鈴木健.txt/場外乱闘 番外編

スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2022年5月号では、第96回ゲストとしてスターダムの“モノが違う女”こと現ワールド・オブ・スターダム王者・朱里選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!

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※鈴木健.txt氏 twitter:@yaroutxt facebook:facebook.com/Kensuzukitxt

朱里(スターダム)x鈴木健.txt 場外乱闘 番外編

スターダム所属になってから
芽生えた女子プロを背負う気持ち

朱里(スターダム)

両国で連勝すれば伝説が作れると
思った時、覚悟が決まった

昨日の今日で申し訳ございません(両国2連戦の翌日昼に取材)。疲れは残っていないですか。

朱里 疲れよりも、張りつめた気持ちがあったんでホッとしました。

あれほどの試合を2日間続けてやったあとの夜、プロレスラーは何を食べるものなのかとても興味があります。

朱里 食欲がちょっとなかったんですけど、格闘技で一緒に練習していた仲間が見にきてくれていたんで、終わったあとに合流してステーキを食べました。

やはり肉となりますか。

朱里 何を食べたいと言われたら真っ先に肉しか出てこないです。格闘技をやっていた頃は肉しか選択肢がなかったですけど、今は肉かお寿司って言っちゃいますね。最近、魚も好きになったんで。

ちゃんと寝られましたか。

朱里 6時間ぐらいかな。もっと、ドッときて9時間ぐらい寝ちゃうんじゃないかと思ったんですけど、 スッキリ起きられました。

この取材がなければ9時間寝られたのに…。

朱里 いえいえ! でも、本当にこういう取材をしていただけるのがありがたいです。

両国の2日間はいずれもメインで、しかもまったく違うテーマで臨まなければならかったのは、未体験だけに大変だったと思われます。

朱里 スターダムの赤いベルト(ワールド・オブ・スターダム)を守り抜く気持ちで挑んだ試合でした。ジュリアとはドンナ・デル・モンド(以下、DDM)で一緒にやってきてタッグパートナーでもあり私にとって本当に特別な人です。でも赤いベルトを獲ってもっと自分自身が上に行くために、叶えたい事を実現させるために自分はDDMから抜けるべき時がくると思っていました。それでジュリアとの試合が決まって「ああ、ここなんだな」と感じて。だから3月26日はいろんな思いがあって臨んだ試合だったし、負けるわけにはいかなかった。ここでしっかり勝って自分の新しいユニットを作っていくということを宣言したかったんです。でも、闘って……(しばし考えて)やっぱり最高なやつだなと思いました。これからもどんどん闘っていくライバルだと思ってます。

最高にもいろいろな形がありますが、ジュリア選手からはどんな最高を感じましたか。

朱里 うーん…最高の痛さを味わいました。

マイクの第一声が「いてえよ」でしたからね。 朱里 お互い普段はわかり合ってるけど、試合中は何をやってくるかわからないところがあるのも、本当に面白くて。自分もとっさにアクリル板でぶっ叩きましたけど、相手がジュリアだと普段の自分がやらないことまで出ますね。

闘うことで得られた自分なりの答えはありましたか。

朱里 DDMの時もシングルはやっていたんですけど、DDMとしてやるのは本当にこれが最後なんだなという実感ですね。リング上で闘いながらこれからはジュリアとの潰し合いが始まるんだって思いました。そしてお互い今までの想いや力を出し切った試合になったんだと思っています。頭の中でこうなっていくんだろうなと考えていたことを本当に体感する場だったんでしょうね。

仲違いしたわけではないのですから、ずっとDDMの仲間たちと一緒にいた方が居心地はよかったのではと思います。

朱里 いや…苦しかったですね。

苦しかった?

