鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2020年10月号では、第78回ゲストとして全日本プロレス・宮原健斗が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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宮原健斗(全日本プロレス)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

今の方がむき出しの
プロレス愛として
伝わっていて、
それに支えられている

宮原健斗(全日本プロレス)

撮影:中原義史

無観客試合で思った
「俺って強くないんだな」

このインタビューが掲載された本誌が発売されるのは9月24日ということで、チャンピオン・カーニバルは終盤戦に入っています。優勝戦線に残っていていただかないと意味のない内容となってしまうので、どんな手を使ってでも優勝戦に進出してください。

宮原 これは追い込まれますね。残らないといけないな。

まず、毎年春の祭典として開催されていたチャンピオン・カーニバルが新型コロナウイルスの影響で秋に延期となったわけですが、その影響はありますか。

宮原 季節よりも、公式戦が1週間に1、2試合ぐらいのペースっていうのが影響は大きいと思っています。試合勘を一回リセットさせることになるんで。通常なら巡業に出て公式戦が連戦で続くわけじゃないですか。それが変わって、やりやすいのかやりづらいのかというのが僕にもわからないので未知の領域ですよね。

気持ちの持ち方も難しいと。

宮原 かもしれないです。公式戦をやるごとに試合勘が途切れるのは、今までのチャンカンではなかったんで。でも僕は順応できる自信があります。イメージはできても、それを固めすぎるとじっさい違った時に慌てちゃうんで、あまりイメージしないで臨んで、その場でニュートラルに対応した方がいいとは思っています。

本来ならば3月の三冠ヘビー級戦で王座から転落して、カーニバルから巻き返しを図ろうとした矢先の中止でした。

宮原 あの時点では、コロナというものの実態が今ほどわかっていなかったじゃないですか。まだリアリティーもなかったので、ヘンな感覚でした。何が原因でこうなったのかという。

でも、待っていればできると思っていたんですか。

宮原 そのへんは身を委ねるというか、考えないようにしていました。自分から急ぎすぎずに。

そこから無観客試合に入っていったわけですが、いろいろとできない中でも得たものもあったと思われます。

宮原 あの時は(映像)カメラの向こう側にいる皆さんのことを想像しながらやるしかなかったですよね。あの現場で何かを学ぶというのは僕の場合、なかったかもしれない。僕のスタイルとして、ファンの人たちの声によって組み立てていくのが絶対的にそこへあって、それがなくなって初めて「俺ってあまり強くないんだな」って思っちゃったんです。

常に「宮原健斗は最高」と言ってきたのに。

宮原 お客さんに乗せられて「ケント」コールを聞いて試合を構築してきたのが、それがなくなったことで自分が自分でないような、それまでは100だとしたら20%の宮原健斗しか発揮できていないような感覚でした。

確かに宮原選手の場合、入場シーンから試合、そして試合後の締めとパッケージで観客のリアクションとともに成り立っている作品ですから、もしかするとプロレス界で一番そこに観客がいないことの影響が大きかった選手になるかもしれません。

宮原 試合後の充実度でいったら、13年目にして初めての経験でした。どこに何をぶつけたらいいのか、達成感も反省点もよくわからなくて、ヘンな疲れがありましたね。まあ、それが数年後に役立つのかもしれないですけど、今は何が自分のためになったのか、何を得られたのかというのは見えていないんです。だからこそ、カメラの向こう側にいる人たちに伝えようとすることでしか自分を支えられなかった。仮に配信もおこなわれず、カメラさえもない状態で試合をしたら、プロフェッショナルという意味で難しかったでしょうね。そこはなんのために痛い思いをして、キツい思いをしてってなるじゃないですか。声援があるから耐えられるのであって、それがない中でプロレスをやることに疑問を抱きながらやっていました。この環境の中でいいモノを提供できるのか。だから…改めてそうなのか、お客さんの声援があって自分は実力以上のものを出せていたんだなって。

それで「強くないんだな」と思ったわけですね。

宮原 無観客試合をやらない団体もあったじゃないですか。こういうのが理由の一つなんだろうなって思いました。でもそれだとゼロじゃないかという判断がウチの会社だった。そこに関しては正解だと思ってやっていました。停まってはいられないですから。

