スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2021年6月号では、第86回ゲストとして『月刊 格闘無双』にレギュラー出演しているやべきょうすけさん、及川奈央さん、髙阪剛選手が登場、番組の楽しさを語りました。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
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※鈴木健.txt氏 twitter:@yaroutxt facebook:facebook.com/Kensuzukitxt
真剣に物事へ向かっている姿は
選手以外の人たちもカッコいい
やべきょうすけ(MC)
及川奈央(アシスタント)
髙阪剛(解説)
全裸監督公認
格闘技番組MC
『月刊 格闘無双』は2016年10月にスタートして4年半になります。当時、お三方が番組のパーソナリティーをやることになった経緯からまずお聞かせください。
やべ ウチの事務所から聞いた話だと、僕がいろんな格闘技の会場にいっていると。それで選手のことや団体のことに関して、いろんな見え方で伝えてくれているという話になっていたようで、それだったら格闘技をあまり知らない人にも僕目線で伝えてくれるだろうということで話をいただきました。その時点で奈央ちゃん、TKさんのことも聞いてて、この3人でいかがでしょうか?ということになっていました。
及川さん、初めて聞いたような顔をしていますね。
及川 そうだったんですね! 嬉しいです。
やべ ぶっちゃけ、この番組が始まる直前までは僕自身がこの先どうする?みたいな話になってて。僕はそれまでバラエティーを断り続けていたんです。映画とかの番宣は多くの人に見てもらうため出るけど、役者である以上はそこにハマっちゃうとどうしても…という考えがあったんです。そんな時、役者の後輩である山田孝之と「やべさん、今後やってみたいこととかないんですか?」というような話をすることがよくあって、あいつはゴールデン云々よりも深夜ドラマを開拓したい、そのあとは配信の方に向かっていきたいということをその時点で言っていたんです。その時に「やべさんはバラエティーとかも俺はいいと思うんだけど、バラエティーにいくとハマっちゃう可能性があるから、専門チャンネルでそういうのがあったらどうなんですか?」って実は言われてて。それでこの番組の話も孝之にしたんです。そうしたら「サムライTVだったら絶対じゃないですか! プロレスや格闘技が好きな人たちが見る番組なんだから絶対いいですよ」って。
全裸監督の後押しがあったと。
及川 えー、知らなかった。
やべ それで俺がやる!って言って事務所がビックリしたんだから。おまえ、今までさんざんバラエティーやらないって言っていたのにやるんかい!?って。それでも「俺はな、こういう番組を求めていたんや」って言い張って。それぐらい、この番組をやるのが楽しみでした。
及川 私はスカパー!さんで『プロ野球ワイド』という番組に出させていただいたことが何回かあって、私は広島出身でカープファンとして出ていたんです。その流れで、スカパー!さんで格闘技番組が始まるんでやりませんかと、野球の番組の方々に紹介していただく形でした。それまでは両親が見ていたので一緒に見る程度で、格闘技の試合を会場へ見にいったこともなかったですし、テレビでやっていたら見るぐらいのものでした。
その頃の格闘技に対するイメージはどんなものだったんですか。
及川 番組が始まった当初は、VTRを見る時に血を見てしまうと怖いとなっていました。人が人を殴っている音も初めてだったので生々しくて。でも、だんだん見るのが楽しみになっていって、TKさんとやべさんが解説してくださるんで見方がわかってくると、これは別に憎しみ合っているのではなくリスペクトし合ってルールの中で闘っているのだから、怖いと思っちゃいけない、ちゃんとして見ようと思うようになっていきました。そうしているうちに、ほかのメディアやSNSを見て選手の方々の性格を知って、じっさいにお会いした時にすごく好青年だったりかわいらしい女の子だったりするギャップも楽しいなと思うようになっていきましたね。やべさんとTKさんのお二人がいなかったらここまでスーッと入っていけなかったです。本当にありがとうございます。
そこで格闘技はわからないから…と断らなかったことでいい方向に拓けたんですね。
及川 知らない世界を逆に知りたいと常に思っているので、それがここにつながったのは私自身も嬉しいです。
髙阪選手は試合の解説という形での仕事はやっていましたが、番組としてのレギュラー出演になりました。
髙阪 その前に『格闘ジャングル2』という番組があって、小野寺力会長がメインMCをやっていたんですけど、自分が技術解説で出ていたんです。そこからしばらく格闘技の番組がなくなって、番組で格闘技を解説することはなかったんですけど、道場で頑張っている若い選手たちがこれほど総合の世界でなんとかしようともがいている姿を見ていて、これを表に出せる機会はないかと思っていたんです。そういうタイミングでいただいた話だったんで、ぜひぜひという感じでしたね。
TKさん、とてもチャーミングなんですよ、ねえ?
