鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txt/場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2015年6月号には、第21回ゲストとしてプロレスリング・ノア 杉浦貴選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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※鈴木健.txt氏 twitter:@yaroutxt facebook:facebook.com/Kensuzukitxt

杉浦 貴(プロレスリング・ノア)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

やる側がいい!と言い張っても、
お客さんが思わなければ意味がない

杉浦 貴(プロレスリング・ノア)

鈴木みのるは以前の方がトゲトゲしていた

―鈴木軍の参戦により、今年に入ってNOAHマットは劇的な変化を遂げました。その中で杉浦さん自身の中の感触、手応えとしてはどんなものになりますか。

杉浦 僕はまだ(鈴木軍とは)あまり絡んでないんですけど、NOAHを見続けてきたお客さんからすればちょっと違和感があるだろうなとは思っています。やっぱり、今までのNOAHとは違った闘いがあったり、風景であったりしているんで。

―そのリングに上がっている一人として、現在の風景はどのように映っているでしょう。

杉浦 どこかで変わっていかなければいけないというのは感じています。ただ、いいモノは残していかなければならない…残すべきだという思いがあるんで、僕自身も試行錯誤してきた数カ月でした。向こうには向こうのやり方があるんだろうけど、僕は完全燃焼できるようないい試合がしたい。でも、なかなかそれだけでは興味を持ってもらえないというのもわかっています。

―いい試合を見せるのは大事でも、興味を惹くこともやっていかなければならないと。その点では、鈴木軍のやり方は話題性になっています。

杉浦 サジ加減というか、見せ方。そういうのを発信していくのは今までのNOAHがあまり前面に出してこなかったので、刺激にはなりますよ。でも、刺激ばかりに走るのではなく、守るべき部分は守っていかなければならないし、NOAHのファンはそれを求めていると思うんで。

―杉浦さん自身のこだわりの部分とは?

杉浦 根本的なことを言うなら、チケットを買ってくれたお客さんに満足してもらって帰す。これに尽きます。そこだけは外さないのがプロだし。でも(鈴木軍の)あのやり方に対し満足できずフラストレーションを溜めてしまうファンもいる。溜めて爆発させるのもいいんでしょうけど、地方のお客さんは年に一度ぐらいしか見られなくて、一枚のチケットを買ってきてくれる。そこでフラストレーションが残ったら、次はいつ吐き出せるかわからないんですよ。

―今のところ鈴木軍と本格的に絡んでいない杉浦さんは、昨年から田中将斗選手とのコンビでの活動が中心になっています。組む以前から「他団体の選手と絡んでみたい」と発言されていましたが、ここまで順調に実績(2014年グローバル・タッグリーグ戦優勝、GHCタッグ&NWAインターコンチネンタルタッグ王座奪取、プロレス大賞最優秀タッグチーム賞受賞)をあげられるとは、想定していた以上だったのでは?

杉浦 こんなにしっくりくるパートナーがいるんだ!って。テレビで見てあこがれた選手と実際に試合をやってみたら、ガッカリする時もあるんですよ。でも、田中選手は尊敬できる人で、尚且つタッグとしてもいい形になっている。ただ、自分の中ではシングルよりもタッグに重きを置いているというわけではないです。インターコンチネンタルのベルトを今も持っているんで、それ絡みの試合が目につくからそう思われるんだろうけど、いつのタイミングでもシングルの証(GHCヘビー級)は巻きたいと思っています。

―ただ、現在のNOAHではどうしても鈴木軍と絡まなければ注目を集めにくいという現状があります。

杉浦 現時点では、丸藤(正道)選手がいくというのが決まっているわけで(5・10横浜で鈴木みのるのGHCヘビー級王座に挑戦)。それが終わった時に、自分が何を感じているかだと思います。その結果によってどう動くかは変わってくるし、また自分自身の立ち位置も違うものになってくる。気持ち的にはいつだっていけるよっていうのは常に持っているんで、いざそうなった時にちゃんと動けて、また自分の望む結果を出せるようにしておくのが、コンディションも含めて日々の中でやるべきことなんじゃないかと思います。

―今の鈴木みのる選手を見てどう映っていますか。

杉浦 以前やった時と比べて(2011年5月8日、有明コロシアムにて当時GHCヘビー級王者だった杉浦が鈴木の挑戦を退けている)試合のスタイル的には当時の方がトゲトゲしていたんじゃないかな。マイクアピールだけは達者になりましたけど。

―それは昔からだった気が…。

杉浦 もっとお上手になっている。まだ地方で1回ぐらいしか当たっていないんで、実力的にどう変わったかっていうのはわからないですね。ただ、僕の中ではそれほど(鈴木の存在が)重要なものにはなっていない。闘う相手のひとりであり、ほかと比べてどうという思いは今のところないですね。

