鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2023年9月号では、第110回ゲストとしてプロレスリングFREEDOMS・葛西純選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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葛西純(プロレスリングFREEDOMS)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

お互いの人生をいい方向に
狂わせてこそデスマッチ

葛西純(プロレスリングFREEDOMS)

デスペラード戦はベストバウト賞を
獲った伊東竜二戦を完全に超えた

前回取材させていただいたのが20周年というタイミングで、当時は自分を脅かす存在が出てこないので刺激がほしいと語っていたのですが、あれから5年が経った今はなかなかな刺激的な日々を送られていると思われます。

葛西 当たりめえじゃねえか、おめえよぉ。まさか葛西純が、新日本プロレスの後楽園ホールのメイン、しかもトリで入場してくるなんつーシチュエーション(7月4日、葛西純&エル・デスペラードvsジョン・モクスリー&ホミサイド)を、5年前に誰が想像できたよ。

誰も想像していなかったのは確実ですが、ご本人はどうだったんですか。

葛西 全然想像していなかったに決まってんだろ。今年の9月で49歳になるけど、ここに来て改めて人生って面白いよなあって思わされるというか。

20年以上やってきて、その先が“上がり”でなかったところが唸らされます。

葛西 まったく上がってないだろ。確かに20周年を迎えた時はもうやりきったやりきったって言っていたけど、実は何もやりきっていなかったってことだな、これは。その中でも新日本プロレスと自分が絡むなんていうのは、この業界に入ってきた頃までさかのぼっても一度たりとも考えたことがなかった。同じプロレスというカテゴリーの中にはあっても、住んでいる世界が違うっていう感覚だったし。

その別世界と思っていた団体から、デスマッチに絡む選手が出てきたことは改めてどう受け取りますか。デスペラード選手のことです。

葛西 そこが刺激じゃなくて超刺激の“超”だよ。あり得ない団体の選手とあり得ない試合形式で闘うことによって刺激を超えた刺激を味わっちまった。だからデスペ氏には、年齢もキャリアも向こうの方がずいぶん下だけどおかげさまで超刺激をいただいていますとハッキリ言わせてもらう。5年前から現時点までの葛西純があるのは、大袈裟でなくあいつの影響によるものだって言えるよ。

実際、この出逢いがなかったら違った25周年を迎えていたでしょう。なぜにここまで深く、濃い関係性を築けたと思いますか。

葛西 もともとデスペ氏は葛西純のファンだったっていうのもあるし、初めてのシングルマッチ(タカタイチマニア2019年5月7日、後楽園ホール)でアクシデントとはいえ、自分のコブシで彼のアゴの骨を粉砕した。その時はあと味悪かったし、今だから言うけど自分もケガをさせてしまったってことで落ち込んだんだよ。ただ、あれがあったからお互い今の自分があるんじゃないかって思うんだよな。

起こったことはネガティブであっても、むしろそれが必然だったと。あの骨折によってデスペラード選手はベスト・オブ・ザ・スーパージュニア欠場という大事につながりましたが内心、これはまずいとなったんですね。

葛西 あの試合が終わって控室に戻ってきてから、向こうの控室の様子がただ事じゃないのが伝わってくるんだよ。「おい、これ骨折れてるぞ!」「スーパージュニア、どうすんだよ!?」みたいな会話が小耳に入ってくる感じで。でも俺っちはまだアドレナリンが出ているからそんなもん関係ねえよ! お互いが全力で闘った結果なんだから仕方ねえじゃんって思っていたんだけど、家に帰って布団に入って寝ようとした時、もうアドレナリンが引いているから、これはまずいことしちゃったなと思ったら寝られなくてよ。

他団体が関わることだけに、大きな責任を感じてしまった。

葛西 それもスーパージュニアっていったら日本の最大手団体の、年間の中でも大きなイベントだからな。それに穴を開けてしまったとあればさすがの俺っちだって事の重大さは理解するよ。ただ、ケガさせたことで新日本プロレスから何か言われることも、ましてやデスペ本人から悪く言われることはなかった。