やべ これは僕も奈央ちゃんも、スタッフも同じだと思うんですけど…実はこの番組に大きな分岐点があったんです。最初はそれこそ情報番組としてやっている感覚でした。ニュースと、あとはTKさんのコーナーがあってこの技術はどういうものなのかと解説するというのをやっていたんですけどある時、浅倉カンナ選手がゲストに来てくれた回がありまして(2018年2月)。終わって新年会を兼ねた打ち上げをやったんです。
及川 それが私たちも初めての飲み会でしたね。
やべ そこにカンナ選手も来てくれたんですけど、その場でTKさんが僕らはさっぱりわからない発言をするんですよ。「最終的には仙人の域にいきたい」とか。仙人ってなんスか? 最終的にはチャンピオンとかそういうのじゃないんですか?ってなるじゃないですか。なんでも河原にいって石を探して、それをトレーニングに使うと。
及川 そうすると、ずーっと毎日持ち上げるから指の跡がつくんですって。
やべ それを毎日続ければ仙人の域に到達するという話を我々がちんぷんかんぷんに聞いていたら、カンナ選手が「それ、わかります!」と言って話が盛り上がり出したんです。そこで、なぜTKさんがこういう人だと今まで気づかなかったんだろうと。これは絶対イジるべきだと確信しました。
髙阪 ハハハハハ。
やべ それからは、振るととんでもない答えが返ってくるようになった。
世界のTKが指導する
ネズミ先生とは!?
それまでは隠していたんですか。
髙阪 いやいや、隠してはなかったですけど…普通のつもりなんですけどねえ。
及川 気づくまでに時間がかかっちゃいました。
やべ ワードがすごく面白くて。試合のVTRを見てても、これをTKさんに振ったらどう答えるだろうかとやっぱり考えるんです。「髙阪さん、このアームロックで肩が決まるか決まらないかの瞬間、これ以上いったらケガするじゃないですか。このへんの判断はどう…」と振ると「いやー、我慢すると肩やっちゃうんですよねえ」って言うんです。そこは肩をケガするというのが、普通の解説の言い方じゃないですか。
及川 これはTKさんだけなのかって思いました。
やべ そこは僕らも知りたいじゃないですか。でも、格闘家の方がゲストで来るとけっこう共通しているんです。なんかケガの自慢話みたいになっているんですよ。「俺、5日も飲み続けてんだよ」とか「もう3日も寝てない」とかいう自慢話があるじゃないですか。格闘家同士の会話になると、疲労だ剥離だ粉砕だって何種類もの骨折の仕方とか、何回骨折したかとかで話が弾んでいるんです。
及川 本当は大変なはずなのにあまり悲壮感がなくて、TKさんが話すと面白く感じてしまうんです。私たちはそれを引き出したいんですよね。オープニングとエンディングでTKさんの話をけっこうしますよね。それで引っ張れるんで。TKさんがトレーニングしているお部屋にネズミの…なんでしたっけ?
髙阪 はいはい、ネズミ先生。
及川 そう、ネズミ先生! その前でトレーニングをするっていうんですけど、私たちとしては「ネズミ先生ってなんですか?」ってなるじゃないですか。それで、グループLINEで画像を送っていただいたんです。ちっちゃいネズミのぬいぐるみが4体…本当にちっちゃいんですよ!?
