スカパー!公認番組ガイド誌『月刊スカパー!』(ぴあ発行)のスポーツ(バトル)では、サムライTVにて解説を務める鈴木健.txt氏が毎月旬なゲスト選手を招き、インタビュー形式で連載中の「鈴木健.txtの場外乱闘」が掲載されています。現在発売中の2024年3月号では、第116回ゲストとして全日本プロレス・諏訪魔選手が登場。誌面では惜しくも載せられなかった部分を含めて大公開!!
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全日本にとっていい方向につながるなら
俺的には今の立場に固執するつもりはない
諏訪魔(全日本プロレス)
12月から1月がものすごく
長く感じた。それほどの日々
諏訪魔選手には、石川修司選手との暴走大巨人を含めると当連載で5度目のご登場と、おそらくもっとも多く取材させていただいているんですが、前回が2020年の新型コロナウイルスによる非常事態宣言が出る直前に三冠ヘビー級王座に返り咲いた直後で、その時はまだ観客も声出しができず世の中的にも厳しい状況の中でどうしていくかというのをお聞かせいただいたんです。奇しくも、今回も年末と年明けの選手離脱や闘魂スタイルを掲げた中嶋勝彦選手の全日本プロレス侵攻など、全日本を応援し続けてきたファンが不安を抱いてしまう現状にあるわけですが…。
諏訪魔 それを言ったら、ウチは定期的じゃないけど何かが起きているから、そのたびにそれを確実に乗り越えていくことが重要だって思ってやってきたんだけど。以前と違うのは、昔はやめていく人間の気持ちが理解できなかったんですよ。前の分裂(WRESTLE-1勢が退団)の時とかは、それに対する意地だけで残った気がする。でも、あれから10年ぐらい経つ中で何かあるたびに別れも出会いもあって、出ていく人の気持ちも本当にわかるし、やめるのも辛いものだなっていうのは感じるようになって。
今回、長きに渡り盟友として活動してきた石川選手が離れたわけですが、相談はあったんですか。
諏訪魔 相談というよりも、すごく話しましたよね。当然留めたし…でも石川選手の気持ちもわかるしで。本当、最後まで留めました。だけど石川選手は常識人じゃないですか。気持ちは変わらなかった。そりゃあ、心情的にはずっといてほしかったよ。でもさ、俺はこれを別れだとは思っていないんで。こういう狭い世界なんだから、この先何があるかなんてわからないでしょ。
確かに、今は一度やめた団体にフリーとして戻ってきたり、あるいはもう一度所属になったりというケースは普通にあります。
諏訪魔 そういうことってプロレス界だけなのかもしれないけど。石川選手に限らず、またどこかで交わる日が来るんじゃないかなっていうのが、今までの経験から思うこと。まあ、そう言っている自分もどうなるかわからないしね。
デビュー以来全日本一筋で来た諏訪魔選手がですか。
諏訪魔 いや、みんなそうでしょう。何年後、十何年後にどうなっているかがわかる人なんていないはずだよ。ちょっと不安にさせちゃうかもしれないけど、そういう意味じゃなくてね。
今年でデビュー20周年なんですよね。
諏訪魔 10月でね(2004年10月11日、現石川県知事・馳浩を相手に後楽園ホールでデビュー)。だからまだ(20周年まで)時間はある。今年の10月11日を迎えられるかどうかもわからないよ。そこは気が抜けない。
それは危機感から来るものなんですか。
諏訪魔 うん、すごくありますね。もうね、今回の騒動って言っていいのかアレだけど、この12月から1月がすっげー時間かかった感覚で。ものすごく長いんですよ。こんなにいろいろとあったのに、まだ1月が終わっていないんだ!?(取材の時点で) なんでまだ2ヵ月しか経ってねえんだよ!って思っちゃうぐらい濃密で。ここまで日々何かしらが起こった2ヵ月間というのは、なかなかないよ。
言うまでもなく、ネガティブなことが続いたということですよね。
諏訪魔 それをどうやって整えていくかっていうのを自分が動ける範囲でやってきた。それはみんなに見えていないところでのことだから伝わらないんだけど。
そこは選手と会社側との橋渡し的な立場になりますか。