朱里 ジュリアの作ったDDMでやってきたのですが、赤いベルトを獲って自分のやりたい事叶えたいものを実現させるためにはここから抜けるべきという答えに行き着いたので、それからは同じところへいるのが苦しいというのが本心でした。

同じ控室にはいられないと思ったんですね。

朱里 はい。

そのジュリア戦へ向かうにあたり「最強のボディーガード」として、元アクトレスガールズの三浦(現・壮麗)亜美選手を連れてきました。

朱里 試合を見たことは何回もあったんです。やっぱりあの体格にはポテンシャルを感じていて、自然と目がいってしまうような選手でしたね。ユニット(God’s Eye)のイメージとして私の中にあるのは“限界突破”なので、自分の限界を決めない者たちの集まりにしたい。その意味でも彼女が限界を自分で決めなかったらすごい存在になると思って、1人目のメンバーにしました。

ジュリア選手だけでなく、これからはDDMの他のメンバーとも闘っていくことになります。

朱里 メッチャ楽しみです。DDMに限らず面白い選手はいるんで。ユニットに関係なく、ベルトを持った人間は全員に狙われる立場ですから、否応なくそうなっていくのはわかっているので。

2日目の岩谷麻優戦に関しては、何が得られましたか。

朱里 岩谷麻優はスターダムの1期生としてずっとやってきた人であり、そこに勝たないと赤いベルトを持つ王者ですと胸を張って言えないというのがありました。あとは林下詩美が2021年、ジュリアが2020年、岩谷麻優が2019年の女子プロ大賞だったので、この3人に勝った時に初めて女子プロレスを背負うという言葉が言えると思ったんです。岩谷麻優のような存在って、ほかにないじゃないですか。試合をやっていてもすごいなとしか思えないんですよ。あんな突拍子もないこと、自分にはできないし。

発想力ですか。

朱里 そうです。だからこそ、そこをクリアしたかった。

初日の時点であれほどの重いテーマに向き合って、一日も開けることなく別の重要なテーマに向かわなければならなかった。集中力は格闘技をやっていた頃にも養っていると思われますが、今回は切り替えという作業も必要でした。

朱里 余韻に浸る暇もなく、そこはスパッと気持ちを切り替えないとダメだと思って、自分をそっちの方に持っていった感じでしたね。今回はジュリア戦、岩谷戦であると同時にスターダムにとって初の両国国技館2連戦だったじゃないですか。そこで連勝すれば初めて自分がスターダムのリングで伝説を作れると思ったので、それによって覚悟が決まったところはありました。

プロレスと格闘技を両立させて結果を
出してもとりあげられなかった悔しさ

そして実際に達成しました。

朱里 だからこれって、ありがたいことだったんですよね。ベルトを持ってはいますけど、私にとってはすごい選手2人と当たるのはチャレンジでもあったし、未知だったし、これを経験したことによってさらに自分が進化することができたと思うので、よかったんだと思うんです。

先ほど女子プロレスを背負うという話が出ましたけど、朱里選手の中にその気持ちが芽生えたのは、いつぐらいからだったんでしょう。

朱里 スターダム所属になってから、そういう気持ちはあったんですけど、結果を出していないので言えないと思っていたんです。去年、彩羽匠(マーベラス)選手と対戦した時、本当は「スターダムを背負って彩羽選手とやります!」って言いたかった。でも赤いベルトを巻いていなかったし、所属になってまだそれほど長くない自分が言うのは違うんじゃないかというのがあって。でも、赤いベルトを獲ったことでスターダムを、女子プロレスを背負って立つと言えるようになった。それも林下詩美、ジュリア、岩谷麻優の3人に勝った上ですから、見合う立場になったと思います。

もともと朱里選手はハッスル、SMASH、Wrestling New Classicと女子プロレス団体とは違うところに所属してきた方です。そういうキャリアを積んできながら、女子プロというジャンルを背負う立場になったというのが面白いというか。女子プロレスラーになりたくてこの世界に入ってきたわけではないんですよね。