髙阪 UFOキャッチャーで捕ったものなんですけど。
髙阪選手が捕ったんですか。
髙阪 いえ、ウチの息子たち。それをプラスチックスのケースにぎゅうぎゅう詰めで置いてやると、トレーニング中にキツいなあ…とくじけそうになって、パッと目を向けるとネズミ先生が見ているからやんなきゃダメだってなれるんです。先生ですから、いろいろ教えがある。
やべ ねっ、仙人を目指している人の考えってわからないでしょ?
及川 でもそういう一面がかわいいんです。こんな大きな体をされているのに、そんなちっちゃい先生の言うことに対して忠実だという。
ネズミだけにチュウジツ。
髙阪 腕の角度がもうちょい内側じゃね?とか言ってくれる。
藤原組長みたいですね。
髙阪 ホントなんですよ!
誰も嘘だなんて言ってないです。
髙阪 階段の走り昇り降りをやる時もバンバン言ってくれる。「おい、遅いぞ。脚が全然上がってないぞ」というように。
及川 こういう話をする時のTKさんは真顔です。
やべ こういうことをゲストの選手に言って、どう思います?って聞くと意外と「わかります!」っていう人が多いんですよね。自分に甘くならないよう厳しくする対象として何かを置いておくというのは、聞いたら僕らも理解できるんですけどTKさんの場合、そういう説明がないままいきなり言い出すんで。
及川 いきなり「ネズミ先生が言うんですよ」から始まりますから。
やべ それを番組で言ったらこの人は何を言っているんだろうってなるので、僕らがこういうことですよね?って振って「そうです!」となって、ようやく視聴者にも伝わるという。
及川 その時のTKさんがとても嬉しそうなんです。
髙阪 五十を過ぎると説明するのが面倒臭くなるんですよ。自分の思っていることを…言っちゃうんだなあ。
及川 言っちゃうんだなあ!
やべ だなあ! 今のですよ。
こういう感じで説明を飛ばして先に口から出ると。
やべ 「言っちゃうんですよね」じゃなく、この諦めた感がTKさん。
髙阪 いちいち「ネズミ先生というのがいて…」と言う部分が面倒臭い。自分の中で成立しているものはそれがすべてなんで、もういいやみたいな。
やべ だから番組MCとしてやべを置いてみたいな感じだったのが、わりと早い段階でよくないと思って。僕は基本的に司会進行ができるタイプではないんですよ。奈央ちゃんはアシスタントではなくて、実は裏進行役なんです。奈央ちゃんがいないと、この2人でやったらどこまでも違う方向にいってしまう。
及川さんが舵取りだと。
やべ そのポジションにいてくれた方が僕も自由にできるんで。最初の頃は真面目に全部説明していました。でもTKさんが面白いことを言ったら僕が食いついて、どこまでも膨らんでいく。そこで奈央ちゃんが「では、次のVTRいきましょう」って止めてくれる。その方がいいと思って。そこからは番組がメチャメチャ流れ出して。ゲストの方も初めて出るまではやっぱりどんな番組かって構えるんですけど、出演したあとはみんなフレンドリーになって帰ります。試合のところはTKさんに真面目に解説していただいて、それ以外のところはボケていただいて、僕が突っ込む。
及川 お二人のそのコンビネーションが本当にピッタリなんです。
試合のところはちゃんと解説しないと本末転倒になってしまいますからね。
髙阪 そこはプロですから(ドヤ顔)。
2人のノリの中に自分も入っていきたいとは思わないんですか。
及川 あっ、本当は入っていきたいんです! でも時間もありますし…。
やべ そういうところが頭に入っているのが奈央ちゃんですよ。たまに入ってきて、こっちが振り返すんですけど「はい、それでは次にいきましょう」ってスッとかわされる。
及川 フフフフ。フィットネスのコーナーも楽しいですよね。あれが始まってまたガラッと空気が変わりました。
髙阪 本当はそこをもっと厚くやりたいんですけど、話が長くなると削られるという。
やべ 実技のコーナーということで、この選手が決めるこの技の過程はどういうものなのかというのをTKさんが実技を交えて解説するんです。
及川 やべさんに技をかけるんです。