諏訪魔 橋渡し的なことは俺だけではないんだけど一応、専務ということで会社の方にもいるし、プレイヤーとしては選手の方にいるわけだから。そこに関しては選手会長だった石川選手がけっこうやっていたんですよ。そういう意味で、俺だけじゃなく新選手会長(宮原健斗)がやっていくとは思うけど、それとは違った視点…会社側からの目線でも選手と橋渡ししなきゃいけないなって改めて思いますよ。
両方の立場にある身としては、やはり双方の言い分は理解できているわけですね。
諏訪魔 経営側の考え方っていうのはあるわけで、そこをもっとわかってもらわないとっていうのは確かにあるんだけど、選手だってバカじゃないんだから俺が言わなくたって理解はしていると思うんですよ。ただ、改めてちゃんと話さないとダメだよなとは思うよね。やっぱり、プロレスラーって命を懸けて闘っているからどこのリングならば命を懸けられるかっていうのが大事。やめていく人間って、そこなんだよ。
命の懸け甲斐がある…という言い方になりますか。
諏訪魔 そこは間違いないんですよ。だから何年か経ったら、またこの全日本のリングが命を懸けられる場だと思って戻ってくるかもしれない。本当にそれって、本人にもわからないことだから。
我々の見えていないところでそれほど大変だったんですね。よく表に出すことなく…。
諏訪魔 今、一番思うのはケガしなくてよかったなって。
……。
諏訪魔 怖いですよ、集中できないと。
そうですよね。
諏訪魔 この2ヵ月は本当にそれが怖かった。
鈴木秀樹とは可能性を
感じるから続けてきた
そうした負担を軽減させるためには新選手会長の力も必要になります。
諏訪魔 彼も責任感はあるから。リング上はああいう感じでも、考え方を少し変えてやるだろうなとは思っている。そこは信頼しています。
リング上では激しく闘う関係のままでも、リングを降りたらそういう意味での連携は必要になってくるでしょう。
諏訪魔 うん、そこはやらないとね。だから今までずっと続いてきた彼との関係性はちょっと変わってくるかもしれない。でも、それで全日本プロレスにとっていい方向につながるんだったら、ここを守るためならね。リング上に関してはぶっ倒すのみだけど。そういうのも含めて、時代は流れているって思いますよ。宮原選手会長も、青柳優馬もどんどん前に出ていくのが役割だし。俺的には今の立場に固執するつもりもないんでね。いい形でここ(全日本)を上げていくようにやっていけたらいいっていう考えなんですよ。
今までは下が伸びてきたら力でねじ伏せるぐらいの姿勢でしたよね。
諏訪魔 闘う姿勢はそのままだよ。でも、若い人間の気持ちっていうのは俺より若いやつじゃなければわからない部分もあるんですよ。それに当たるのが宮原や青柳であって、俺がどうこうじゃないからね。だって(田村)男児や(青柳)亮生たちって、俺の子どもぐらいのトシだよ? そんなに年代が違う連中と同じ目線になるのって、なかなか難しいって思うもん。もちろん、難しくても自分なりに話はしていきたいと思うけど、日々のコミュニケーションは選手会長や青柳の世代に任せた方がいい形になると思うんですよ。そこを放ったらかしにするのがまずいことであってね。まあ、親父目線ですかね、自分は。
年齢的にはそうなりますね。今はその世代の中では田村選手と組んでいますが、それほど時間をともにしても子どものような感覚になるものですか。
諏訪魔 そう、それぐらいの年の差はあるから…でもあいつ、なんか俺にタメ口きくんだよな。
昔の諏訪魔選手だったら血を見るじゃ済まなかったですよ。
諏訪魔 言ってるよ! 言ってはいるけど、今の時代だとそれぐらいの度胸があった方がいいのかなとも思っちゃうんだよね。そういう考えになったのって男児や大森北斗、亮生たちの世代が入ってきた頃だったんですよ。俺らが若い頃だったらあり得ないような距離の取り方なんだよね。それを感じた時に、これは受け入れた方がいいんだろうなって思って。
以前の取材で「石川選手と組むようになって自分自身、もうカッコつけなくていいんだと思った」と言われていたんですが、その影響もあるんでしょうか。
諏訪魔 ああ、そうだね。あの頃は石川選手に引き出してもらって物事をフラットに考えられるようになれた。そこからは自然でしたよ。それまでは、俺自身が諏訪魔という枠にハマっていたんだよね。
諏訪魔というプロレスラーはこういうものだという固定観念?