朱里 女優さんになりたかったんですけどねえ。プロレスも格闘技もやるようになるなんて思ってもいなかった。それが、SMASHの旗揚げ戦で里村明衣子さんと対戦した時、初めて女子プロレスというものに触れて、そこから自分の女子プロレスラーとしての人生が始まったんです。ハッスルの時にやっていたプロレスとは違うものに思えましたし、すべてが刺激的でしたね。それまで感じたことがないものばかりで。

そこから女子プロというものに打ち込み、同時にキックボクシングや総合格闘技も実績をあげながら、このジャンルの頂点に立つまで14年もの時間を要しました。

朱里 その中で本当にいろんな経験をしてきて、でもそういうのってほかの人にはできないし、その経験が14年かけて形になった。スターダムに入ったことで注目していただけるようになったし、こんなにたくさん取材していただけるようになったのもそれまではなかったんで…やっぱり、これまでの経験があったからこそ今につながっているんだなとは思います。だから14年かかりましたけど、その経験は積んできて本当によかったと思うし、それが私にとっての強みになっているので、まだまだ成長していけると思っています。

長くかかったとは思わないですか。

朱里 どうなんでしょう…スターダムの選手たちは、キャリアが短くても輝いているじゃないですか、ベルトを獲ったり。そういう人と比べると時間はかかっているんですけど、いろんな経験をしているから出せるものってあると思うので、それは財産ですよね。

長くかかったと思うかと聞いたのは、キックやUFCでほかの女子プロレスラーの誰もができなかったことを成し遂げながら、それがプロレス界で大々的に評価されることはなかった。でも、ようやくステージが追いついたことでプロレス界にも届いたなと思ったんです。

朱里 ……とりあげられたかったですよね。プロレスと格闘技を両立させて、結果も出しても全然とりあげてもらえなかったのは悔しかったですよね、すごく…そういうのを思い出すと、涙が出てくるので…ちょっと……。

……。

朱里 (涙を拭いて)メチャクチャ悔しかったです。わかってくれる人がいればいいってその時は思っていたんですけど、スターダムに来て注目してもらえるようになって、誰から見ても形として見えて、わかる…(涙が止まらず)すいません、本当にすいません。

やるべきことをちゃんとやっても評価につながらない…あそこでよく腐らなかったと思います。何を拠りどころにしていたんですか。

朱里 格闘技の方は勝っていくしかない、一回の負けが命とりだというつもりでやっていました。結果を出すことが今、やるべきことというか、それしかなかったです。プロレスの方も試合をして、自分を見せていくしかないと思っていました。

ステージが変わるや、ガラッと受け取られ方も変わりました。

朱里 どこに所属するかによって全然違うというのを味わいました。自分自身は変わらぬ姿勢で続けてきたつもりでしたけど、スターダムに入って学ぶこと、新しい発見がすごくあって。考え方もかなり変わりましたね。特に、試合に関しては一新した部分もあって。スターダムは華やかさがすごくあるので、魅せる意識を持った選手が多い。自分をどう輝かせるかをしっかり考えているなってすごく感じて。だからそれに劣らないよう、さらに魅せ方と試合について考えなければいけないなってなったんです。以前からプロレスの試合は動画とかでも見ている方だと思うんですけど、スターダムに入ってからは昔の試合も見るようにして…髙山(善廣)さんやアントニオ猪木さんの試合を見て、これからの自分の試合に関してヒントがあるんじゃないかと思って日々、勉強勉強です。

髙山選手の試合を参考にしていると。朱里選手は長身タイプではないですから、意外といえば意外です。

朱里 髙山さんの試合ってヤバいというか、相手が壊されるんじゃないかって思うぐらい迫力がありすぎて見入っちゃいますよね。タイプは違うかもしれないですけど、相手を潰してやるという気持ちは同じく大事であって、それが試合の中ですごく見えるのが髙山さんであり、自分と違うものを持っている選手ほど発見があるんです。NXTもよく見ますし、新日本プロレスさん、ドラゴンゲートさん、ノアさん…本当にいろんな団体さんの試合を見させていただいています。

今の女子プロレスがあこがれの
対象にならなければいけない

女子プロの試合は?