有観客に戻ってからも声出しは禁じられていて、コール&レスポンスができない状況です。

宮原 今、模索中です。そこは非常に難しいところで、コールなしでやるとリズムが合わないんですよね。試合のリズム自体、声援を聞いた上で次の動きにいこうと判断しながらやってきたんで、お客さんはいるのにそれがないというのはまだ感覚としてつかみきれていないです。ただ、そういう中で拍手によって力を貸してくれようとしている。そこはプロレス愛をより感じます。もしかすると、今の方がむき出しのプロレス愛として伝わっているのかもしれない。それに支えられている感じですよね。今までは会場が盛り上がるというところに正解を置いてやっていたのが、それが望めぬとなると何に正解を求めたらいいのかがわからない。やる側も、いい試合なのかどうかもわからなくなる。だからこれは選手とファンの皆さんが一緒になって耐えるところなんだと思います。この状況を楽しむぐらいの切り替えをしないと、一回一回神経を擦り減らして耐えられなくなるかもしれない。そこはプレイヤー側が示さないと、声援を飛ばせないから手拍子という感覚でしかお客さんもやれなくなっちゃうと思います。

声援の代わりの拍手ではなく、楽しむための拍手という感覚に導くと。

宮原 そうです。それはプロレスラー側がやるべきことです。それには僕らが戸惑っているわけにはいかないじゃないですか。やる側が楽しまないと見る側だって楽しめない。

宮原選手の入場シーンは本当に長い歳月をかけて地道に積み重ねてきた結果、定着し完成品となったものだっただけに、それを成立させる要素の一部がないというのは本当に大変だと思います。選手によっては無観客試合でも気にすることなくできたという人もいますが…。

宮原 そういう選手はしょっぱいと思います。それってお客さんの声を拾えていねえんだろうって。諏訪魔選手のようなアスリート系の人は気にせずやれるんだろうけど、僕は完全にエンターテイナー系なのでモロに影響を受けてしまう。

この期間中にアジアタッグと世界タッグに挑戦したじゃないですか。3月までの三冠王者としての防衛戦を含めると、一年でヘビー級のタイトル3つに絡むのって珍しいですよね。でも、アジアタッグと世界タッグが獲れなかったのはそういった影響もあったのかと話を聞いて思いました。

宮原 そこはたぶんあったでしょうね。もちろん100%を心がけてやってはいたと思うんですけど、じっさいは何かが足りなくて獲れなかったんだと思います。だから、チャンカンは相手云々よりも手拍子、拍手の中でちゃんと100%を出せるかというのが課題になるでしょう。

今のプロレスで
一番必要なのは明るさ

そういう意味では、黒潮“イケメン”二郎のような人が横にいるとノリがよくなるのではないですか。

宮原 うん、声を出すタイプだし、ああいう人と絡むのは必然だったのかもしれない。向こうも海外で活動するはずがこの状況でいけなくなり、とどまったことでこういう形になったという点では必然だと言えるし。

全日本に上がるまでの経歴がまるでバラバラのユニットが結成された(黒潮“イケメン”二郎、フランシスコ・アキラ、ライジングHAYATOとの「ケントとイケメンとアキラとハヤトの大冒険」)わけですが、どうしてこうなったんですか。

宮原 なんでですかねえ。僕もわからないです。基本的にユニットがあまり好きじゃないんですよ。タッグマッチが得意じゃない。誰かと組んでいると、心の中で「俺と比べると大したことないな」と思ってしまうんで。

味方の顔をしつつ頭の中ではそんなことを考えていると。

宮原 自分でもそれじゃいいチームにはならないだろってわかるんですけどね。だからこのユニットもどれぐらい持つかですよ。うまくいくかどうかはまだわかない。まあ、皆さんピュアなんで宮原健斗のいいエキスを吸ってくれればいい。

うまくいくかどうかわからないのに正式なユニットにしちゃったんですか。

宮原 あれは流れで。(ユニット名も)イケメン選手が考えたんですよ。でも、明るいチームだとは思いますよ。今のプロレスで一番必要なのは明るさですから。

世の中がこういう状況だけにそれは言えますね。

宮原 勝敗以上のものとしてそれを提供しないと…大会が終わって帰る皆さんを見ていてそう思いました。だからこそメインイベンターにはメッセージ性が必要になってくる。勝つことは当たり前として、それを伝えるために宮原健斗が締める。声によるやりとりができない中でそれは高いハードルなんですけど、それでも勝敗以上のメッセージを伝えることで明るさを持ち帰っていただきたい。そこをこのカーニバルで打破します。全日本プロレスを見にいって、宮原健斗を見たら明るくなれたって言ってもらえるようにこれからしていくためのシリーズだと思っています。