ほう。

葛西 実を言うと、デスペラードとは初対戦する前から鈴木みのるさんの大会の打ち上げで顔を合わせていたんで、LINEではつながっていたんだよ。それで、普段だったら絶対に闘った相手に対してそんなことはしないんだけど、あの時ばかりはLINEしちゃった。昨日の今日であんな試合をして、こんなこと聞くのはアレだけどその後どう?って聞いたら見事に折れていると。それでうわーって思ったら「いや、俺は葛西さんとシングルやれたんで、スーパージュニアに出られなくなっても悔いはないです」って返してくれて。あの時、こいつ男だな!って思ったんだよ。 あれがデスペラードに対する見方、俺っちの中での価値が確定した言葉だった。だからこそ彼が復帰したら、自分へのケジメもそうだし彼に対してのケジメとして絶対にシングルでやらなきゃいけないと思った。

それが形となったのが2022年9月12日の「タカタイチデスペマニア」国立代々木競技場第二体育館大会でした。あれは長いキャリアの中でもプロレス大賞ベストバウトを受賞した2009年11月20日の伊東竜二戦に匹敵する達成感があったと思われます。

葛西 匹敵するどころか、俺っち的には完全に超えた。伊東戦は、引退を決意して臨んで…うん、試合後に実は今日で引退しますって言おうとして臨んだのに、やっているうちに楽しくなって、葛西純からデスマッチを奪ったら廃人になっちゃうなと思って試合後に引退を撤回した試合だったけど、それすらも凌駕したと思えた。

それほどの覚悟で臨み、内容的にも最高な評価を得た一戦を超えたというのもすごいですね。

葛西 ベストバウト賞を獲った試合より満足感、達成感、すべてにおいて超えたっていうのは、言うても伊東戦は10年以上も過去のことなんだからそれを今やった試合と比べるのはナンセンスだと思うんだよな。覚悟という点に関しては、デスペラードが「死んでもいい覚悟を持ってリングに上がる」って言ってて、試合に勝つのはもちろんだけど彼のその間違った覚悟を直してあげなきゃいかんなと思ったんだよ。それでさんざんやることやって最後は負けちゃったけど、試合後のマイクで、彼の覚悟をいい意味で折れたかなって思った。お互いの人生を、お互いがいい方に狂わせることができた一戦という意味で特別なものになったんだよ。

デスペラード選手の覚悟を折ることも、葛西選手にとっての覚悟だったと。

葛西 デスマッチってそういうものなんだって思うよ。自分だけが狂うんじゃないし、リング上で狂ったことをやるだけじゃねえ。見る者や闘う相手の人生までをも狂わせるパワーが、デスマッチにはあるんじゃねえのかって。

あの日は、コロナが収束化してきたタイミングで、観客も久しぶりに大会場で声を出せるシチュエーションだったのも大きかったと思われます。あれが声出し禁止だったらあの異様なまでの空間になったかどうか。これも5年前に葛西選手が言っていたことですが「お客さんの声援がないと痛い思いをしてデスマッチなんてやってられねえよ」と。でも、実際はそういう中で2年間、デスマッチを続けざるを得なかった。

葛西 おお、それは大きかったな。本当だよ。あの状況でひとつでも何かが欠けていたら、今言ったこの試合に対する満足感っていうのはなかった。俺っちとデスペ氏、観客が一体になって生み出した“完成品”って言えるな。それほどのものを残せたということは…俺っちは、寿命が尽きる前日までデスマッチをやる生涯現役って自負してんだけどよ、あれを超える試合を今後できるかっつったら正直、やれる自信はない。それぐらいの完成品を作っちまったと受け取っている。だけどよぉ、だけど…超えなきゃいけねえんだよな、やっぱり。うん、そういう意味で今後のキャリアを積み重ねていく上で、俺っちのケツを叩いてくれる一戦になったんだよ。

山下りなにジェラシー。平田智也は
山の中のうまい料理を出すレストラン

あの時点でデスペラード選手との関係性は、闘うにしても組むにしても長く継続させたいと思ったんでんですか。

葛西 一個人同士としての人間関係はわざわざ終わらせる必要なんてないんだから続けたいと思っていたよ。ただ、リング上に関してはもうしばらくいいかなっていうのが正直なところだった。

あれほどのものを生み出してしまいましたからね。

葛西 あれを機にタッグを組んだりまた対戦したりってすると、あの試合の重みがなくなってきちゃうんじゃないかって。それでしばらくはリング上で顔を合わせるのはいいかなって思って、そのタイミングでデスペ氏とタッグを組んでジョン・モクスリー&ホミサイドと対戦することになったから、ここで一度きれいさっぱり線を引こうと思って新日本のリングに上がったんだよ。ところがだ、やっぱ楽しくなっちゃってよぉ。気持ちよくなって最後に「もう一回!」ってなっちまった。

