スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2020年9月号では、第77回ゲストとしてプロレスリング・ノアの拳王が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
※『月刊スカパー!』(ぴあ発行)の定期購読お申込はコチラ
※鈴木健.txt氏 twitter:@yaroutxt facebook:facebook.com/Kensuzukitxt
コロナの影響で、プロレスラーは
プロレスというジャンルのことも、
世の中のことも考えながらリングに
上がらなければならなくなった
拳王(プロレスリング・ノア)
©プロレスリングNOAH/FIGHTING TV サムライ/カメラマン:中原義史
去年の両国後にやったシングルマッチは
中嶋、覇王、論外とあと一人…わかるか?
昨年GLOBAL LEAGUEからN-1 VICTORYにグレードアップされたシングルのリーグ戦に、前回優勝者として今年はエントリーされました。
拳王 GLOBAL LEAGUEの時代から数えて2年連続優勝をした人間が一人もいないことは知っているよな? それを最初にやった人間として歴史に名を残すのは悪いことではないし、また狙える時にキッチリとやり遂げなければというのがまずある。去年は、N-1に臨むまでさまざまな公約を立てながらなかなか実績を残せなくて、ある意味背水の陣でやって優勝できた。
発言にともなう実績が残せずにあがいていた中での制覇でしたよね。
拳王 実績をあげられなかったのは当時の親会社だったリデットエンターテインメントが俺にも金剛にもチャンスを与えなかったからというのもあるけど、そういう逆境を乗り越えてノアをダイアモンドのように輝かせると宣言していながら、じっさいにはできていなかった。だったら実力勝負のリーグ戦で示すしかないと思っていたからな。
言葉に出さなければ背負わずに済むことも、拳王選手は言ってしまうタイプですよね。
拳王 基本的に強気にいきたい性分だし、またそうじゃなければクソヤローたちも関心を持たないだろ。ただその分、結果がともなわなければ説得力がなくなりこれまた誰も関心を示さなくなるっていうのは俺自身がわかっていたことだから。シングルのリーグ戦が組まれたということは、ここでいい結果を出せなかったら誰のせいにもできないから、それは俺自身の覚悟も違ったよな。
シンドい、自信がない、やりたくないといった後ろ向きな意味の言葉も拳王選手からは聞いたことがありません。
拳王 ハッキリ言っておくが、そういう部類の言葉を口にした瞬間、それはもう拳王じゃないと思ってくれていい。俺は常に言葉によってクソヤローどもを刺激するつもりで喋っているから。言葉に出すことによって俺自身が前向きでいられるし、やれないことまで風呂敷広げて言葉にしているつもりもないんで。俺が口にしたことは、じっさいにやれると思っているから言っている。あと、去年のN-1に関して言えばGHCヘビー級チャンピオンの清宮海斗が不出場を決め込んだことがさらにこの俺を発奮させることになった。
現チャンピオンとして優勝者の挑戦を11・2両国国技館で受けるというスタンスでした。
拳王 その年のGLOBAL TAG LEAGUEで俺と清宮はタッグを組みながら、最終戦前に空中分解しただろ。まあ、あれはスピード離婚のようなものだけど、そこから3、4ヵ月感情をぶつけ合って闘ってきたというのに、いきなりあいつの方から降りやがった。じゃあ、それまでの闘いはなんだったなってなるし、またチャンピオン不在によってノア最強を決めるリーグ戦じゃなくなることをしているのも気に入らなかった。そういう憤りも結果論だけど力になったと思うよ。
拳王選手のブロックは中嶋勝彦、望月成晃がいてバチバチやり合えました。
拳王 去年の公式戦では、負けただけに望月戦が今も頭から離れないよな。悔いも残ったし。
その年の3月を最後にシングルマッチが一度も組まれない中でシングルの連戦に臨まなければならなかったことも会社の陰謀だと主張していました。
拳王 そうだったな。ただ、初戦の谷口(周平)戦だけ不安ではあったけどそれ以後は強い意思を持ってやれたんで、そこは問題にはならなかった。それを言ったら今年も似たようなもので、7月の金剛興行でやった覇王との一騎打ち、それとこの前の中嶋勝彦とのナショナル王座のタイトルマッチを除くと、去年の両国以後でやったシングルマッチは俺が記憶する限り2試合しかない。誰だかわかるか?
確か無観客試合でNOSAWA論外選手とやっていますよね(5・3TVマッチ、金剛vs杉浦軍6対6シングル対決)。あとの一人は…すいません、出てこないです。
拳王 百田力だ!