やべ 今はコロナということで接触を避けるべく休んでいるんですけど、その実技のコーナーでも僕は格闘技をあまり知らない人の立ち位置で、バックマウントからのチョークスリーパーって、格闘技の歴史の中でどんだけ繰り返されてきたんだと。もういい加減、こうならないやろ、なんでいつもこうなるねん、対策あるやろっていう素人的発想ですわ。それで、こうやったら絶対大丈夫だっていうのを僕が考えるんです。素人だったら誰でも考えるようなことですよ。
素人のおっちゃんがプロ野球中継を見ていて「こうすればホームランを打てるのに、何やってんだよ」ってテレビに向かって言っているようなものですね。
やべ そう、それ。TKさん、俺がバックマウントからのスリーパーをかけられない方法を考えましたよって言って、じっさいにやるとあれ? あれ?って、結果的には極められる。それによって、素人が見てもやっぱりそうなっちゃうんだってわかるじゃないですか。逆にTKさんはそうならない方法も知っているんで、それも教えてもらえる。
及川 私たちもそれを見せてもらうことで具体的に理解できるじゃないですか。だから実技のコーナーはすごく面白かったんです。今は自宅でできる簡単フィットネス。
それはネズミを置かなくてもできるものなんですか。
髙阪 ネズミを置かなくてもいい程度のフィットネス。
やべ これが、何がすごいって最初は見ている方にもお家でやっていただこうというものだったのが…普通はここを動かすことでこう効果があるというのをトレーナーが教えますよね。見ている視聴者にもそれがわかるように僕が聞くわけです。その答えが「どこなんですかねえ?」ですよ! そんな教えあります? でも、そう言いつついろいろやってたどり着いたのは、僕らにとってはトレーニングというレベルになるものが、プロにはアップでしかないんですよ。僕らはすでに死んでいるんですけど、プロは体をほぐす程度ですから、そりゃどこに効くかわからないですよ。
髙阪 考えたこともなかった。
やべ それで奈央ちゃんが「この運動は内腿に効きます」っていうと、TKさんが「そうなんですか!(ニッコリ)」ってなるという。やらせてみて初めて気づく程度のものなんです。
髙阪 自分も新しい発見になるんでありがたいです。
やべ だんだんレベルが上がってきて、最近は全然簡単フィットネスじゃないんですよ。どういうことですかって聞いたら、苦笑いしながら「すいません、今までやってきたのは道場で罰ゲーム的にやっているものなんです」と。ちょっと待て、何ヵ月もかけてやってきたのが実は罰ゲームだったのかと。視聴者からすればやべの悶絶がたまらんってなるわけです。
及川 コワモテの役をやっているやべさんが悶絶しているんですよ。
髙阪 ペッタン(プッシュアップとスクワットの複合運動)、イモムシ(プッシュアップのバリエーション)、トランプ(トランプをめくり出た数だけ反復する)をやらせたんです。
やべ 僕らは“ペッタン”言われてもなんのことかわからないわけです。それで「ペッタンってなんですか?」って聞くとスタッフに「やべさん、そう言いながら全然やらないですよね」って言われる。
及川 でも楽しかったんですよ、ジャージーに着替えて、やってて。私はやりたがりですね。
やべ 楽しみながらやれる生徒と、それを喜びながら教える先生、僕はどうにかしてサボりたい生徒。そうは言いつつイテテテとなっている。でも、しっかりと情報は伝えた上でのジャージーですから。
格闘技を知らない方も
入りやすい番組
その情報を伝えるにあたってやべさん、及川さんは常にアンテナを張っていると思われます。
やべ 僕はもともと小学校の頃から週プロ、ゴング、格闘技通信、ゴン格と買ってましたから、常にそういう情報は見るようにしてきましたし、今ならSNSをチェックしているし、選手との直接的な関係の中で得られる情報もあります。RIZIN LIVEに出させていただいているんですけど、そこで得た情報をこっちで流すという。RIZIN LIVEの話が来た時に格闘無双のスタッフさんからどんどんやってくださいって言ってもらったんで、送り出された以上は土産を持って帰らなきゃいけませんわ。囲みコメントが終わったあとに選手を捕まえて、そこで聞いたことを格闘無双で「こんなことを言っていたんですよ」って使うという。
RIZIN LIVEでいっているのに。
及川 番組で会場取材へいかせていただく時は、インタビューもさせていただいています。TKさんに習ったフィットネスをRENA選手にお伝えしたりとか。
選手に教える!
