スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2021年9月号では、第89回ゲストとして「まっする」を主宰するスーパー・ササダンゴ・マシン選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
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経営とタレントと三足の草鞋…
まっするが一番期待に応えたい
スーパー・ササダンゴ・マシン(DDTプロレスリング)
稲田さんは声優としての人間味を
出すためにスペックを低くしている
DDT8・1新宿FACEにて「まっする5」の特別出演者として稲田徹(いなだてつ)さんが発表されました。
ササダンゴ これまでのひらがなまっするは“客演”を呼ばずにやってきたんですが、今回はスペシャルなゲストというか。かつて我々がやっていた「マッスル」が初めて後楽園ホールへ進出するさいに現・純烈の酒井一圭さん…当時は『百獣戦隊ガオレンジャー』のガオブラック役をやっていた特撮ヒーローがプロレスデビューするという形で出てもらいましたけど、ベテラン声優さんである稲田さんが出演します。『旗揚げ!けものみち』のアニメ(DDTとのコラボでアニメオリジナルキャラクター・MAOを演じる)や『ケンガンアシュラ』では関林ジュンという関本大介さんと岡林裕二さんがモデルになっているストロングBJなキャラクターも担当している方で、DDTの後楽園大会やビッグマッチの煽りVでナレーションもやっているんです。それを見て、なんでナレーションなの? この人は出役の方でしょ!ってずっと思っていまして。そうこう言っているうちに、稲田さんが『僕のヒーローアカデミア』のエンデヴァー役として名実ともに大人気声優になってしまって、DDTのナレーションの仕事をキープするのがやっとの状態で。3月のまっする4が終わった時点で打診はしていたんですけど、なかなかスケジュールの都合がつかず、それでも9月1日の後楽園はなんとか出られるということになって。
よかったですね。
ササダンゴ 稲田さんとは1度イベントでお会いしていて(2019年11月10日「アニメイトガールズフェスティバル2019」)、身長が公称184cmあるんですけど…レスラーってサバ読むじゃないですか。稲田さんはあれ、低めに言っているんですよ、たぶん。
どういうことでしょう?
ササダンゴ 声優として、デカすぎると売れないんじゃないかって考えているんだと思います。人間味のある184cm、105kgってなっているんだけど、どう見ても187cm、125kgはあるんです。
確かにその数字を並べられると、人間味が薄れ怪物っぽく伝わります。
ササダンゴ それってスタジオ内とかだと一人いるだけで密になりすぎとなってしまうとか、各所に弊害が出てくる。声優としてはオーバースペックなんですよ。そんな稲田さんですが、じっさいにお話させていただくとすごくプロレスに対しリスペクトがあって、聞けば酒井一圭さんとも二十年来の友人らしく、一圭さんが出たマッスルハウス以後、ずっとマッスルを応援してくれていたと。
会場にも見に来ていたんですか。
ササダンゴ ずっと見に来ていたそうなんです。
そんなデカいスペックなのに、なんで気づかなかったんですか。
ササダンゴ そうなんですよねえ…あの頃は僕がいっぱいいっぱいで余裕なくて、気づかなかったんでしょうね。それがひらがなまっするでは出役としての自分は減って、主に作・演出に専念できて、今のDDTの選手たちを中心にプロレス、歌、お芝居といったものをミュージカル調の演劇仕立てでできるようになったので、稲田さんは声優だけでなく舞台にも立っていますから、そんないろんなことを経験している方が入ったらものすごく面白くなるんじゃないかと思ったんです。
稲田さんが入ることで選手や演者に刺激を与えるということですか。
ササダンゴ もちろんです! 年齢的にはユウキロックさんや今林久弥(鶴見亜門)さんと同じ世代なんですけど、それ以上に勢いとオーラと経験が申し分ない。だから我々的には学びしかない。稲田さんのファンの方にも見てほしいし、いつもの声優や俳優としての姿よりもっと生身の稲田徹さんが出せたらいいなと思っているんです。
昨年1月よりスタートしたひらがなまっするとしての形が確立されてきたタイミングで、別の要素を投入するんですね。
ササダンゴ 本来だったら、今のまっするの中心である若い選手と同じ世代のイケメン俳優を入れるところなんでしょうけど、そこはあえてキャリアが上の人を入れると。
おお、あえて!