朱里 東京女子さんを見ると「こんな動きがあるんだ!」ってなります。あとは、昔ではないんですけど、アジャ(コング)さんの試合、長与(千種)さんの試合、引退されましたけどダイナマイト・関西さんや豊田真奈美さんの試合…「ウォッ!? ヤバッ!」ってなる試合が多くて、衝撃を受けまくる感じで。

普通、そういうのはファン時代に経験するものですが、朱里選手はプロになってから見る側としての衝撃を味わっていると。先ほど魅せることについて学んでいると言われましたが、MAKAIで表現したり、SMASHの頃から入場シーンにもこだわりを持ったりしてやっていました。それでもまだ足りないと?

朱里 確かに日々意識してきたことだとは思いますけど、スターダムに所属したからには、自分もどんどん魅せていきたいし、その部分でも上にいきたいので。お客様にも「朱里ってやっぱり、すげえな」って思ってもらいたいし、そのためにメチャメチャ勉強しています。足りている、足りていないというより、今でヨシとしない姿勢ですよね。

こうして到達した最高峰から見る眺めはいいものでしょうね。

朱里 赤いベルトを巻いたことで周りの見方が変わったのは嬉しいことだし、スターダムに所属する前からずっと応援し続けてきてくれた皆さんも本当に喜んでくれたし、お母さん(2020年9月5日逝去)にその姿を見せてあげられたことがすごく嬉しかった。でも、責任とプレッシャーもあります。

追い求めていたものを達成したことで、これからの気持ちの持っていき方に難しさは感じていますか。

朱里 いえ、それはないです。ベルトを獲ってからの闘いだと思っていますし、自分のユニットをスタートさせるわけですからやらなきゃいけないことばかりなんで、目標を達成したからやることがないというようにはならないですね。

達成感を味わっている時間はないと。

朱里 そうですね。やらなきゃ! やらなきゃ!が次から次へと巡ってくる感じです。

達成感を味わうために頑張ってきたのに。

朱里 それぐらい自分は必死なんですね。必死になろうと思っているんじゃなく、必死にならざるを得ない。余裕なんてまるでないです。その代わりではないですけど、充実感はメチャメチャありますね。いろんなことで悩むし、でもそれは一つのことに対しこんなにも好きになって、こんなにプロレスを長くやるとも思っていなかったし、だけどこんなに続けてこられてよかったって今になって思うし。こんなにやってもやっても正解にたどりつかないというか、学ぶことがある、もっともっと進化できるものに出逢えたのは幸せだなってすごく感じます。プロレスに出逢わなかったら、こんなに注目してもらえることもなかったですし、悩む時期もありましたけど結果として今につながっているのであれば、やってきたことは間違っていなかったんだと思えるし。

それにしても何十年と続いてきて、日本に文化として根づいている女子プロレスというジャンルを背負うって大きいことですよね。

朱里 覚悟は決まっているので、あとは見せていくしかないですよね。言葉にすることは誰でもできるけど、それをどう見せていくかは自分次第なので、自分だけでなく周りからも「朱里は本当に女子プロを背負って立っているな」と思ってもらえる選手になりたいです。それには、今は世間のすべてに女子プロレスというものがいき渡っていないと思うので、そういう層にも響くものを見せていかなければと思いますし、世界的にも日本のプロレスが注目されている今こそ、いろんなところに発信していけるものを私が見せていかなきゃいけないですよね。

世間における女子プロとイコールで結ばれるのは、今でもクラッシュ・ギャルズ、ダンプ松本、ブル中野、北斗晶、豊田真奈美という時代の皆さんでしょうね。

朱里 そう思います。それを、今の女子プロレスを見て「こんなにすげえんだ!?」と思わせないといけないし、またあこがれの対象にもならなければいけないんだと思います。女子プロレスを見て、明日も頑張ろうという気持ちになれるものを見せていきたいんです。今まで女子プロレスを見ていなかった皆さんにも響かせる…自分なら、できると思っています。