去年のチャンピオン・カーニバル前に話をお聞かせいただいた時は「自分は予習をするタイプで、相手の映像をしっかり見て研究した上で臨む」と言われていました。

宮原 今年も見まくっています。タイトルマッチの時もそうなんですけど、そうやって予備知識を入れてどんな技を出してくるかを頭に入れてやらないと、思わぬ動きをされた時に対応できずケガするリスクが高くなる。それを避ける意味もありますね。肌を合わせたことがない得体の知れぬ相手とやる時も特にそうなんで見ています。勉強することによって自信にもつながるし。

リーグ戦に関しては日々の中で当たっている人たちがほとんどで…元WRESTLE-1勢ぐらいですか、対戦経験が少ないのは。

宮原 同じブロックの芦野祥太郎選手に関してもまだ3回ぐらいタッグで当たっただけで、その時も本格的に絡むことはなかったからほぼほぼ初対決のようなものです。

芦野選手はどう映っていますか。

宮原 負けん気が強くて単純明快にカッコいいと思うし、男臭さが今の若いファンに受けるんだろうなという印象です。レスリング出身というのは知っていても、その部分に関しては僕との闘いにおいてはまだ出ていないので、それも今回の公式戦で味わえるでしょう。

あと、ヨシタツ選手が同じブロックにいます。

宮原 いましたっけ?

いますよ。ヨシタツ選手はなぜ今のユニットに入れていないんですか。

宮原 いやー、もうおじさんですから。

年齢上の問題ですか。

宮原 それに、ここ最近は宮原健斗に対する嫉妬が強くなっていました。日本全国で「ケント」コールが起こるのが、あまり面白くなかったようなんですよ。

そうだったんですか? 入場の時とか先に入ってきて盛り上げてくれていたじゃないですか。

宮原 それが最後の方はやってくれてなかったんですよ。それを見てわかりました。あの人も“自分が一番”タイプだから。

宮原選手からユニットに誘えばよかったじゃないですか。

宮原 いやいや、カラーが違います。

では宮原&ヨシタツ組はどうなるんですか。

宮原 いい大人なんだから、そこはヨシタツ自身で考えてほしい。マンネリになるのが一番よくないじゃないですか。メインイベンター・宮原健斗さえ見ていただければ、タッグとしてはいろんな人と組んだ方がいいと思っているので。

宮原選手が声をかけないからヨシタツ選手は立花誠吾選手の方に興味を抱いちゃいました。

宮原 あー、それでいいんですよ。ヨシタツキングダムとかいってイキイキしているじゃないですか。あの人は他人の上に立った方がイキイキするタイプなんですよ。僕と組んでタイトルマッチに臨むよりも、ああいうところでやった方が絶対にいい。

では、もう宮原&ヨシタツ組は見られないんですね…。

宮原 もういい加減、くどいところがありますしね。たまに空気が読めない時があって、そこで僕の商品価値を下げてしまうところがあるんで。

カーニバル優勝という
結果が必要な理由

昨年のチャンピオン・カーニバルでは戦前に「ジェイク・リー、野村直矢、青柳優馬の若い世代が頑張らなければ全日本の風景は変わらない」ということを言っていて、その通りジェイク選手が野村選手との優勝戦進出決定戦に勝ち優勝戦で当たりました。そこに関しては、その後の手応えは得られたんですか。

宮原 やっぱり、あの優勝戦がきっかけでジェイク自身も一プレイヤーとしての雰囲気が出るようになったと思います。ただ、僕のやることはそこまでで、あとは自己プロデュースですから。野村は今、欠場していますけど、青柳に関してはまだまだ。結局、今も宮原健斗に絡まないとフィーチャーされていない。2月に僕が持っていた三冠に挑戦するまではお客さんを惹きつけていましたけど、そこで獲れずに終わった以後も継続されているかといったらされていない。ジェイクは僕と絡んでいなくても自分自身で注目を引いている。その差がどんどんついている。そういった認識をこのチャンピオン・カーニバルで変えることが青柳にとっての課題でしょう。

思えばNEXTREAMから野村選手、ジェイク選手と一人ずつ抜けていって、最終的には青柳選手も抜けてひとりぼっちになってしまいました。

宮原 誰も残らなかったですねえ。まあ、日頃のおこないが悪いからじゃないですかね。

どっちの?

