りの線が動いていないので、動いている線のいけるところまでいって、駅のベンチで始発を待っていたそうです、あの屈強な体で。
村田 僕は渋谷まで出て、そこから歩いて帰っていました。タクシーも混んでいるし、歩いても30分ぐらいなんで。前は誰かの車で送ってもらったり、後楽園の近くでタクシーを拾って296さんとか同じ方面の選手や関係者と相乗りしたりしていました。当時、大日本にいた石川晋也選手も乗っていたな。僕が1番目に降りて、296さんが次で若い人が残るんです。それで296さんと「これぐらい出さないとダメだよね」とか相談して、降りる時に「お釣りはいいから」って296さんに渡すんですけど「おう、村田さんに出してもらったぞ。ちゃんと挨拶しろ」って。「あーざす!」「あーざす!」って、そういうのじゃないからって、ウハハハハハ。
でも、せっかく大晦日に後楽園へいるというのに、そこで年を越せないというのは残念…。
村田 嬉しかったですねえ!
ええっ、残念じゃなかったんですか。
村田 ひっさびさに、久々に家で年を越せるというね。嫌だったとか解放されたという意味じゃなくて、さすがに十年々もやっていたら最初に話した大晦日の過ごし方を忘れちゃうじゃないですか。だから久々にやってみたいという夢がかなったというか。紅白歌合戦にも間に合ったんですよね。
よかったですね。
村田 よかった…うん、まあでも、こんなもんかと思いましたけどね。イベントとしては年越ししたいですよね、サムライTVの番組的にも。冒頭で庶民的って言いましたけど、やっぱりあれは僕にとって特別な時間なんですよ。何もしなくていい、何をしてもいいっていう時間に自分の好きなものを見て飲んで食べてっていうのは。年越しプロレスって僕は近いものを感じていて、特別じゃないですか。あの特別な日にプロレスファンが特別な場で特別な大晦日と新年を迎えられるというスペシャル感があるんで…(カウントダウンを)やってほしいですね。サムライTVで見るのもそうだと思うんですよ。紅白、RIZIN、ガキ使があったりする中で俺はサムライで年越しプロレスを見るぜという選択があるのは、素敵じゃないですか。僕が紅白歌合戦を見て新しい年を迎えていたのと同じように、ここまで続けてきたのであれば年越しプロレスを見て新年を迎えるというのが生活に染みている人もたくさんいると思うので(年を越すまでやれるように)戻ればいいなって思います。また、新しい人も増えてほしいので、まずはサムライTVに加入してください。プロレスファン以外で読まれている方には、普段なら自分は絶対にしないことを大晦日だからという理由で選択してみてはいかがでしょうか。
普段は見ていなくても、大晦日ぐらいは知らないものに手を伸ばしてみるかと。
村田 テレビって突然出逢ってしまうところがいいんじゃないですか。ザッピングしていたら何かをやっていて、ついつい見てしまう。出てくる選手は知らないんだけど、見てみたら面白かったとか。サムライTVの場合はCS放送ゆえ能動的に動いてもらわないとたどりつかないハードルがありますので、今年は自分の人生の中で考えもしなかったような年越しをしてみようかなと思っている方がいたら…サムライTVに加入してください。
昨年までは大日本とDDTのシャッフルタッグトーナメントだったのが、今年はまた新企画となりシャッフル6人タッグトーナメントが開催され、さらに年末ドリーム枠として団体所属外選手も出場します。
村田 年越しプロレスは実況(2名)と解説(2名)もシャッフルして各試合が割り当てられるんですけど、どこが勝ち進むかわからないから結局は全員分調べないといけないんですよね。だから全然ラクできないんですけど、登坂(栄児=大日本プロレス社長)さんとやるのは楽しいですよね。登坂さんにしか言えないことがあるじゃないですか。あそこまでドギツく大日本の選手やグレート小鹿さんをイジれる人は、この業界では登坂さんだけなんで。面白いし適格だけど、同じことを我々は言えない。やっぱり長年やってきた信頼関係であり、仲間だからこそ言えるというのもあるし、ファンにとってもそうでなくちゃというイメージができているんで、あれは唯一無二ですよね。
トーナメント1回戦を終えた選手が2回戦以後、ゲスト解説で加わりますよね。
村田 トーナメントは試合時間も短いし、もともと決勝以外は10分1本勝負、15分1本勝負なので当然喋る尺としては限られるんですけど、それは選手の方次第、個性だと思います。ガンガン喋りたがる人もいれば、待ちの人もいるので、それはポンと始まった時にどっちのタイプかを判断して、振らないと喋らないタイプだなと思ったらガンガン振ります。ゲストの選手が来たらその人がずっと喋っている方がちょうどいいぐらいの意識でやって、なんとなく解説として成立するかなという感じですよね。
即興なんですね。
村田 試合を見ながら技術解説をするのが苦手な選手の方ってけっこう多い気がします。こっぱずかしいのか、改めて自分たちのやっていることを話すのは言い方が難しいのかはわからないですけど。なのでその選手が持っているキャラクターの部分で話しやすい道筋をいかにして短時間で作るかですね。15分1本勝負の間に視聴者が喜ぶようなその選手らしい言葉が出ればいいかなぐらいの感覚。ゲスト解説として出た証が一つでも出れば僕はそれでいいです。
選手やタレントさんのゲスト解説を含め、最大何人で回したことがありますか。
村田 5人(の解説)と自分の6人。それで10分ぐらいで終わる時もある。
一回も喋らずに終わる人も…。
村田 いや、それは僕が許しません! 何か喋ってもらう。基本的にリアクションをとってくださいとは言っています。解説をしてくださいというと皆さん構えるんです。だってゲスト解説のタレントさんに「今のドロップキック、いかがでしたか?」って聞いても「すごいですね」ぐらいしか答えられないじゃないですか。
こちらから振る形でよりも本人発信でわーっとでも言ってもらった方が…。
村田 僕はその方がいい実況・解説になると思っているんですよね。今のプロレスはすごくテンポが速くなってきているじゃないですか。その試合のテンポに実況・解説が合わないと若干違和感が出てくる。何が違和感になるかというと、実況が解説に振る言葉が邪魔なんですよ。ポンポンポン!と試合が動いているのに、ここでこうなった! ○○さん、今のはどうでしたか?という1秒にも満たないワンクッションがリズムを崩すんです。またそこで解説の方はちゃんと「そうですね…」と考えるから、その間に試合は動いてしまう。それなら解説の方にも試合をしっかり見てもらって、自分の方から発信していかないと、今のプロレスの臨場感を視聴者に伝えるのは難しいんじゃないかと思います。
獣神サンダー・ライガーさんは正しいんですね。
村田 「スゲー!」って素直に驚けるライガーさんは凄いと思います。あれはいい解説だと思いますよ。そうそう、いいことを言おうとするのも、あれも才能で。頭の中ではみんなパッと思いつくんですけどそれを言語化する、ほんの2、3秒で頭の中で考えたことをまとめて人に伝えるのはすごく難しいことなんですよ。それでいいことを言おうとすると、言葉がどんどん重なっていっちゃうんです、補足するために。
説明っぽくなっちゃいますよね。
村田 そうそう。そういうのって、だいたいみんな憶えていない。会場があってリングがあって、お客さんがあって音があって光があって、カメラワークがあって実況・解説があって、それでトータルのプロレス中継。その中にいかに溶け込むかが中継のよさだと僕は思っているんで。そこで際立たせるようなことを狙って言うのはだいたい失敗すると思います。
言おうと思って用意した言葉ほど合わないことはありますよね。
村田 歴史に残るものってスポーンと出たものですからね。