ああっ! 去年(12月27日)のことなので思い出せませんでした。
拳王 これはN-1へ出るにあたって参考になるような相手じゃないから、実質的には去年とそんなに変わらないシングルマッチの数なんだよな。でも、それは経験しているわけだから不安要素に一切ならない。まあ、前回と違うのは具体的な先がハッキリとは見えていないところだな。
去年は優勝したら両国のメインでGHC挑戦という明確なものがあったので、その先の目標を立てられました。
拳王 その代わり、出場選手の中で唯一2連覇という目標を持てるのが俺だから。「N-1と言えば拳王」と呼ばれるぐらいになるつもりでやるし。
第1回&第2回G1クライマックス連続優勝したことで蝶野正洋さんが“夏男”とされたり、後藤洋央紀選手が毎年「G1のGは後藤のG」と言ったりしているように“ミスターN-1”と呼ばれるぐらいになると。
拳王 そのへんのたとえ方に関してはおまえのセンスだから、俺からは何も言わない。とにかくN-1=拳王となるためには1度や間をおいて2回優勝しても誰もそういうイメージを抱かない。連覇してこそのイコールだと俺は思っている。
プロレス界にあるリーグ戦で
N-1が一番面白いと言わせる
何よりも、この世の中の状況においてファンの前でN-1を開催できること自体よかったと思うんです。3月から4ヵ月、無観客試合が続きましたが、どのようなものとして自分の中に残りましたか。
拳王 無観客試合を続けること自体、賛否両論が起こったよな。観客を入れた形ではなくても、こんな時にプロレスをやるなんて…という声があったのも確かだ。ただな、ノアは業界の先頭を切って無観客試合をやっていた。緊急事態宣言の最中でも、プロレスファンにとってはそこにプロレスがあることが生き甲斐につながったはずだ。会社判断として何もやらず、自粛している方が問題はなかっただろう。そういう判断で無観客試合をやらなかった団体があるのも確かだ。だけどな、ノアはやった。そのことに関しては、俺自身も今までになかった環境でプロレスを続けたことがプラスになったし、会社にとってもプラスになったと思う。一つの問題に対し、業界の先頭を切って向き合い、形にし続けたという事実は、プロレスリング・ノアにとって大きなことだったと思うよ。
周囲に同調するのではなく、自分たちで考え、判断してやれたと。
拳王 そうだ。そうやって先頭を切ってやってきた流れでの今だから、N-1も含めて俺はここがノアにとっての勝負なんだと思う。今後もその姿勢でどんどん前向きにいくことで業界内におけるノアの立ち位置は変わってくるだろうし、シングルのリーグ戦という点でも他団体で同じ企画はおこなわれているんだから、そこでの比較論にもなってくる。プロレス界にリーグ戦はいくつもあるけど、N-1が一番面白いって思わせるための大会でもあると俺は認識した上でやるからな。
プロレス界全体を見ていますね。
拳王 当たり前だろ。ほかのエントリー選手は目の前の相手を倒すことや、優勝するところまでしか見えていないんだよ。俺は違うぞ。今、この時代にノアがプロレス界で何をやるのか、また何ができるのか。それを考えながらリングに上がれば、敵は反対側コーナーに立っている人間だけではないことに気づくだろ。コロナの影響で、プロレスラーはプロレスというジャンルのことも、世の中のことも考えながらリングに上がらなければならなくなった。でもそれは選手だけが思っていたところで形にはできない。その意味でも…いいか、今から初めて現体制の会社のことを誉めるぞ。あの時点で無観客試合を続ける決断をするのは難しかったと思うよ。よくぞ会社として決断した。
7月18&19日の後楽園ホール大会から有観客試合が再開しました。ソーシャルディスタンスを取った客席の風景、声出しができない観客のリアクションをどう感じましたか。
拳王 声は出せなくても、そこに観客の視線があるのとないのとではまったく違うと思った。もちろんあった方がやりやすいし、入場した時に声は飛ばずともそこにいることがあたたかみっていうのかな、そのありがたみは正直あったよ。おそらくそれは、観客がいない状況での試合を経験したからこそ気づけたものなんだと思う。
当たり前のようにあったものがなくなり、それが戻ってくると特別に感じると。