宮原 僕の。控室でも一人だし、ご飯にいくのも一人。それでも青柳はけっこうご飯に連れていった方なんですけど、ダメでした。離れる時は離れるものなんですよ。確かにプロレスって上下関係がある世界ですけど、いつまでも「師匠!」なんていって敬っていたらトップにはなれないですから。僕は一人が好きなんです。自分のタイミングをタッグマッチで邪魔されるとイライラする。

プロレスはタッグマッチがあって当たり前ですよ。

宮原 それはそうなんですけど、俺の描いている通りにやってくれよ!って思っちゃうんですよね。だからタッグのベルトに縁がないんでしょう。タッグに向いていない。

それを自分で認めてしまう。

宮原 試合後のマイクも自分一人で締めるじゃないですか。パートナーとしては面白くないですよね。

終わるまでずっとそこで待っていなければならないですからね。

宮原 自分の勝利でもあるのにね。でも、今の3人はピュアですから。アキラ選手、HAYATO選手はまだ二十歳だし、イケメン選手は頭おかしいじゃないですか。ああいう選手はあまり深く考えずに、自分のやりたいことができれば喜べるタイプだから一緒にいやすい。そこで深く考えるようになると、なんで俺はこいつのマイクにつきあわなきゃならないんだってなってくるだろうから。

やりたいことはやらせていると。放し飼いですね。

宮原 そもそも自分がチームリーダーだとは思っていないですから。それぞれが干渉することなく好きにやって上がっていけたら、それがベスト。

位置づけ的には…仲間?

宮原 仲間とは違いますね…うーん、なんかいるなあって感じ。

なんかいる!

宮原 いろんな事情が働いて今、一緒にいるという感覚です。一人で突き抜けたい人間なんで、ユニットとしてみんなで盛り上がろうというのがないまま来た。だから今のユニットもそんな感じでやっていくんじゃないですかね。

となると、また一人になる可能性も…。

宮原 ありますよね。でも、そうなったらなったでいい。要はいかに自分が突出した存在になれるかですから。プロレスラーとしては当たり前の感覚じゃないですか。みんなそこを目指してやっているはずだし、目指さなければプロとしてやっている意味もない。

現在の全日本プロレスで一強になりたいと。

宮原 なりたいッスねえ。いろんな選手たちがいることで団体としては盛り上がるんでしょうけど、一プレイヤーとしてそんなことを思ってやっていたら結局は横一線。一強になりたいという思いがぶつかることで闘いになっていくんですから。

昭和の時代のジャイアント馬場さんやアントニオ猪木さんのような存在ですね。

宮原 そうならないと広がっていかないと思うんですよ。全日本=○○ってなった時、誰もが「宮原」って言うようにならないと、馬場さんや猪木さんのように突き抜けられない。そのためにやるべきことは、まずはいい結果を出すこと。そこを外してはなれないんでチャンピオン・カーニバル優勝という結果が必要になってくるわけです。もちろん、その先に三冠奪回というやるべきことがある。ハッキリ言って、チャンピオンでなければ世の中には届かないですよ。チャンピオンになれば届く、じゃないですよ。届かせる必須として、チャンピオンベルトを巻いているという実績は外せない。

自分が負けたことで
「俺もここまで来たか」

宮原選手は二十代で三冠という最高峰に到達しました。一度頂上に立った人間がこれから三十代、四十代、あるいは10年、20年と続けていく中で何をモチベーションにしていくのかというのが興味深いんです。

宮原 将来の目標とか、何に向かってプロレスを続けているのかってよく聞かれるんですけど正直、そこは何も考えていないんですよ。とにかく今、やるべきことを100%やるというだけであって。だって10年前の僕が将来、自分は全日本でやっているとは想像しなかったし、今回のコロナのようなことが起こるなんて1年前は誰も考えていなかった。ということは、先のことなんてどうなるかわからないのだから、今を精一杯やるしかないという考えなんですよね。ましてやこういう現状の中では何をやるのも制限される。ならばその中で最高な形というものを、頭をフル回転させてやらなければならないと思います。 見に来てくれる皆さんも、制限されるのを承知で会場まで来てくれている。いろいろできないことでストレスもあるでしょう。私生活でも仕事でも大変なのに、会場まで来てくれる。こういう世の中だからこそありがたさが身に染みます。だから、100%じゃダメなのかもしれない。リングに上がる僕らが120%ぐらい燃焼するものを見せなければ、満足してもらえない…そんな状況であることを認識すべきなんでしょうね。今の状況は、声を出せない中でそれでも拍手によってお客さんが力を与えようとしてくれている。そんな人たちが「今日はプロレスラーから力をもらった」という実感が得られるには僕らが今まで以上のものを提供していくことで、高い満足感を持ち帰ってもらえるんだと思います。