伊東戦と同じですね。

葛西 うーん、自分に嘘はつけなかったな。明日から禁欲するって言っているおっちゃんが女の子抱いちゃったら、もう一回ってなるのと理論上は一緒だよ。

その続きがFREEDOMS年間最大のビッグマッチ8・11横浜武道館大会になりました。自らデスマッチ愛を語り合うパートナーとしてデスペラード選手を呼び込み、対戦相手として竹田誠志&山下りなを指名した。竹田選手はもちろんですが、あそこに山下選手を入れたのが大きかった。新日本の選手が女子プロレスラーと絡むのは通常ではあり得ないわけですから。

葛西 現状をよく見てみろよ、この4人のうち誰が今デスマッチにおいて一番高いステータスにいるかっていったら山下なんだよ。あいつはGCWのウルトラバイオレントのベルトを1年近く持っているし、向こうでのデスマッチトーナメントにも優勝しているだろ(トーナメント・オブ・サバイバル8を日本人として&女子選手として初制覇)。デスペも俺っちも竹田も今ベルト持っていないし、アメリカで実績を残しているかっつったら俺っちもこの数年残していない。そう考えると、山下が現段階で一番上にいるわけだ。それを入れないわけにはいかねえだろうよ。

明快に実績を買ったと。FREEDOMSの最高峰タイトルであるKING of FREEDOM WORLD王座を保持していた時に挑戦者として迎え撃ちましたが(2022年1月3日、新木場1stRING)、現在のデスマッチファイター・山下りなはどのように映っていますか。それこそ自身の存在を脅かすほどに…。

葛西 当たりめえじゃねえか、おめえよぉ。脅かすどころじゃねえよ。この間、俺っちがプチスランプに陥って自分を見つめ直すには何をしたらいいか考えて、自分のデスマッチキャリアの原点はアメリカだって思ったから、アメリカにいけばなんとかなると思っていったらちょうどGCWのデスマッチトーナメントをやっていて、ちょっと見てみるかって控室に忍び込んで眺めていたら、あれよあれよという間に山下が優勝しちゃったんで、この野郎と思って乱入して、リバース・タイガー(ドライバー)とパールハーバー・スプラッシュを食らわせてやったんだけど、それってジェラシーなんだよな、あいつに対しての。

5年前は「俺を脅かす存在がいない」と言っていたのが、ジェラシーを。それってメチャクチャ刺激を受けているということじゃないですか。

葛西 そういう存在になっちまったよな、山下りなが。おい、これは女子だとかなんだとかは関係ないぞ。 強いやつは男だろうが女だろうが強いし、すごいやつはすげえし、男でもしょっぱいやつはしょっぱいし、弱いやつは弱い。リングに上がったら人間としてしか見てないからな。まあ、横浜武道館のカードは俺っち自身が見たかったから。だからあの3人を指名したんだよ。 そして、それを実現させるために会社間の交渉で動いてくれたよな。

佐々木貴代表ですね。葛西選手が望んだ形を実現させるための土壌がFREEDOMSという団体にも新日本にもあったということになります。

葛西 いくら選手の素材がよくても、料理を盛る器がないとなんにもならないし、料理するのは俺っちたちだけど、器からいい味付けするための調味料から何から用意してくれたっていうのは感謝だよな。

こうした刺激を受ける中、FREEDOMS内に目を向けると後輩の平田智也選手がKFC王者としてトップを走っています(8・11横浜武道館時点)。

葛西 デスマッチのクオリティーも高いし、お客さんの支持も着実に上げている。団体のチャンピオンとしてはよくやっているなとは思うけど、俺っちに言わせればまだまだだな。

どのあたりが足りないのでしょうか。

葛西 発信力っていうのか? 他団体やそのファンにまで響いて巻き込むほどの言葉がないだろ。確かにFREEDOMSのファンはチャンピオン・平田智也を知っているし支持もしているよ。でも、ひとたび外に出たら「平田? 誰?」って感じだろ。どんなに立派なことをやっていても、広がっていかなければダメなんだよ。あいつはその広げるための何かをやっているか? キャリア6年ほどで団体最高峰のベルトを巻いているのは評価されるべきことだよ。だけど、葛西純はデビュー3年目ぐらいの時にはすでにクレイジーモンキーとして他団体のファンはおろかレスラーまで巻き込んで「なんだあいつは!?」って思わせていたよ。だからといって、バナナの皮を踏んづけて試合中にすべって転んでみろって言っているわけじゃないぞ。

