スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)コーナーでは、毎月旬なゲスト選手を招き、インタビューが掲載されています。現在発売中の2016年6月号には、メキシコで開催される「ルチャリブレ・ワールドカップ」へ出場するプロレスリングノア・丸藤正道選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
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※鈴木健.txt氏 twitter:@yaroutxt facebook:facebook.com/Kensuzukitxt
僕が勝てなかった
三沢さん、小橋さんの
位置にたどり着く目標
丸藤正道(プロレスリング・ノア)
ファン時代にあこがれていたルチャ
初のメキシコ遠征で打ち砕かれる
―昨年、メキシコにて初開催された「ルチャリブレ・ワールドカップ」にはチーム・ノアとして石森太二&小峠篤司&高山善廣組が出場しました。今年は丸藤さんが自分で腰を上げたと。
丸藤 いや、去年も出たかったんですよ。でも日本での試合の日程と重なってしまって諦めた所存でございます。メンバーをみてもなかなか絡むことのない選手がたくさんいたんですけど。
―優勝したレイ・ミステリオJr&ミステシス&エル・パトロン・アルベルト(アルベルト・デル・リオ=ドス・カラスJr)などまさにそうですよね。
丸藤 それで今年もお話があって、日程を見たら空いているじゃないか!と。(マイバッハ)谷口と石森クンと組んで出ます。ノアでメキシコにいくとなったら、石森クンは外せないです。
―闘龍門出身ですからね。通訳こみで。
丸藤 そうです。大変重宝します。谷口は、マスクマンの時の方がメキシコでは馴染むのかもしれないんで…一回戻そうか?
―ついこの間素顔に転身したばかりなのに。
丸藤 メキシコ限定で復活するのもいいかも。まあ、チームに関しては何も不安はないんで、いけると思います。
―2004年に初めて遠征にいったあとも、メキシコは何度か経験しています。
丸藤 僕はファン時代、ルチャリブレにあこがれていたんで、初めていく時は本当に楽しみだったんですよ。ところがあまりの文化の違いというか…2週間の遠征で7kg体重が落ちました。
―それは食べ物にやられたんですか。
丸藤 はい。水に気をつけるようにと言われていたんで、飲まないのはもちろんだし歯を磨く時もミネラルウォーターを使ったぐらいだったんです。でも、タコスの野菜が水で洗ってあるからそれにやられたんでしょうね。試合直前までお腹がギュルギュルで。カレンダーに×印をつけて帰る日までを数えていたぐらい。
―あれって、本当にやるものなんですね。
丸藤 それぐらいの気持ちになりましたもん。試合に関しても、同じプロレスであってもルチャに対応しきれなかったですよね、あの頃は。自分の持ち味の30%も出せなかったっていう思いが残りました。日本にメキシカンがやってきて肌を合わせてはいたんですけど、現地ではまるで違った。それで、日本に来るルチャドールは日本のプロレスに合わせて、対応してやっているんだなってわかりました。そこはやっぱり、技術としてすごいわけです。ただマスクと派手な飛び技にあこがれていただけだったんだなと、自分の甘さを痛感したメキシコ初体験でした。
―ファン時代にあこがれていたルチャドールは誰だったんですか。
丸藤 イメージ的には初代タイガーマスクさんの対戦相手ですよね。ソラールやフィッシュマンの年代ですから古いですよ。だけど、そういう人たちってじつはあまり飛ばないというね。でも、仮面を被った人間がメキシコからやってくるっていうのがワクワクしたんですよね。
―プロになってからも影響を受けたりはしたんですか。
丸藤 それはなかったですね。なぜかというと、そこはデビュー前の時点で日本のプロレスを学ぶわけですから、いったんルチャというものから離れたんです。触れるとしたら、メキシコにいった経験のある日本人選手を見る形。(ザ・グレート)サスケさんであったり(スペル)デルフィンさんであったり、みちのくプロレスの方たちになります。
―ジャパニーズルチャと呼ばれたスタイルですね。そこからスタートして、本場のルチャを体感して、今はそれに対応できるという自信がありますか。
丸藤 うん、だからそこが今回の楽しみでもありますよね。昔とは違う今の自分の存在感、技が今現在のメキシコに受け入れられるか。以前はそれが緊張であり、プレッシャーだったのが、今回は楽しみや心地よさになっているんで。
―これまでの遠征で、いい思い出の方は?