諏訪魔 そうそう。それに一番凝り固まっていたのが自分だったという。石川選手も、若い世代…選手に限らずスタッフもそうだけど、うまくコミュニケーションをとるにはどうしたらいいかっていうのを考えていたからね。
キャリアを重ねるとはそういうことなのかもしれません。上の人間の方が、下との適切な距離の取り方を考えるという。武藤敬司さんぐらい自然にいけたらいいんですが。
諏訪魔 あの人はそういう意味でもすごいよね。あの頃は気づかなかったけど、そうやって背中を見せてくれていたのかな。今は道場で若い人間を教えているのは優馬だから、俺が直接指導することはほとんどないんだけど、現場(試合会場)でここはこうした方がいいっていうのは言うようにしています。直接教えているのはEvo女だけ。そこに関しては、石川選手とも一緒にやっていくことになるんで。全日本からはいなくなるけど、そういうところも責任感が強いんですよ(取材後、石川のEvo女GM就任が発表される)。
口のきき方といえば、鈴木秀樹選手ですが…これ、完全に巻き込まれていません?
諏訪魔 えっ、俺、巻き込まれてんの?
うまくいくんだかいかないんだかの状態が3ヵ月以上続いているじゃないですか(世界タッグ奪取前の取材)。これでいいのでしょうか。
諏訪魔 いやあね、いいのかなんなのかわからないでやっているから、いいのか?って聞かれてもなー。
よくなりそうな雰囲気はそこかしこと出てくるんですけど、また揉めて。
諏訪魔 トライ・アンド・エラーなんだよなあ。
いや、よく持続しているなと思います。
諏訪魔 でも(鈴木とのタッグに)惹きつけられるものもあるし、同じベクトルの方を見たら、すごいものになるっていう可能性を感じているんですよ。あれだけ彼は頭も回るし弁も立つし。
いや、見ている分には面白いんですけど、当事者として面倒臭くならないのかと。
諏訪魔 あー、面倒臭いのはしょうがないッスね。
しょうがない!
諏訪魔 前はもっと面倒臭かったからね。組む前なんて、絡んでさえいないのに俺の文句しか言わなかったじゃない。それで何年やってんだよって話でさ。それを思えば、ああだこうだ言いながらも今はこうして(組んで)やっているわけだから、不思議なもんだよね。
いやそうですよ。一番自分に文句を言っていた人間と組むようになるとは想像もしていなかったのではないかと。
諏訪魔 そうだね。彼と俺は色が違うと思っていたし…俺は直球勝負だけど、彼は違う見方でいろいろやってくる。そこがうまく噛み合えば業界に対して何かができる可能性があると思って続けてきた。
ちゃんとしたタッグチームとして機能したらすごいチームです。
諏訪魔 そういう可能性は見えるんだけど、肝心の光が見えないんだよな。まあ、まだ見えていないから別れないっていうのもあるんだろうけど。これでダメだなってなったらすぐサヨナラだよ。
お互い、いいトシの大人になってあれほど人前でバカだバカだと罵り合うってあまりないと思います。
諏訪魔 あれは本当に思っているんだろうね。
そこは認めるんですね。
諏訪魔 俺だって本当に思っているから出ちゃうんだもん、バカバカって。
すごい関係性ですよね、なのに組んでいるって。
諏訪魔 時々、やっててよくわかんなくなっちゃうけどね。ま、そう言いつつ今度の一騎打ち(2・20後楽園ホールで組まれた)で終わっちゃうかもしれないけど。それほど常に別れる危険性をはらんでいるチームって、ある意味スリルじゃない。お互い、何をやり出すか読めない者同士が組んでいるんだから。
中嶋のダーッ? やるなら
ちゃんと続けるべきでしょ
11月に、昼の天龍プロジェクトではUNタッグ王座を懸けて対戦したあと名古屋に移動して、世界最強タッグ決定リーグ戦の公式戦では組んだことがありました。あれもよく気持ちを入れ替えられましたよね。
諏訪魔 そこは入れ替えるしかないじゃない。ある意味、そこはバカにならなきゃできないッスよ。でもあの昼のタイトルマッチはけっこうレスリングやったんですよ。
秀樹選手も「ちゃんとプロレスやろうぜ」と言っていました。
諏訪魔 彼のテクニックは本当に素晴らしいと思うし、ちょっと色は違えども自分のやってきたレスリングに似ている部分があって。そういうのをやれる相手って限られるからさ…彼、何やってたの?
郵便局員をやっていました。
諏訪魔 郵便局員!? あのデカい体で郵便配達していたの!? ほら、やっぱりバカじゃない。なんでもっと早く(レスリングを)やらなかったのよ。誰にも誘われなかったの?