やべ 「ペッタンって知ってます?」って聞いたらRENA選手がその呼び方を知らなかったんですよ。でも教えたら、すぐできちゃんですよね。
髙阪 女性は女性同士だなと思ったのは、試合終わって(及川さんが)何が食べたいか聞いたら「アイスクリーム」って言うんです。俺が聞いたら焼き肉とか言うやろうなって。こっちが男だったらそういう答えは出てこないでしょう。
及川 その「アイスクリーム」って言う時の表情が女の子なんですよお。もう、母性で接しちゃいますよね。
やべ あと、今は違いますけど最初の頃はディレクターもけっこうムチャクチャだったなあ。会場にいっても選手インタビューをお願いしていないんです。「やべさん、タイミングでいきましょう」って。ちょっと待て待て、選手はOK出してないんかい!?って。「やべさん、選手と仲いいですよね。じゃあ大丈夫でしょう」っていう具合ですよ。囲み取材が終わったところで「やべさん、今いってください!」ですよ。
及川 やべさんじゃないとできないですよ。
最初の頃はわりとゲリラだったんですね。
及川 やべさんも断らないから。
トリオで現場取材したことはあるんですか。
やべ まだないです。でもTKさんの試合を奈央ちゃんと取材にいったことはあります。
髙阪 スネが割れて試合がストップになっちゃったんです。
やべ 僕らは番組でいっているじゃないですか。試合が終わって2人で締めコメをやっていたら、その後ろでTKさんが来てくれた人たちに挨拶しているんですよ、スネやったって言ってんのに。
及川 早く医務室にいってー!って。
やべ それやったら一緒に締めてくれって。ずっと見切れてんですよ。もはや普通の情報番組じゃなくなってますよ。本当の意味での無双状態。
及川 あれは(医務室が空くのを)待っていたんでしたっけ?
髙阪 いえ、待ってもらっていたんです、挨拶が終わるまで。
そういう非日常を間近で見ていてどうですか。
及川 毎回が新鮮です。TKさんから試合のあとに「コタツに入っている気分だった」と聞いたことがあって。
髙阪 KOされる時って、だいたい試合の最中に夢を見るんです。要は意識を失っているんですけど、そういう時ってわりと楽しい夢なんです。高校時代に柔道の夏合宿の時も、落とされるとカキ氷を腹いっぱい食っている夢を見たんですけど、そういうのを何回も繰り返していくと、夢の中だって自分で気づくんです。ミルコ・クロコップとやった時(2017年12月31日)は冬だから、殴られて顔が熱くなっていてコタツの中に潜ってあったかいなあっていう夢を見ている。それがまさに殴られている最中なんです。で、夢の中で「待てよ、これは俺、誰かに殴られているな」って気づく。それが面白くてしょうがない。
面白いんですか!?
やべ 失神した試合を見て、僕らはその経験がないから「TKさん、KOされた時の選手の気持ちってどういう状態なんですか?」って聞いたらそういう答えが返ってくるんですよ。
及川 なんの説明もなく急に「コタツ」っていう言葉が出てくるんです。もう、ずっと聞いていたい。
やべ だからTKさんがRIZINで解説しているのを見るとドキドキしますもん。格闘無双みたいなクセ出ないかなって。でも言わないんですよ。
髙阪 使い分けているんじゃないけど、実況の方がずーっと喋っている間は頭の中で「今、どんな夢見てるんだろうな」って考えています。でもそれは言わずに、お土産を持って帰ってくる。
やべ だからVTRでいろいろ情報は出していますけど、スタジオに戻ると副音声感がありますよね。
役割分担がよくできた副音声ですね。この番組に携わる中で見てきた試合で、特に深く残っている一戦をあげてください。
やべ ……一つっていうのは難しいなあ。僕はメチャメチャ感動するタイプで泣いたりしてますんで、たくさんあるんですけど一番って言ったら、TKさんの試合になりますね。
及川 私も同じです!