―そういうものですか。

杉浦 それは単純に絡んでないからなんですけど。やり合えばまた変わってくるでしょうけど、以前にGHCを懸けてやった時は1対1の男の勝負という感覚が得られたんですけど、今はセコンドの介入がありきでやっているわけで。そういうのを見ると、チャンピオンになったからといって惹かれるものなんてないし。すっげーやってみたい!っていうのは今のところ湧かないですよね。

―確かに4年前は単身で乗り込んできた鈴木選手が、今回はユニットとして乗り込んできたという違いはあります。

杉浦 もちろん、NOAHのベルトを獲られているわけだから獲り返したいという気持ちはありますよ。だけど、一選手として魅力を感じる相手かというと今のところは…リスペクトもできないし。それは以前の方が感じられた。

―杉浦さん的にはかつてあれほどやり合えたのに、なんで軍団で来るんだよという思いですか。

杉浦 うーん…見ている人の気持ちですよね。あれを面白いと思う人もいるだろうけど、昔からNOAHを見てきた人は三沢(光晴)さんや小橋(建太)さんの試合から始まって完全燃焼するGHCの闘いを見てきたわけで。そこにずっとこだわり続けるのがいいのか、それとも新しいものを採り入れたらいいのか。それが先ほどいった試行錯誤につながってくるわけですけど。

―難しいですよね、そこは。見る側とやる側の違いもかかわってきますし。

杉浦 そうですよね、やる側が絶対これがいい!って言い張っても、お客さんがいいと思わなければ意味がないんで。その辺はやってみて判断しないと。試す…っていったらお客さんに失礼になるけど、反応を見て判断していくことが大切だと思うんで。

―ある意味、鈴木軍の存在によって考えるようになったと言えます。

杉浦 もともとどう見せるかというのは考えて当たり前だったんですけど、そこにまったく違う見せ方をする人たちが入ってきて、それを見て感じるようになった。素通りしようと思えばできるんだろうけど僕は、ここはいろいろ試す機会なんだなと受け取っています。

三沢さんの七回忌
メモリアルに思うこと

―そうした変化を迎えた中、三沢さんの七回忌が近づいてきました。

杉浦 毎年6月が近づいてくると三沢さんのことを思い起こしますよね。それ以外にも選手として、会社の人間として何かにぶち当たった時には「こういう時、三沢さんはどうするだろうか」っていうのは本当に自然と思い浮かんでくる。

―その都度その都度の答えを、三沢さんの姿勢と照らし合わせて見いだすのが杉浦さんの中で自然になっているんですね。

杉浦 ええ。試合でも同じです。この場面では三沢さんはどうするかっていうのが頭をよぎって、それをやるようにする。僕は社長ではないですけど、団体の中で上の立場になってきて組織のことを考えるようになるとやっぱりいいお手本というか、頼れるのは三沢さんになりますよね。自分のポジションが変わっていく中で、そういうことを思うのが増えました。まあ、三沢さんだったらというのもありますけど、一番なのは三沢さんに対し恥ずかしくないこと。そこに気づけばちゃんとした答えに行き着くんで。

―あれから6年の時が経つと、リアルタイムで三沢さんを体感していないプロレスファンの方も増えてきています。改めて三沢さんはどういう方でしたか?

杉浦 本当に伝わっている通りの方ですよ。親分肌で、選手の後ろにいる家族のことまで考えられる人間。広い気持ち、広い心を持っていた。比較的近いところから見ていた僕の目に映った三沢さんと、世間に伝わっている三沢光晴に変わりはないと思います。

―人間、広い気持ちを持とうと思ってもなかなか難しいものです。

杉浦 広い心を持った親分に出逢えたこと自体が、僕は恵まれていたんですよ。今の世の中、そんな上司ってなかなかいないじゃないですか。どんなことが起きても、腹を括っているなって思えましたもん。上の人間がドンと構えていれば僕らも安心だったし。

―杉浦さんも後輩が増えていく中で、そうならなければという思いになりますか。

杉浦 まったく同じじゃダメなんだと思いますけど、見習うべきところは見習わないというのはあります。折角ああいう人に出逢えたんですから。

―6月13日に三沢さんの最後のリングとなった広島でメモリアル大会が開催されます。

杉浦 あの場所でやる日がいつか来る、やらなければならないとは思っていました。当日は、会場のどこかから見てくれていると思って試合に臨もうと思っています。でも、ノスタルジーや過去を振り返るための大会ではなく、今現在のNOAHを僕らは見せる。それを見ながら、お客さんには過去を振り返っていただければそれでいい。三沢さんが遺したNOAHを守って、もっともっと上のステージへ持っていこうとしている姿が現在のNOAH。それはもしかすると、もがき苦しんでいるように見えるかもしれませんけど、だからこそ感じるものがあると思うんで。

―高山善廣選手が盟友だった鈴木選手の側につかず「三沢さんが遺したNOAHをなくすわけにはいかない」という理由でNOAHと共闘する選択をしたのも、共通の思いがあったからでしょうね。

杉浦 本当にそうだと思います。みんな中に息づいているんです、6年という時が経ってもね。