わかります。発信力に関しては7月に挑戦した藤田ミノル選手からも指摘されたことでした。その時、平田選手は「自分の考えを言葉にするのがヘタクソだけど、自分なりのやり方で頑張って発信していく」と回答しました。こういうのは性格的なものもあるでしょう。

葛西 やり方としては、ファイトスタイルはあのままでいいんだよ。性格的なものって言うけどよ、それをやれるかどうかも努力だろ。藤田先輩はそれを言いたかったんじゃねえのか? そこに関する努力が足んねえんだ。体を作ったり、いい試合をしたりするための努力と何が違うっていうんだよ。どんなにすっげーうまい料理を出すレストランでも、人に知られていなかったら、お客さんが来なかったらなんの価値もねえのと一緒だよ。今の平田智也は山奥にある、誰にも知られていないうまい料理を出すレストランだよ。性格的に苦手だとか僕には難しいっていう前に、やろうとする努力はした方がいいよな。

それを抜きにして、一デスマッチファイターとして意識する存在にはなっていますか。

葛西 意識はする。チャンピオンだからな。ただ意識する止まり。まだライバルだとか、葛西純の地位を脅かす存在までにはいっていない。

この時点では横浜武道館で杉浦透選手を相手に防衛を果たしているかわからないですが、仮に平田選手が武道館でも防衛してまだチャンピオンでいたら、どのタイミングで挑戦するつもりなのかと。今のところまったく表明していないですよね。

葛西 挑戦する気がまったくないからだよ。まあ、向こうから名前を挙げたら、ちょっと考えてもいいかなとは思うけど、俺っちの方からぜひ挑戦させてくれという気はサラサラないな。

要は、平田というチャンピオンを倒してもうま味がないということですか。

葛西 そういうことだな。勝って当たり前、内容で持っていって当たり前。まだそれぐらいの存在でしかないんで。

モクスリーがすごいと言っている
葛西純の方が3階席から見ていた

平田選手がチャンピオンの中、葛西選手は25周年記念試合を4試合“喜怒愛楽”と銘打ちおこなっています。8・28後楽園が最後の“楽”になるわけですが、真夏のデスマッチカーニバル後にFREEDOMSのリングで何をやろうとしているのでしょう。

葛西 祭りが盛り上がったあとは寂しさと静けさしか残らないもんだからなあ。

それじゃ困りますよ。

葛西 まあ、どうなったとしても変わらないのは葛西純がおいしいところを全部持っていくってことだ。横浜武道館も確実にそうなるし、誰がチャンピオンだろうが俺っちがベルトを持っていようがいまいが、そういうことに関係なく観客は持っていく葛西純を見に来るんだろ。

喜怒愛楽の“喜”では植木嵩行と“怒”では伊東優作とデスマッチで対戦しました。そして11・5名古屋国際会議場では杉浦透選手との一騎打ちも決まっています。次世代が台頭する中で引っかかる相手はいますか。

葛西 引っかかる人間…ぜひともやりたいっていうわけじゃないけど、やったら面白いなと思うのは神谷(英慶)だな。

大日本プロレスの。

葛西 この前、6人タッグで当たって(6・9新木場1stRING)これがけっこう面白く感じたんだよな。あいつが練習生で、毎日メソメソしている姿しか知らなかったんでいい感じに化けたなって思った。あと石川勇希。

BJW認定デスマッチヘビー級王座に就いたばかりですね。

葛西 彼の人生を、いい意味で狂わせてみたいって気がするんだよな。あいつの中にも葛西純に対するすごく大きな思い入れがあるはずだから、そういう時がいつか来るんじゃないかって思っている。

刺激を味わうとすれば、どうしても他団体絡みになりますかね。

葛西 FREEDOMS内は葛西純がいる限り大丈夫だから。外にしか刺激がねえって言われて頭に来るんだったら、それはおめえらの問題だろ。だから俺は5年前にも言っただろ、刺激をくれって。

先ほどサムライTV「バトル☆メン」に出演して、デスマッチで闘いたい相手としてモクスリーとニック・ゲージを挙げていました。モクスリーは7月にタッグで対戦したのでわかりますが、ニックとやるとしたらアメリカまでいくしかないですよね(やんなごとき事情で入国できない)。