丸藤 2回目の遠征の時はGHCジュニアタッグ王者として、ベルトを持っていったんですけど、空港で「おまえはルチャドールなのか?」って聞かれてそうだって答えたら全部パスでした。あと、ホテルもルチャドール割引みたいなのがあったり。2回目からですよね、そういうことを楽しめる気持ちの余裕ができたのは。
―スタイルの違いと合わせて、メキシコ独特の雰囲気もありますよね。
丸藤 試合のリズムからして日本とは違うんですけど、それによって発生するお客さんとの一体感がこれまた違う。ルチャドールは常に動いていて、お客さんもじっくりと見ようという気は最初からなくて、とにかく騒ぎまくっている。そのリズムが合うことによって日本ではあり得ない盛り上がりになる。
―スポーツ観戦というよりもお祭りに参加しているような。
丸藤 メキシコでは国技のようなものですから、国をあげて楽しんでいる。その違いを見てもらったらルチャの魅力が伝わると思います。日本のプロレスが試合を見て楽しむものとすれば、ルチャリブレはそれを見ている観客のリアクションも含めて楽しめる。プロレスってこんなふうに楽しんでいいんだ!?っていう発見があるんじゃないかな。日本は時代によってプロレスの見方が変わってきたと思うんですけど、リング上と客席の距離感はメキシコって古い時代からずっと変わらないんでしょうね。
―メキシコの観客はのめりこみ度が日本の比ではないですよね。
丸藤 フービー(フベントゥ・ゲレーラ=第36代IWGPジュニアヘビー級王者)の興行で、新木場1stRINGぐらいの小さな田舎の会場に出た時があったんですけど、開始が1時間半押したのに誰もお客さんは文句を言わないんです。あいつ、自分の入場の時に見せるダンスの打ち合わせばかりやってて、興行を開始するっていうのが頭から飛んでいるんですよ。それで終わりが夜中の12時をすぎても、普通にちっちゃい子が会場で走り回っていました。
僕とまじわらない時期に成長すれば
純血ノアの闘いに目を向けてくれる
―今回はルチャ版ワールドカップとして世界中のプロレスラーが集い、優勝を争うわけです。当然、メキシコの選手以外はとんでもなくアウェイになるでしょう。
丸藤 僕はそれすらも楽しみです。これまでのメキシコ遠征も、基本はブーイングだったんで。そこでいつもとは違う自分が発見できる楽しみ。ブーイングを声援に変える必要はなくて、それに応じた試合をするから明らかにいつもと違うシチュエーションじゃないですか。日本だったら野次や罵声が飛んできても受け流すんですけど、向こうでは率先して拾って、エキサイトしている観客に向かってこっちが煽るとさらにグワーッて上がる。あの感覚はメキシコならではですよね。だから、この大会が放送されたら日本のファンにもいつもと違う丸藤正道が見てもらえると思います。
―試合を楽しむという意味では、昨年から始まった鈴木軍との闘いがずっと続いていて、何かを背負うというような重いテーマの中でなかなかプロレスを楽しむといった立場にはなれませんでした。その意味では、久々に楽しめる機会なのでは。
丸藤 ルチャリブレの意味は自由の闘いですから、自由にやれますよ。リフレッシュするにはこの上ないですから。現地のスタイルのまま悪いやつになって帰ってきたらすいません。
―いや、それはそれで面白いと思います。
丸藤 試合以外でも触れられるものがあるんで、そういうところにもいってみたいですね。これまでは、ピラミッドにいったぐらいなんで。
―テオティワカンのピラミッドですか。
丸藤 そのてっぺんでおにぎりを食べるという、テレビのよくわからない企画があって。森嶋(猛)さんが一緒にいっていたんで、おにぎり似合うじゃないですか。そういう企画もお待ちしております。
―うまい具合にリフレッシュして、帰国したら6月18日に鈴木軍興行があります。前回は矢野通を投入する秘策で鈴木軍に一杯食わせましたが、相手方の興行になると何かを仕掛けてやろうという気になるんですか。