ササダンゴ なぜならば僕も刺激を受けたいし、ユウキさんや今林さんにも刺激を及ぼしてほしい。稲田徹という日本のエンタメ界のテッペンにいる人ですから。『僕のヒーローアカデミア』の映画が8月から公開されていますけど、日本のアニメでは今一番の超大作ですよ。『週刊少年ジャンプ』の一番ジャンプらしいアニメ…大人が見ても面白いのがこの作品なんです。ジャンプの芯ということは、日本のエンタメの芯と同義語ですから。その2、3番目ぐらいに名前が出てくる方なんです。
DDTのナレーションをやっているというだけでは、とても伝わってこないすごいことですよ。
ササダンゴ DDTが当たり前のようにやっているのがおかしいんですよ! そんな中で僕はがっぷり組んでやりたいんです、稲田さんと。
心拍数が上がってしまうので
1ヵ月前まで台本は書かない
新しいものが見られるんですね。
ササダンゴ うーん…ここでは言えませんが、ものすごいものになると思いますよ。やっぱり、誰かのお父さんなんでしょうね。誰かのお父さんというのは代表作の設定そのまんまなんですが、誰かのお父さん役をやらせたら日本一なんです。
誰かのお父さんのスペシャリスト。
ササダンゴ 誰かのお父さんの達人。稲田さんの出ているアニメが放送されるたびにそのセリフがツイッターのトレンドワード入りするという。それが稲田さん個人の人気なのかはわからないんですけど…キャラクターの人気という可能性もありますが、ヒロアカで4種類アクリルスタンドが出るとしたら、その中にエンデヴァーも入っていますからね。それがほしくて若い女の子たちがこぞって買うんですよ。
でしたら、まっする5でも稲田さんのアクリルスタンドを販売しましょうよ。まっするもマーチャンダイズにより力を入れないと。
ササダンゴ むしろグッズ先行でいきたいですよね。前回のまっするから5ヵ月の間、僕もいろいろとインプットされましたので、それをどうアウトプットするか…普通は台本って何ヵ月も前に書き上げるものですけど、僕は1ヵ月前までは書かないようにしているんです。
書けないではなく、書かない。
ササダンゴ できれば直前であるほどいい。極力、脳をニュートラルな状態にしておきたいというか、書き始めると自分の心拍数が上がってしまうので、集中するのは30日間だけって決めてやっています。それは医者からも言われていることで。
本番1ヵ月前までは台本を書いてはいけませんと言われているんですか。
ササダンゴ 「坂井さんは一回スイッチを入れちゃうと心拍数や血圧が2割ぐらい上がってしまうから心臓のためにも健康のためにもやらない方がいい」と言われました。2回目のワクチンを打つと、普通の人は1週間激しい運動をしてはいけないそうですけど僕の場合、1ヵ月は激しい運動に匹敵する台本には着手せずと。
リング上でも激しい動きはしないように心がけているんですか。
ササダンゴ 仕事として試合はやりますけど、立ち振る舞いでなんとか。お客さんにはいつも通り体を張って命懸けでやっているように映ってはいると思いますけど、そこはプロの技術によっていい意味でごまかさせていただいていますね。
大変ですね、試合と台本書きを両立させなければならないんですから。
ササダンゴ うん、けっこうね。スーパー・ササダンゴ・マシンを演じている部分もありますから!
そんな爽やかな顔で言われても。
ササダンゴ いやー、楽しみですよね、今回のまっするは。見えちゃっていますから。すべてのお客さんが今抱えている嫌なことや迷い、モヤモヤしている気持ちとかを全部吹っ飛ばしてただただ笑顔になるのが見えている。
前回は明快に見る者を楽しませるエンターテインメントに振り切ってやって、いい形にすることができました。
ササダンゴ 前回がそうなった中で、じゃあ次もと思っても9月1日の時点で世の中がどうなっているかが読めない。正直、本当にお客さんを入れてできるのかという不安もあって、そことの闘いにもなると思うんですけど、まずはフルスイングできることだけを考えて準備はしています。プロレスラー、ローカルタレント、金型工場経営者といろんなことをやっている中で、周りの後輩たちが経験していないことが自分はできているかもしれない。そういうのを形にして表現できる場所がまっするなので。僕はすべての仕事で物語を書いたり、何かを演出したりしたいというのがあって、タレントとしてもテレビやラジオの番組作りでも、経営の仕事でもすべてにおいてストーリーを描いて、ショーをディレクションすることが付随していると思っているんです。
金型工場にもストーリーがあると。