どうなんでしょう、ビル・ロビンソン先生に教わってプロになった方です。そういう会話も全然していないんですね。コミュニケーションはちゃんととれているんですか。
諏訪魔 うーん、俺はとっているつもりでも、とれてないかもわかんない。感性というか、文化が違うのか…わかんねえ男だな。
それでタッグチームをやっているというのが逆にすごいですよ。石川選手との暴走大巨人以降の正パートナーと言ったら鈴木秀樹ってなりますよね。
諏訪魔 そうか、そうなっちゃうな。2人でベルトも獲りたいし…うまくいったらだけど。そこの部分を見極めるためにシングルで闘いますよ。これが出た頃には終わっているかもしれないけどな。
前回、斉藤ブラザーズが「三冠戦が組まれる大会でも世界タッグのタイトル戦でメインを獲りたい」と言っていたんですが、斉藤ブラザーズvs諏訪魔&鈴木ならそれも可能だと思います。
諏訪魔 でも、ここで俺が「よし、やってやるか!」って言ったら鈴木秀樹は絶対に違うことを言うから。揚げ足ばっか取りやがって。そんなことばかりやっていたら、何も発言できなくなっちゃうだろ。本当に面倒臭いやつだな。
なかなかシンドい立場ですね。
諏訪魔 でも、周りにそういう面倒臭いのが何人もいるのも、やり甲斐がありますよ。
ポジティブですね。あと、やはり現三冠ヘビー級王者の中嶋選手について聞かなければなりません。最強タッグの公式戦で対戦しましたが…。
諏訪魔 いや、あの時はほとんど絡んでいなかったんで。その前の(2・21)東京ドームも俺は拳王とばかりやっていたから、イメージとしては前に全日本へ上がっていた頃で止まっている。
佐々木健介選手についていた十代の中嶋選手のイメージ。
諏訪魔 そう。だから最近になっていろいろと騒がせているのは、どうしちゃったの!?ですよ。
もはや別人としか思えない?
諏訪魔 ノアにいた頃をまったく見ていないんで、どう変わっていったのかを知らないから、よけいにそう見えるよね。
実は同期(2004年デビュー)なんですよね。
諏訪魔 トシは一回り(12歳)違うけどね。まあ、どう変わっていようとも現実として三冠のベルトを持っていかれているわけだから、これは全日本の人間としてよろしくない。
ましてや「闘魂スタイル」を掲げています。
諏訪魔 闘魂って言ったって、もう(アントニオ猪木の時代から)かなり時間が経っているわけじゃない。わかるファンも少ないのに、また掘り起こしてやろうとしているんでしょ。それは違う気がするね。本人はそうした図式を作りたいのかもしれないけど、見ていてみんなピンと来ていないと思う。
全日本の年内最終大会(12・31国立代々木競技場第二体育館)の最後を「1、2、3ダーッ!」で締められたことに関しては?
諏訪魔 あれも、それ以後やっていないじゃん。逆に拍子抜けだよね。やるんだったら、ちゃんと続けるべきでしょ(IGFからの警告書が発表される前に取材)。ただでさえ、猪木さんの弟子でもないのにあれをやる意味がわかんないから、全日本のリングであんなことをやりやがって!っていう怒りも湧かない。ひとことで言うなら「何やってんのよ」だね。
何をやっているかわからない人間が三冠のベルトを持っているのは…。
諏訪魔 止めなきゃいけないよね。ベルトがかわいそうだよ。在るべきところへ戻すために、自分がいくタイミングは計っていますよ。鈴木秀樹相手にバカだバカだって言っているだけじゃないんだから…最近ね、鈴木秀樹とやって思ったんだけど、怖いプロレスともう一回向き合うのもいいんじゃないかって。
怖いプロレス、ですか。
諏訪魔 うん。それが、ちょっと前に言っていた「今が全盛期」っていうのに結びつくと思うし。
全日本のファンが諏訪魔選手に求めるとしたら、やはりそこなのだと思います。中嶋選手の灰汁の強さを凌駕できるとしたら、それになるでしょう。
諏訪魔 そういうものを表現できたら20周年に到達できるかもしれないんで。まあ、今の時点では20周年だからってやっておきたいことは何も思い浮かばないし、本当に現時点では10月のことまで考えていられないから。今、すべきことを精一杯やるだけです。