やべ もともと髙阪剛という格闘家はもちろん知ってはいましたけど、番組でご一緒させていただいて仲間となって見るのはまったく違う感覚で。入場から試合が終わるにいたるまで一番取材になっていない試合だったと思います。
及川 祈るような気持ちで見るって、こういうことなんだなって思いました。どうしよう…でも自分は何もできないから、祈るしかないんだって心から思えることってそうないじゃないですか。こうして思い出すだけで涙が出てきそうになっちゃいます。いつもは隣であんなにかわいいことを言う方なのに、リングへ向かう姿はオーラが違って、神々しかった。
やべ TKさんだけでなく、ゲストに来られた選手の試合はどれも親心で見ちゃいます。この番組をやっていてありがたいと思うのは、選手だけじゃなくセコンド、レフェリーなど試合として成り立たせる上で支える人たちもフィーチャーできている。興行に対する主催者の思いとか、選手の命を預かるレフェリーとしての葛藤とか…そういう意味でもこの番組を見ていただくことでより広い視点で見られると思うんで。皆さん、カッコいいですよ。真剣に物事へ向かっている姿はすごいと思います。打撃の打ち合いを見ているレフェリーの姿、ラウンドが終わってコーナーに戻ってくる選手を迎えるセコンド、ジャッジをつけている人たちの姿の何もかもがカッコいい。
及川 カメラに映らないところにもそういうものがある。生で観戦するって、こういうことなんだなって思いますよね。
競技者の立場として、これほどの思い入れを持って見られるのはしあわせですよね。
髙阪 はい! そういったことを番組で伝えたい。見ている側ってこうなんだよ、自分はやる側だけど、見る側はこういう見方をして感動してくれているんだよっていうことをやる側にも知ってもらえたらって思いますよね。
やべ 選手だけでなく、レフェリーの方を招いてこの試合についてはどうですかという話を聞いたり、団体の代表さんに語ってもらったり。そういう番組って、ほかにないと思うんです。
及川 格闘医学の先生にお話していただいたこともありました。格闘技を知らない方も入りやすい番組ですよね。私がそれを実体験しているんですから。
それでは最後に、今一押しの選手をあげてください。
やべ いっぱいますけど…この先、この選手はどうなっていくのかという意味で吉成名高選手(ムエタイ)ですかね。ゲストに来てもらったというのもありますし、ラジャダムナンとルンピニーで唯一、日本人で統一したチャンピオンが闘いたい選手がいるということで、名前は出していないですけど那須川天心選手でしょうから。それができなかったとしても、立ち技に関しては彼がいったいどこまでいくかというのは非常に興味があります。
髙阪 一人ですね? 期待をこめてというか、僕も今後どうなっていくかという興味で言ったら井上直樹(総合格闘家)。若いけど、経験を積んできて得ている精神的な知識というか、相当頭の中に情報が詰まっている。なおかつクレバーな試合ができるのは、彼の才能なんだろうなと。普通、いろんな情報が入ったら、特に若い選手だとそれを全部出したくなっちゃうものなのが、状況判断で取捨選択してやれているので。適材適所でチョイスできるあの能力がどうなっていくのか楽しみですよね。
及川 私は先日、インタビューさせていただいたんですけど、大島沙緒里選手。双子のママで、子育てをしながら頑張っている方で、子どもたちが成長していく中で練習の時間が削られても同じ柔道の選手のご主人と力を合わせて頑張っていらっしゃる。打撃が苦手とインタビューで言われていて前回、パク・シウ選手に打撃で負けたからそれでリベンジをしたいとおっしゃっていたので、次の再戦(6月20日)に期待しています。
ありがとうございます。あと半年で5年になりますので、このまま楽しい番組を続けてください。