ササダンゴ 経営こそ完全にストーリーです。ビジネスって、そこからどういくか道筋を立てますよね。事業計画と呼ばれるものです。銀行が納得いくような経営プランを立てないとお金も借りられない。20年先の会社の計画も、今はこういう読めないご時世ですから軌道修正を繰り返しながら何ヵ月かに一回は書かないとやっていけないんです。なんでこんな辛い仕事をやってんだって思いますよ。
社長さんはそういうものです。プロレスもタレントも金型工場も、まっするも全部地続きなんですね。
ササダンゴ 地続きであり、それでも全部がうまくいくとは限らない。どれも本来できるはずの基準までいけていないなって思います。
傍目から見ているとどれもちゃんとやっていて完成度も高いと思うのですが、ご本人的はそうではないんですね。
ササダンゴ 三足の草鞋を履くと、成果も1/3だったりします。でもまっするだけはそれがあっちゃいけないというか。自分が今やれている仕事の中で一番チケット単価が高いのがまっするだから。その分、期待も大きいし、一番応えたい仕事だし。
自腹でラジオの放送枠を買って
毎週まっするをやっているような
この数ヵ月の間にインプットされたものの中で、創作意欲をかき立てられたものはなんでしたか。
ササダンゴ 新潟でラジオ番組の放送枠を自腹で買ったんです(BSNラジオ『スーパー・ササダンゴ・マシンのチェ・ジバラ』)。自腹じゃなくてもできるんですけど、陣取り合戦みたいなのをやるのが嫌なんですよ。誰かから仕事を奪って、誰かの仕事が終わるわけじゃないですか。だから、誰とも競合しない仕事しかしたくないんです。そういうのに疲れちゃって。自分が出場することで、誰か一人が試合からあぶれるんですよ。
罪悪感なんですか。
ササダンゴ 罪悪感っていうか、ストレスを感じていますね。人を斬れない部分があって経営者としてはダメなんですよねえ。自腹を切れば台本とか書かずに思い切り好きなことができるなと。
ラジオで何をやりたかったんですか。
ササダンゴ ラジオ“を”やりたかったんですよ!
ラジオっていくらぐらいで枠を買えるものなんですか。
ササダンゴ それは言えないですよ。覆面レスラーにとっての素顔ぐらい、見せてはならないものです。
覆面レスラーにとってマスクは命の次に大切なものですからね、普通。
ササダンゴ ラジオ番組を使った新しいビジネス、表現ですね。自分にとってのビジネスが表現であり、表現がビジネスでもあるので。だから毎週まっするをやっているような感じです。深夜番組の形をしたまっする。それが今の自分にとっていいインプットとアウトプットのバランスを作っている。
まっするの興行前まで溜めずに吐き出した方がいいものなんですか。
ササダンゴ そうですね、まっするで一番いい台本が書けそうな時って興行が終わった直後なんです。
高揚感や達成感によっていい状態になるタイミングですね。
ササダンゴ それが毎週あるのはいいことなんですよ。毎週30分、4週で2時間の興行分になるから…向いている(ニッコリ)。
このトシでそこに気づきましたか。
ササダンゴ 圧倒的にラジオが向いていたんですね。ラジオって、耳に伝えるメディアじゃないですか。つまり声…稲田徹さんは声の仕事ですよね。いつもとは違ったアプローチというか、攻めどころが変わってくるかもしれない。まっするは音楽も武器ですが、もう一個の武器が持てそうな気がします。
わかりました。3月は後楽園のあとに大阪で昼夜追加公演をおこないました。今回は9・1後楽園のあと9・10北沢で昼夜あります。やはり同じ台本による公演になるということですよね。
ササダンゴ そうなんですけど、稲田さんがどうしても10日の昼の部はスケジュールが合わないので、そこは誰かが…。
メインに据えられる演者のポジションをほかの人がやると。
ササダンゴ 演劇ではダブルキャストが当たり前にあるじゃないですか。それでも後楽園と北沢の2度出てもらえるわけですから。
追加公演は、同じ演目を何度もやってみたいという思いによる試みですか。
ササダンゴ いや、単純に言うとビジネス上の事情だけです。回数を増やした方がその分収益も見込めると。
クリエイターとしてのこだわりは?
ササダンゴ ……思いつかなかった。えーっと、そこはプロレスが題材ですからまったく同じものにはならないですからね。
プロレスは生モノだけに100%同じにはなりません。
ササダンゴ そういう部分の変化をむしろ楽しんでいただくためのものです。1回目にやったものがベストとは限らない。3回やったらよりいいものになる可能性もあるので…再現性の高いプロレスをやってみたいっていうのはありますよね。