葛西 俺っちはよぉ、飛行機嫌いなんだよ。アメリカからオファーがあっても、5回に1回しかOK出さないから4回はいかない。それぐらい嫌だけどよ、それほど飛行機嫌いの俺っちがわざわざフライトで15、6時間かけてアメリカまでいってでもシングルやりたいのはその2人だけだな。いにしえの団体・大日本プロレスでニック・ゲージはザンディグたちとCZWとして来ていただろ。その時に俺っちは連日連夜当たってはケッチョンケチョンにされていた。だから、あいつの中ではその時のイメージのまま思われているのが嫌なんだよ。ニック・ゲージが向こうでデスマッチのアイコンになっているんだったら、日本でのデスマッチアイコンは葛西純。お互いがデスマッチでナンバーワンだったら、どっちが真のナンバーワンなのか決めようぜっていう気持ちがあるんで。

そのためには飛行機にも乗ると。

葛西 あと、モクスリーに関しては元WWEだからっていうよりはちょっとした思いがあって。10年ぐらい前になるのかな、KAZMA SAKAMOTOがWWEをやめてこっちに帰ってきて飯食った時に「今、ディーン・アンブローズ(WWE時代のモクスリーのリングネーム)っていうのが売り出されていて、そいつはかつてCZWにいたんだけどジュン・カサイはすごい!って二言目には言っているんですよ」って聞いて、そうなのかと。当時、ウチのハッピーボーイ(長男)がまだ小さくてWWEが大好きで、日本公演の時にチケット買って両国国技館に連れていったら、その葛西純すごいすごいって言っているディーン・アンブローズが華やかなスポットライトを浴びて試合しているのに、当のすごいすごいと言われている葛西純の方が3階の一番安い席で暗いところから見ていた。そういうことがあって、なんかすごい思い入れがあったんだよ。

それを踏まえて7・4の邂逅を見るとまた受け取り方が違ってきます。

葛西 そうだろ? あの一回だけじゃ全然足りねえよ。まあ、そういうのもあって25周年を迎えても俺っちにはやりたいことがまだまだある。それは恵まれているなと思うよ。

四半世紀も続けていれば、自分がのめりこめることも限られてくるものです。

葛西 そうだよな。でもそれを今、ちゃんとこうやってあれもやりたいこれもやりたいって思えるのは幸せなんだと思う。このまま突っ走って、気づいたら布団で冷たくなって…。

その話、よくしますよね。デスペラード選手にはあれほど死ぬなんて考えるなと言ったのに。

葛西 おいおい待て待て、俺っちが言っているのは寿命のことであって、デスペラードが言っていたのはリングの上で死んでもいいってことだっただろ。それはダメだっていうことだよ。

自分の人生が映画として残るというのは、どういう感覚なんでしょう。

葛西 それこそメチャクチャ幸せだよな。仮に今日、この取材が終わったあと帰る途中にトラックが突っ込んできて死んでも、悔いはないって言って死ねる。それぐらい幸せな人生だと思うよ。ただなあ…普通の人が考えるマイホームを持つという幸せはまだかなえられていないんで、それをかなえるまではやっぱり死ねねえよな。

もう何年もそれを人生のモチベーションとして公言していますよね。

葛西 布団の上で冷たくなるにしても、マイホームの畳の上っていう前提だからな。前日まで後楽園ホールで血みどろでデスマッチやってな。そういう人生の最終地点を描いているから、ちゃんと70歳ぐらいまでには実現させるよ。

そういえば息子さんですが、5年前はプロレスラーになりたいと言っていると聞きましたが、その後はどうなんでしょう。

葛西 それはもう、過去の話だと思ってくれ。だってプロレスラーになるんだったら、いい大学なんていかないだろ。ちゃんと勉強して、片道2時間かけて立教大学の埼玉キャンパスに通ってんだから。プロレスラーを目指していたらそんな努力はしないだろ。

そうだったんですか…父子二代のデスマッチファイターは実現しそうにもないと。

葛西 ただよ、ウチにはジプシー嬢(妹さん)もいるからな。今年6歳になるんだけど、スターダムとか新日本プロレス大好きなんで、ひょっとしたらいくかもわかんないんだよ。好き勝手にやってきた俺っちには、彼女がもしやりたいって言っても好き勝手に生きるなって言えねえもんな。だからハッピーボーイもそうだけど好きにやればいいんだよ。そうやって、俺っちが冷たくなる前に実現させてくれ。