3・28後楽園の三冠戦は、コロナの影響が次第に深刻化する中で開催されて、あの時点でもマスク着用や声援を飛ばしていいものなのかという葛藤を抱えて集まったお客さんの応援が身に染みて、特別な空間だったと諏訪魔選手が言っていたんです。

宮原 ああ、僕もあの試合の声援と歓声は忘れられないです。僕がバックドロップ・ホールドで負けたことでものすごく全日本のファンが喜んでいて。中には宮原が負けたから、諏訪魔が勝ったからという理由で喜んでいたファンもいたでしょうけど、あれはこの状況の中で全日本のプロレスが見られた喜びが爆発した形だったと思うんです。

本人は負けて悔しかったでしょうけど、後楽園が爆発する中で大の字になった宮原健斗が、また絵になっていました。

宮原 ベルトを1年3ヵ月持ち続けて、その間は自分が負けたことで盛り上がるという経験をしていなくて、もちろん悔しいんですけど心のどこかで「俺もここまで来たか」と思ったのは確かです。それって積み重ねじゃないですか。負けない人間が負けた時のインパクトって、1度や2度防衛したぐらいじゃ絶対に生まれない。

宮原健斗が負けたという事実にある意味価値があるわけで、それはそういう存在にならなければ生み出せないものです。

宮原 そうなんです。ああいう瞬間は、なかなか出逢えるものではないでしょう。試合は負けたけど、積み重ねが形となった嬉しさがあとで映像を見た時にこみあげてきた。だって、立ち上がって喜んでいるお客さんがいたんですよ。そんなに宮原健斗が好きじゃないのかって思ったんですけど、ああいうのを見ると突き抜けなきゃなってよけいに思いますよね。僕が突き抜けることで、負けた時にもっとすごいことになる。

ああ、馬場さんや猪木さんが負けた時のインパクトもすごいものがありました。

宮原 それには勝ち続けることなんですよ。逆説っぽくなっちゃうけど、それを重ねることでプロレスラーは突出した存在になっていくんだと思います。あの試合で負けたことによって、三冠連続防衛記録が歴代タイに終わったじゃないですか。ということは、次に持った時は自分の記録との闘いになり、それを超えれば新記録達成ということになる。ただ、一度1年3ヵ月の長さを経験しているので、いかに大変なのかがわかっている分、キツくなるんだろうなと思っています。

未経験のままやっていた方がラクだったでしょうね。

宮原 ゴールのイメージがわかっているから、その過程の距離もわかりますから。でも、目指しますよ。

シンドいのがわかっていながら。

宮原 それでもなんでやるのかを今、考えたんですけどチャンピオンじゃないのが落ち着かないんでしょうね。今でも入場前にガウンを持ってくると忘れ物をしたかのような感覚になるんです。あれ? ベルトがないな…あ、獲られたんだっていう。

わかりました。それでは、このインタビューはチャンピオン・カーニバル優勝戦に出ることを前提としてやっているわけですが、優勝戦で当たる相手は誰と予想しますか。

宮原 ジェイク・リーに来てほしいというのはあります。諏訪魔選手と三冠戦をやった時に、やっぱり宮原健斗vsジェイク・リーではなく宮原vs諏訪魔で見ているんだなって感じたんです。となるとジェイク次第じゃないですか。僕がお膳立てできたのは去年までですから、本当の意味で諏訪魔という存在を食わないと覆せない。宮原vs諏訪魔の三冠戦が「後楽園史上最大の三冠戦」とされたことを彼自身がどう感じたかですよね。

そこはイケメンさんじゃないんですね。

宮原 イケメンは無理でしょ(即答)。宮原健斗vs黒潮“イケメン”二郎が後楽園のメインだとちょっと弱いですね。

新木場の一騎打ちは絶賛されたじゃないですか。

宮原 あれは新木場で盛り上がるカードです。チャンピオン・カーニバルの優勝戦としてのカードではない。なので今年の優勝戦は2年連続で宮原健斗vsジェイク・リー。そして結果も2年連続で宮原健斗の勝利。それが最高。