丸藤 本当は普段からそういうのも見せていかなきゃならないんでしょうけど。ノアの興行ではさんざん鈴木軍に見せつけられてきたんで、逆にそういう時こそただで終わらせたくないっていう気持ちにはなりますよね。これもメキシコと同じでアウェイなるじゃないですか。
―普段はノアのファンから声援を送られている丸藤さんに、鈴木軍支持派からブーイングが浴びせられます。
丸藤 試合でやることは普段とそう変わらないですけど、向こうが嫌がらせとしてやってくるであろうことは、逆に利用してやろうとは思いますよね。結局、僕自身が楽しめなければお客さんにも楽しさとして伝わらないと思うんで、型にハマった丸藤正道を見せてもつまらないかなと。ひとつの信念を持ってさえやれば、そこはもっと自由にやった方がいいんじゃないかって思いますよね。
―じっさい、前回の鈴木軍興行はそれで楽しめたファンも多かったでしょう。今年に入って、GHCヘビー級王座は鈴木軍入りした杉浦貴選手に奪われてしまいましたが、中嶋勝彦選手の活躍や潮﨑豪選手がフリーとして助っ人になっていることもあって、ノア軍が巻き返してきた印象があります。
丸藤 去年は責任感から自分が自分がっていう感じでやっていたと思うんですけど、今年に入って自分がベルトを奪われてしまったところから、そういう新しい流れがスタートして雰囲気が変わってきたというのは僕も感じています。この数年は、若い選手が育たなかった中で(マサ)北宮や熊野(準)のように自分をアピールするようになってきた。それもあってなのか、入門志願者が増えてきているんです。
―去年までは丸藤さんがいくんだからと遠慮していた部分があったのかもしれません。
丸藤 だとしたら、それじゃいけないっていうことにみんなが気づいてくれたのが今年の形になっているんでしょう。かといって僕は、そこで譲るつもりはない。気持ちの面では去年と同じですから。
―一歩退いているわけではない?
丸藤 退いてないですよ! 今は、ほかの選手がチャンスをつかんでいるだけであって姿勢はずっと変わっていない。それが結果としていい形になっているわけだから、自分が出ることによっていい結果につながる時が、僕の出る時です。だからGHCヘビーを自分の手に戻すのは大前提。その上で、超えられそうでなかなか超えられない壁になれるように…僕の先輩である三沢(光晴)さんや小橋(建太)さんという方々は、ベルトを持っていようがいまいが「この人たちがこの団体のトップなんだな」と世間から認識されていた。その部分で僕は勝てなかったわけです。僕がGHCヘビー級のベルトを持っていても、ノアの顔は三沢光晴、小橋建太っていうままで、それは僕の中で本当に大きな現実として残った。そんな自分が今の立場になって、その位置までたどり着くのが目標なんだって思うようになりましたね。
―言われてみれば鈴木軍参戦以後は、丸藤さんが若い選手の壁として立ちはだかるようなシチュエーションからは遠ざかっています。一騎打ちで対戦するタイミングが巡って来ないのが現状ですね。
丸藤 そうやってまじわらない時期に成長して、お客さんの印象も高めて、今度やったらどっちが勝つかわからないっていう状況を築けば対戦する日が来た時に、純血ノアの闘いに目を向けてくれるんだと思います。
―リーグ戦で同じブロックにでもならないと、今の流れの中で丸藤正道vs中嶋勝彦、潮﨑豪、マサ北宮、熊野準というのは組まれる可能性は高くない。そんな今だからこそ、築けるものがあると。
丸藤 そこはヘビーに限らず小峠、原田大輔、拳王、大原(はじめ)のようなジュニアだっていいと思うんですよ。僕も体が大きくなくても、ヘビーの人とやってきたんだから…あれ? なんか俺、引退するみたいなことになってんじゃん。まだまだやりますからね。