拳王 そういうことだ。リング上の選手に声を飛ばすというのはある意味、日々のストレスを発散させるためにやっている部分もあるだろ。でも、それができないとなった時に見る側の意識も切り替わったはずだ。やれるのは拍手だけだとしたら、その拍手によって闘っているプロレスラーと一緒に作り上げていこうという。その気持ちが、あの日の拍手からは伝わってきた。
より意思を持った拍手ですか。
拳王 そう思うと、やっぱりコロナ前の拍手とは違う質のものなんだろうな。有観客再開一発目の7月18日は、拍手に思いをこめようと思っても勝手がわからないし、じっさいにやるにしても思ったようにはできなかったんだと思う。でも、3大会目となる金剛興行では明らかに慣れてきていて、本来ならば声で伝えていた気持ちを拍手の仕方によって伝えられていた。この調子でいったら、N-1を迎える頃にはその形がもっとしっかりしたものになっているはずだ。新しい観戦方法をクソヤローたちが自分たちで考えて築いていけば、もっといい雰囲気の会場になると思う。
やる側としては、声のリアクションがないのはやりづらさを感じないんですか。
拳王 ないかと聞かれたら、やっぱりやりづらさはあるよ。ただ、そこは無観客を経験してきているからそれによって試合の中で何かの影響を受けることはない。気にしたところで、現状では声が飛んでこないのは変わらないわけだから。
金剛興行といえば、メイン後に元親会社への感謝の思いを大演説していました。1年前は陰謀とか金剛は嫌われているとか言っていたのが、こうなるとは。
拳王 それもクソヤローどもと同じで、いなくなるとありがたみを実感できるものだということだ。リング上で俺が言ったことは間違ったことじゃないだろ。
それはわかりますが、それこそ1年前に言っていればリデット社さんともわかり合えたのに。
拳王 あの時は完全にアンチ思想だったからなあ。いや、自分でも人間こうも言うことが変わるものなのかと思うんだけど、どっちも本心なんだよな。
客席から観戦していた鈴木裕之社長も号泣でした。泣かせにいったなと。
拳王 そんなことないぞ。泣かせにいくなんて、そんな計算して言うようなことじゃないだろ。おまえももっと物事を素直に気持ちで見ろよ。この業界へ長くいるうちに物の見方が荒むのも無理はないが、心からの感謝の気持ちを言ったまでだ。それを鈴木社長がどう受け取るかなんて考えてもいなかった。
そういうものですか。
拳王 考えてもみろ。これまでプロレス業界は親会社が変わった時、何かしらの確執が生まれていただろ。それがまったくのクリーンな別れだった(リデット社は一スポンサーとして現在もノアを応援)。それだけでも大きな功績だと思うし、そこはクソヤローどもも認めているはずだから、それを俺が代表してリング上から伝えただけだ。リデット社が今後も独自に興行をやっていくというならば、恩返しの意をこめて喜んで出場させてもらうから。
拳王選手が個人マニュフェストとして掲げていた2020年内のノア日本武道館進出は、コロナの影響で予定が狂ってしまいました。
拳王 昨年12月の金剛興行超満員という条件をクリアしたことで、鈴木社長は日本武道館に申請すると言っていた。だからそれはすでに通っていたと思う。ただ、現状では開催が難しいからいったん流れてしまったんだろう。でも、俺はもちろん諦めていないから。
サイバーファイト、あるいはサイバーエージェントとしてもう一度押さえなければならないですよね。
拳王 そうなるな。ただ、そこはリデット社の首を立てに振らせたのと同じで、自分たちの力で会社を動かすように持っていくから。大切なのは言い続けることだろ。常識的に考えれば今の世の中でプロレスを日本武道館で開催するとなったら難しいと言わざるを得ない。でも実現するまで唱え続ければそれが関わった人間たち共通の目標になる。ノアの選手とクソヤローどもが一緒に歩んでいくための理由になる。それを「今はこういう状況ですから」って言わなくなったら、何を目指せばいいんだ? どれほど世の中的に困難であっても、遠い将来の夢にして実感なきものに俺はしない。改めて言うぞ、2021年だ。来年再び日本武道館にノアが戻れるよう、俺は仕掛けていく。
杉浦軍は「会社の犬」だけでなく
俺が推しているものを奪うつもりか
楽しみにしています。ところで現在、ノアマットに定期参戦している武藤敬司選手に関してはどう映っていますか。まだ一度も絡んでいないですよね。
拳王 ノアに上がっているかぎりは金剛vsM’s allianceとして絡む日もそう遠くないところで来るだろうな。まあ、武藤敬司がそこにいることによって、ノアのランクが1つ上がるなとは思う。それほどのレジェンドだし、新崎人生とBATTをやっていた時代も俺は見ていた。新崎人生を知る者同士として、対戦したら通じるものがあるかもしれない。杉浦軍として上がるようになった桜庭和志にしても、まさか肌を合わせる日が来るとは思っていなかったけどやってみたら面白かった。プロレスのリングでプロレスじゃない動きができたのは刺激的だったし、向こうの動きに対応するうちに自然と自分の中からそういうものが出てきたのも新鮮だった。ある意味、自分のひきだしを開けられたんだろうけど、開けられたひきだしの中に入っていたものを自分で見て、こういうのがあったんだっていう気づきがあった。今のノアには、率先して動けばまだまだ新鮮さが味わえるカードっていっぱいあるんだよな。
武藤敬司、桜庭和志だけでなく鈴木秀樹戦、ケンドー・カシン戦も見てみたいです。
拳王 もちろん自分から積極的に動くことでそういう試合が実現するなら動いていくけど…今はAXIZに対する腹立たしさが自分を突き動かしている方が先に来ているっていう感じだな。
何がそんなに腹立たしいんでしょう。
拳王 潮崎が“I am NOAH”って言っているのを見てもわかるように、あの2人はノア全体ではなく自分のことしか考えていない。ファンには「あなたたちのために頑張ります」とか殊勝なことを言っていながら「俺ってノアでしょ」とか言っている。
そんな軽い訳し方をしなくても。
拳王 いいや、アイアム・ノアをどう訳すかは受け手側の解釈に任されるはずだ。ノアのファンが100人いるとして、そのうち30人がAXIZのファンだとしたら、その30人のことしか頭に入れないのがあの2人。金剛は100人全員を頭に入れているし、なんならノアファン以外の人が100人いたら、合計200人のことを考えてやるよ。そうしなければノアのファンは増えていかない。潮崎の“I am NOAH”に対し、丸藤正道が“I am REAL NOAH”って言い返しただろ? あれは見直したよ。旗揚げから20年間、どこへもいかずにノアでやってきた人間だから説得力がある。俺はその時代のノアを知らないから絶対に言わないし言えない。でも、今のノアの中でやれることはある。主になるのは自分じゃない、ノアなんだよ。
わかりました。それでは…。
拳王 ちょっと待て、杉浦軍はいいのか?
いや、何かあるようでしたらどうぞ。
拳王 杉浦軍にも言いたいことがあるぞ。最近、リデット軍とか言っているよな。
カシン選手が言ってそこにほかのメンバーが無理やり突き合わされているような感じです。
拳王 また俺が推しているものを奪うつもりなのか? 杉浦貴が「会社の犬」と言ってグッズ化し売れたらしいが、そもそも会社の犬と言い出したのは俺の方が先だったろ。俺が清宮に対し「おまえは会社の犬だ」と言い続けていたら、いつの間にか杉浦が横取りしたんだよ。失敗だったのは、その時点で俺が“会社の犬”を特許申請しなかったことだ。していれば杉浦がひとこと発言するたびこっちへ使用料が転がり込んできたっていうのに…。
なぜすぐ取らなかったんですか。
拳王 ……次からは取るよ! リデットの名前も去年1年、ずっと出し続けたのは俺だったのに、また杉浦軍の連中がポッと出で使い始めた。2つも俺から大事なものを取りやがって…これはもう許せない。言葉っていうのは思い出したように言ったところで何も響かない。いつかしかるべきタイミングで糾弾してやる。それが嫌だったら去年、爆発的に売れた会社の犬Tシャツの売り上げ30%を俺に持ってこい。俺が言わなかったらあのヒット商品は生まれていなかったんだぞ。杉浦が発言する前から俺は会社の犬Tシャツというものを出そうと思っていたのに…。
まあ、杉浦選手の発言の方がファンの心に刺さったことで会社も間髪入れずTシャツ製作に動いたところもありましたからね。
拳王 なんだよ、俺の方は刺さらなかったっていうことか? まあ、清宮を糾弾するために言っていたことだから、それは会社も動かないよな。とにかく、その怒りを杉浦軍にぶつけていくから。
わかりました。それではN-1以後も含む今後についてのプランを最後にお願いします。
拳王 去年は言葉にともなって自分の実績をあげるためのことをやったが、これからは金剛として実績を出していくことだな。ノアにあるユニットの中では誰が見ても一番まとまっていて総合力もあるのが金剛。N-1でこの俺、拳王が優勝したところから金剛の逆襲が始まるからクソヤローども、ちゃんと金剛についてこいよ。